第4話 GAME OVER
ーおそらくこれがホーンテッド・シャトーで開かれたデスパーティ最後の戦いになるだろう。
アルドとエルは建物内を徘徊する魔物に隠れるため、部屋に入る。その部屋は絵画などが飾られている一室で魔物から身を隠すには丁度よかった。
そこで彼、異形頭の男を呼ぶこととした。
アルド「おい!名前が分かったから出てきてくれ!」
大声で叫ぶと魔物に気づかれる可能性があるが、魔物が徘徊する中、エルを連れて探索するわけにもいかないので致し方ない。
エル「うわっ」
突如背後にいたエルから叫び声が上がる。
アルドの影より這い出し者。異形頭の男がそこにはいた。異形頭の男は相変わらず苦しそうな様子だったが、呼び出した当人であるアルドに尋ねてきた。
???「はぁ...はぁ... ワタシの名前が分かったというのかね。
この短時間で!ヒントも何もない状況で!
ではお聞かせ願おうではないか。
ワタシは一体...
ダレでしょう?」
何度も聞いた質問。何度も交わしたやりとり。
アルドはこの理不尽で醜悪なデスゲームに終止符を打つこととした。
アルド「お前の名前は... 日時計だ」
辺りの空間にヒビが入り、割れる。ヤツの『ルール』が、この鏡の世界が崩壊した瞬間だった。
日時計「馬鹿な...何故分かった...おのれ...!!おのれ...!!」
エル「まさか、あの物体が『日時計』とは...。日時計とはてっきり屋外にある建造物のイメージだったけど...」
動揺して自身の頭を押さえる『日時計』、もう彼にはこの世界を維持する力は残されていなかった。
空間が歪み、この場にいる全員が気を失った。
目を覚ました時、アルド達はホーンテッド・シャトーの件の鏡の前に倒れていた。何度も見た光景だ。
いつもと違うのは件の鏡が割れていたこと。そして、アルドが身につけていた腕時計は時計回りに時を刻み、文字盤に描かれている文字も正常であった。
アルド「帰ってきたのか...」
エルの方を見ると、エルはアルドから少し離れたところで倒れていた。気を失っているが、命に別状はなさそうだ。それより気になるのはあの男。
日時計の男である。
蹌踉めきながら立ち上がる日時計の男は、アルドの方へ向かって歩いてくる。
日時計「こんなことがあるというのか... この日時計が作りし、『ルール』が破られるとは... 一日の時を作り出すことができるこの能力が...」
アルドは向かってくる相手に剣先を向け、臨戦態勢をとる。
アルド「お前はここで終わりだ!」
日時計はアルドの発言を嘲笑い、右手の人差し指をアルドに向ける。
日時計「そうはいかんのだ。『グラビティ』!!」
『グラビティ』、鏡の世界で幾度となく受けた重力球の魔法攻撃。しかし、放たれた重力球のスピードは遅く、アルドは難なく回避する。重力球が着弾した場所を見ると、以前ほど破壊力がないように思える。
やはり、この男は自身が定めた『ルール』内でなければ、本領を発揮することができないらしい。
アルド「思ったとおり、あんたの能力はあの世界でしか発揮できないみたいだな」
アルドがエックス斬りを放つ。鏡の世界では捉えることすらできなかった日時計の肉体にダメージが入る。
日時計「...ぐっ!?」
片膝をつく日時計。アルドは幾度もの死線を乗り越えてきた実力者である。そんなアルドを先ほどまで彼が圧倒できていたのは、彼の『ルール』のおかげと言えるだろう。まともな状況下で、単純な戦闘であればアルドに分があるだろう。
-日時計の能力、『THE RULE』は本来の日時計の能力ではない。本来の日時計の能力は『対象の空間に独立した一日の時を作り出す能力』である。今回は『鏡の中』を対象とし、逆転する一日の空間を作り出していた。
対して、『THE RULE』は彼が自ら作り出した能力であり、自分で対象の空間にルールを定めることができる。定めたルール内では無敵とも言える能力だが、デメリットがないわけではない。ルールを自分に有利に設定したり、複雑にすればするほど、発動までに時間を要してしまう。
アルドと対峙しているこの状況で、彼が『THE RULE』を発動しないのはそのためであった。
アルドの猛攻に耐えながら自分に有利なルールを作り出すことは容易ではない。作れたとしても自分も影響を受けるルール、それもこのフロア程度しか影響範囲は作れないだろう。
焦りが見える日時計の男を見てアルドが彼を煽る。
アルド「どうした?さっきまでの余裕がなくなってきてるんじゃないか?」
客観的に見てもアルドが優勢であり、日時計は打つ手がないように思えた。
しかし、日時計が手袋をしている両手を合わせて唱える。それは、新たなルール発動の合図であった。
日時計「ルール発...」
日時計が新たなルールの宣言をする瞬間、その危険性を直感的に感じたアルドが佩いていたオーガベインを抜き、すぐさまアナザーフォースを発動する。
アルド「オーガベイン!」
-アナザーフォース。オーガベインの能力が空間の時を支配する。この空間ではアルド以外は動くことができず、全ての物体は静止する。
当然、日時計もその対象である。動けない日時計に対して、怒涛の斬撃を放つアルド。
アナザーフォース解除後、日時計は血飛沫を上げ、何が起こったかも理解することもできず、その場に膝から崩れ落ちる。
日時計「...な..なんだと..」
倒れた日時計を見下ろし、剣先を突きつけるアルド。
アルド「もう終わりだ。このゲームはあんたの『負け』だ」
日時計の完全敗北。誰もがそれを疑わなかった。そう、日時計本人以外は。
アルドは見誤っていたのだ。手負いの獣の恐ろしさを、彼の往生際の悪さを。
日時計「...ルール発動。『このフロアの魔物を全て倒すまで魔物以外への攻撃禁止』、クリア条件はこのフロアの全ての魔物の討伐」
日時計が設定したルールは攻撃禁止。これにより、アルドが日時計に攻撃することも、日時計がアルドに攻撃することもできなくなった。両者に不利なルールではあるが、この条件で既にアルドと戦う気がない日時計にとっては都合の良いルールである。
アルド「しまった。やられた!」
蹌踉めきながら立ち上がる日時計の男はアルドに告げる。
日時計「ここらでお暇させてもらうよ。今回はワタシの負けのようだ。次はこうはいかないがね」
どうやら日時計の男はこのまま立ち去る様子だ。その様子を見て、アルドが剣先を彼に突きつけ、逃亡を阻止しようとする。
アルド「待て!逃がさないぞ」
アルドの様子を見て、今度は日時計の男が忠告をする。
日時計「おっと。やめといたほうがいい。ワタシに攻撃すれば、ルール違反でキミは死ぬことになるだろう。今度は日時計の作り出した世界ではないから、キミは本当の死を迎えることになる」
アルド「くそっ!」
身をもってルールを破った場合の罰を知っているアルドは攻撃の手を止める。彼がその場から去るのを見てることしかできなかった。
アルド「次は逃さないからな」
アルドの発言を嘲笑うかのように彼は告げる。
日時計「楽しみにしているよ。次の『ゲーム』が始まるまで。次の『物語』が始まるまでね」
そう言い残し、彼は自身の影の中に消えていった。
日時計の男が目の前から消え、一息つくアルド。今は鏡の世界を脱出できたこと、当初の目的でもあるルナの友人であるエルを救出できたことを素直に喜ぶこととした。
エル「..う、う〜ん」
どうやら、エルが意識を取り戻したようだ。
アルド「エル。よかった。気がついたか」
エル「...あ、アルドくんか。どうやら脱出できたようだね」
アルド「安心するのはまだ早いぞ。ここは魔物が彷徨いてて危ないから安全な場所まで移動しよう」
エル「あぁ、分かった。...そういえば、異形頭の男は?」
アルド「悪い。逃してしまったんだ。あと一歩だったんだけど」
エル「そうか、仕方ないな。アルドくん、安全な場所まで案内してもらえるかい?」
アルド「あぁ。もちろんだ。ホーンテッド・シャトーの4Fのテラスに俺の仲間が迎えにきてるんだ。とりあえず、そこまで案内するよ」
エル「あぁ、分かった。頼んだよ」
エルとともに合成鬼竜が待つホーンテッド・シャトー4Fへと急ぐアルド。
4Fの玉座の間から王室へ続く扉は簡単に開き、鏡の世界を脱出できたことを改めて実感する。そのまま、王室のテラスの窓を開けると、そこには合成鬼竜がアルドを待っていた。
合成鬼竜「む、アルド。もう用事は終わったのか?その男が例の行方不明になった者か?」
合成鬼竜に驚いているエルの横でアルドが答える。
アルド「あぁ、鬼竜。用事は済んだ。ホーンテッド・シャトーからエルジオンに戻りたいんだ」
合成鬼竜「あぁ、分かった。しかし随分と早く見つけることができたんだな。まだ一時間も経っていないと言うのに」
アルド「一時間も経ってないだって?もう五日は経っているだろう?」
合成鬼竜「??何を言っているんだアルド。お前がここに入ってからまだ数十分しか経ってないぞ。まぁ、いい、早く乗れ」
やはり、鏡の世界と現実の世界は時間の流れが異なっていたのだ。エルと出逢った時の会話に違和感があったのも、これが原因だろう。
合成鬼竜に乗り込む二人。そのまま、エルジオンに向かった。
エルジオンの街中を歩く女性、ルナだ。
ルナはこちらに気づき、アルドに連れられた男性、エルを見て驚いた様子だった。
エル「ごめん、心配かけた。ただいま」
ルナ「馬鹿!心配したんだからね!」
ルナがアルドの方を振り向き、感謝の意を伝える。
ルナ「アルドさん。彼を探してきてくれてありがとうございました。彼が無事で私も安心しました」
アルド「あぁ。何とか見つけることができてよかったよ」
ルナ「しかし、随分早く彼を見つけることができたんですね?」
アルド「はは...まぁな」
アルドの体内時計では既に五日の時が過ぎているのだが... まぁ、それは黙っておいたほうが話がややこしくならなくていいだろう。
エル「アルドさん。僕からもお礼を言わせてください。助けていただいてありがとうございました」
アルド「おう。これに懲りたらもう肝試しなんてするんじゃないぞ」
エル「えぇ、もう二度としないと思います...」
苦笑いし、顔を見合わせる二人。少しの間を開けて
高らかに笑い出したのであった。
その様子を見て、首をかしげるルナ。
ルナ「短い間に随分仲良くなったのね?まぁ、いいわ」
それからホーンテッド・シャトーの鏡の噂話は次第に薄れていった。もう今ではわざわざ肝試しに行く人はいないだろう。
人々が興味がなくなり、その記憶が薄れていったとき、はじめて噂話は死ぬ。
アルドの時空を超える旅はまだまだ続くのだが、彼が禁忌の箱に触れたホーンテッド・シャトーでの摩訶不思議な体験は、これにて一旦お終いである。
第4話『GAME OVER』 完
逆説と真説のデスパーティ にこら @nicora1017
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