第2話 Day 3
もし、この考えが正しければアイツの名前は...
アルド「分かった!分かったぞ!あんたの名前!答えるから出てきてくれ」
すると異形頭はアルドの影から這い出てくるように現れた。なんて悪趣味な登場の仕方だ。
でも、今の登場の仕方でアルドは確信した。
何故、彼がアルドの影から登場したのか?
全ての答えは鏡にあるとアルドは考えた。
???「回答を聞こうじゃないか?ワタシは一体ダレか?」
異形頭は相変わらずの不気味な嗤い方でアルドに質問してくる。
アルド「あんたの名前は... 『アルド』、つまり鏡の中の俺自身だ」
目の前の闇の存在にむかって自身の名前を叫ぶアルド。
一瞬、時が止まったような静寂が辺りを包む。
静寂を破ったのは異形頭の男だった。
異形頭は高らかに嗤いだし、
???「残念、不正解」
と言い放った。
アルドは信じられないといった顔をする。
それほどまでにこの答えには自信があった。この鏡の世界では人の気配は異形頭を除けばアルドしかいない。最初にアルドを鏡の世界に取り込んだのは、紛れもない鏡に映ったアルド自身だったからだ。
思わず異形頭に問いかけてしまうアルド。
アルド「なっ... じゃあアンタは誰だと言うんだ..!!」
クックックッ、と不敵な嗤い方をする異形頭。
???「答えると思うのか?」
顎に手を当て、少し考えている様子の異形頭の男。
しばらくアルドを観察し、彼はアルドに提案する。
???「でもまぁ、面白い答えではあった。『ルール』上、ゲームオーバーではあるが、少し話をしようじゃないか。アルドくん」
異形頭の男が指を鳴らすとアルドと異形頭の男の影から椅子が現れる。影から出てきただけあって、闇のように真っ黒な椅子だ。アルドは少し警戒してしまう。
???「まぁ、座りたまえ。長話になる」
そう言うと、異形頭の男が椅子に腰を下ろす。どうやら座っても大丈夫なようだが... いまだ警戒を解くことはできないアルドに彼は話しかける。
???「どうした?早く座りたまえ」
今は異形頭の男の言う通りにするしかない。
アルドも椅子に腰を下ろす。座り心地は...悪くはなかった。
???「アルドくんは『時の十二使徒』について知っているかな?」
唐突に話を切り出してきた異形頭の男。
聞いたことがない単語にアルドは首を傾げる。
アルド「『時の十二使徒』?聞いたことがないな...」
やはりそうか、と異形頭の男が困ったように顎をさする。
???「『時の十二使徒』というのは時空の崩壊を狙うもの達、光に仇なす傍に立つ者達...ファントムの器となった者達だ」
アルド「ファントムの器だって!?」
???「そうだ。ファントムの器となった十二人は、時空の研究機関を作り、時の崩壊を企てている。」
???「かく言うワタシもその一人だ」
アルド「あんたもだって!?」
男の異質さはその異形の頭から分かっていたが、『時の十二使徒』とは皆こうなのだろうか。
しかし、この男の話が本当なら目の前の異形頭の男はファントムの化身とも言える。
???「我々は自分の意思ではどうにもできないのだよ、アルドくん。ファントムの意思がまとわりついている限り悪意が生まれてしまう。我々も被害者に過ぎないのだよ」
アルド「...あんたの事情は分かった。でも、このゲームが時空の崩壊と何か関係があるのか?」
???「大いにあるとも。このゲームは、はじめからアルドくん、キミを誘き寄せるための罠だった」
アルドは怪訝そうな顔をする。
アルド「...俺を?」
???「あぁ、そうだ。キミは『時の十二使徒』に危険視されているからね。なにせ、キミは『時の十二使徒』を既に六人も葬っている」
異形頭の男に身に覚えのないことを言われ、驚いた様子のアルド。そんな連中、会ったこと、話したこと、ましてや聞いたことすら今までなかった。
アルド「俺が葬ったって!?そんな奴ら会ったことも聞いたこともないぞ」
驚きを隠せない様子のアルドとは対照的に異形頭の男は冷静沈着といった様子で語る。
???「その通りだ。ここではない時層。『異時層』で起きた出来事だからね。身に覚えがないのは当然だろう」
『異時層』 こことは別の時間軸に存在する世界のこと。『異時層』とはアルドが普段時空を超える旅の中で行き来している未来、現代、古代の時間旅行とは少し異なる。分岐した別の時間軸の世界、そうなり得る可能性があった世界、簡単に言えばパラレルワールドのことである。
アルド「じゃあ、異時層の俺がアンタ達を倒したって言うのか?何のために?」
???「我々はとある目的のために特殊な能力をもった『アーティファクト』を収集していた。その最中にキミに邪魔されてしまったのだ」
???「葬られた六人。ジャスパー、ジール、スタシオン、ジーノ、レイ...そしてマキア。皆良いやつだった。ファントムの意思に縛られている以上、彼らには意思の決定権はなかったのだ」
アルド「その人らも『時の十二使徒』ってやつだったんだろ? あんたと仲良かったのか?」
???「あぁ、そうだ。皆、苦楽を共にした仲間だよ」
やはり記憶はないか、と異形頭の男が小さく呟き、
更にアルドに問う。
???「アルドくん、キミは覚えているか?
キミを守るために時間の輪廻に囚われた男のことを。
花園の中で失われていく記憶を怯えながら、お互いを愛し、想い合う男と少女のことを。
悠久の末に見つけた妹に拒絶されながらも傍にいることを選んだ姉のことは?
自身の運命を呪いながらも強く生きると決めた運び屋のことを、
キミは覚えているか?
ワタシは全てを覚えている。
なぜなら、ワタシが...×××だからだ。
さてあらためて問おう。アルドくん。
ワタシは一体。
ダレでしょう?」
異形頭の男が言っていることは何一つ分からない。
この男は一体何のことを言っているのだろう?
これも異時層の『アルド』が経験したこととでも言うのだろうか?
???「機関はこの鏡の世界にキミを取り込み、全時層からキミを消し去ることに決めたのだ。この鏡の世界でキミの精神を、魂を擦り減らせば全時層からキミの存在は消える」
???「答えることができないのであればゲームオーバーだ、またやり直すこととしよう。そして精神が消え去るまで繰り返すと良い」
???「チャンスはもうそこまで残されてはいない」
3度目の暗闇が近づいてきた。
アルドの目の前が真っ暗になり、その場に倒れてしまう。
目が覚めたアルド。いつものように件の鏡の前で意識を取り戻した。
コツコツとブーツの音が闇の中を響かせる。
こちらに近づいてくる異形頭の男。
彼はアルドに問いかける。もう既に知っている展開。何度も経験した展開だ。
???「さて問題です」
最初を除けば3度目の質問。
???「ワタシは一体ダレでしょう?」
即答できないアルド。それに見かねたのか異形頭の男がその場を立ち去ろうとする。
???「では分かったらまた声をかけてくれたまえ」
コツコツとブーツの音を立て、闇の中に消える異形頭の男。
アルドにはもう "心あたり" も "手がかり" さえ残されていなかった。
しばらく呆然としていると、気づけば辺りは夕暮れになっていた。
コツコツとブーツの音が響いてきたことに気づくアルド。そういえば、0時に異形頭の男に質問された時以来、彼の存在、気配は感じなかった。
彼は夜間には行動しないのだろうか?
今の今までその事に気づかなかったアルド。
初日にこのホーンテッド・シャトーを探索した時も0時前後以外には日中しか彼の気配を感じることができなかった。
異形頭の男の『名前』と何か関係あるのだろうか。上手く考えがまとまらないアルド。
それにしてもこの鏡の世界は人の気配がまったくしない。彼女、エルジオンでココの噂話をしていた女性の友達は一体どこに行ってしまったのか。
初日にホーンテッド・シャトー内はくまなく探した。しかし、外には出られないことからまだこの中にいると考えた方がしっくりとくる。
アルドでさえ外に出ることはできないのに、一般人が外に出ることができるとは思えない。
彼?彼女?そういえば彼女の友達の性別はどちらなのだろうか。アルドは彼女の友達の性別は女性かと思っていた。いや、思い込んでいた。
先入観、アルドはそれに囚われていた。
彼女の友達が男性であれば、ここからの脱出は可能なのだろうか。いや、それでも難しいだろう。
あれ?何か見落としている気がする。
アルドは違和感に気づく。しかし、それが何なのか分からなかった。
しばらくホーンテッド・シャトー内を歩き回っていると、異形頭の男がアルドの前方にいるのが見える。アルドは異形頭の男に聞いてみたいことがあった。
アルド「おい、あんた。ちょっといいか?」
異形頭の男がこちらに振り向く。
???「何だね。ワタシが誰だか分かったのかね?」
アルド「いや、分かってはいないんだけどさ... 少し質問してもいいかな」
顎に手を当て少し考える様子の異形頭の男。リング状の物体、その中心にある柱がくるくると回っている。その頭の物体は一体何なんだ...
???「いいだろう... ノーヒントではゲームは面白くない。ただし、3つまでだ。それ以上は答えない。そしてワタシが質問を正しく答えるとは限らない。さぁ、何が聞きたい?」
質問によれば、嘘をつかれることもあるってことか... しかし、それは異形頭の男にとって嘘をつかねばならないほど核心をついた質問とも言えるだろう。
アルド「ここには俺とあんたしかいないのか?」
???「答えは"YES"だ。この鏡の世界はワタシとキミしかいない」
アルド「以前にここに来た人達は皆どこにいったんだ?」
???「肝試し感覚で来た連中ならここを抜け出せず精神をすり減らし消えてしまったよ。魂を抑留している者もいるがね」
アルド「魂を抑留?」
???「それについてはノーコメントだ。さぁ、あと一つまでなら答えよう」
あと一つか... 少し慎重にいかなければ...
賭けではあったが、アルドは胸の奥で引っかかっていた『ある事』を聞いてみることにした。
アルド「あんたは... 『ルナ』って女性を知っているか?」
ピクッと異形頭の男の指先が反応していたのをアルドは見逃さなかった。
???「ルナ...?はて?知らないな。どうやら質問を無駄に使ってしまったようだな」
この男はおそらく嘘をついている。『ルナ』はこの異形頭の男の知り合いなのだろう。
アルド「嘘だな、あんたはその女性を知っているはずだ。あんた、そんな格好をしているけど、実は人間じゃないのか?」
???「... ルール違反だよ。アルドくん。質問はあと一つと言ったはずだ。悪いが力で制圧させてもらうよ」
珍しく好戦的な態度を取る異形頭の男。
アルドが剣を構えた時、異形頭の男が指先をアルドに向け、魔法を詠唱する。
???『グラビティ』
一度見た技だ。アルドは放たれた魔法を簡単に避ける事ができた。
アルド「悪いが、今回はそんな簡単にはやられないぞ」
???「ソレは悪手だと以前言ったはずだが...そういえば、ワタシの能力を説明していなかったね」
アルドの太刀を華麗に避ける異形頭の男。
さらに説明を続ける。
???「ワタシの能力は『THE RULE』だ。事前に決められたルールの中で勝負することができる。また、ルールを破った者に対しては圧倒的な力で迎撃することができる」
???「ルールその1。制限時間は24時間。それも逆行する時の中だ」
異形頭が人差し指を立てる。すかさず、アルドは異形頭の男に斬りかかる。しかし、剣は空を斬る。
中指を立て、話し続ける異形頭
???「ルールその2。暴力行為禁止。この鏡の世界の中では武器を振るってはならない」
そして、と異形頭の男が薬指を立て、続ける。
???「ルールその3。質問は3度までだ」
???『ゼロ・グラビティ』
その魔法はホーンテッド・シャトー全体を包み、建物全体を押し潰した。そんな攻撃を避けられるはずもなく、アルドは致命傷を負う。
アルドの意識が薄れていく中、異形頭の声が聞こえてきた。
???「ルールその4。ワタシの名前を当てるまで、キミはこの世界を脱出することはできない」
最後のその言葉を聞いた時、アルドは目の前が真っ暗になった。
そして、いつものように件の鏡の前で目を覚ます。
時刻は0時。見慣れた光景、聞き慣れた質問をされ、同じ展開を辿る。
前回のループではなかなか有益な情報を得る事ができたと言えるだろう。
異形頭の男の話をまとめると...
①この世界にはアルドと異形頭しかいない
②魂が抑留している事がある。
③『ルナ』という名前に異形頭の男が聞き覚えがある
これらを踏まえると、異形頭の男の名前が何となくだがアルドには分かった。
アルド「今回で終わりにしてやる」
アルドはそう決意し、歩き出したのであった。
第二話 『Day 3』 完
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