第1話 Day 1
-ホーンテッド・シャトー。その建物は今は廃棄された遊園地トト・ドリームランドの一角にある。まだ遊園地が営業している際、アトラクションの一部、お化け屋敷として利用されていた。そんなホーンテッド・シャトーでの『とある事件』のお話である。
旅の剣士アルドが曙光都市エルジオンを歩いていた時のことだった。前方でお喋りをしている人達から、少し不可解な話がアルドの耳に入る。
エルジオンの女性「ねーねー知ってる?ホーンテッド・シャトーにある鏡の話!」
エルジオンの男性「あぁ、最近噂になってる心霊スポットだろ?確か鏡の中に映る自分は別の自分でソイツに鏡の中に引き込まれるっていう」
エルジオンの女性「そうそう!鏡の中に入っちゃうと二度と出られなくなるらしいし...
実はウチの友達もそこに行ったっきり行方不明になっているんだよね...」
エルジオンの男性「本当か!?やはりその噂は眉唾ではなかったんだな」
彼らは何を話しているのだろう?ホーンテッド・シャトー?鏡?
ホーンテッド・シャトーなら以前アルドも訪れたことがあった。ホーンテッド・シャトーはAD300年のミグランス城をモチーフとしたお化け屋敷である。今はもうアトラクションと言うより本当の魔物が住み着いており、危険な場所でもある。
そんな場所で一般人が行方不明とは、なかなかに危ない状況なのではないだろうか。
アルドが事情を詳しく聞こうと、さきほど噂をしていた男女に話しかけた。
アルド「あの!ちょっといいかな?」
エルジオンの男性「はい?何でしょう?」
アルド「さっきの話詳しく教えて欲しいんだ。その、鏡がどうとかっていう...」
エルジオンの男性「あぁ。ホーンテッド・シャトーの心霊スポットの話か。アンタも物好きだな」
アルド「ははは...まぁな」
エルジオンの男性「いいぜ話してやるよ。ホーンテッド・シャトーの2Fに鏡があるのは知ってるか?
まず、深夜0時前にその鏡の前に立つらしいんだよ。そうしたら0時になった途端、鏡に映ったもう1人の自分が動き出して鏡の中に引き摺り込むんだってよ!」
アルド「鏡の中に引き摺り込まれたは人達はどうなるんだ?」
よくぞ聞いてくれたと嬉々として男性は語る。
どうやらこの男性はこういう類の話が好きらしい。
エルジオンの男性「鏡の中のホーンテッド・シャトーでは夜な夜なパーティが行われているらしいんだ」
アルド「パーティ?」
エルジオンの男性「あぁ、パーティと言ってもただのパーティじゃない。命を賭けたデスゲームが行われるデスパーティらしい」
アルド「デスパーティ...」
怪訝そうな顔をしたアルドを見て、エルジオンの男性は話を続ける。
エルジオンの男性「俺も最初は嘘くさいなって思ってたよ。ただ彼女の友達も行方不明になっているし、割とあそこに行って帰ってこない人も多いらしいしね」
先程まで男性の隣で黙っていた女性が口を開く。
エルジオンの女性「私が... あの子にこんな話しなければよかったんです。あの子、興味もっちゃって...」
アルド「そっか... もしよければなんだけど、俺が探しに行こうか?」
エルジオンの女性「本当ですか!?」
アルド「あぁ。任せてくれ。腕っぷしなら少しは自信があるんだ」
エルジオンの女性「助かります。あの子、友達の名前はエルって言います!よろしくお願いします!」
少し話を詳しく聞いた後、噂話を教えてくれた男性と女性に別れを告げ、ホーンテッド・シャトーに向かうアルド。
ホーンテッド・シャトーがあるのはトト・ドリームランド。エルジオンとは別の浮遊大陸にある。
陸路では行く事ができないため、アルドは自身の仲間である合成鬼竜を呼ぶことにした。
-場面は変わり、合成鬼竜の背中にいるアルド。
アルド「・・・というわけでホーンテッド・シャトーに向かってほしいんだ。鬼竜」
合成鬼竜「見ず知らずの他人を助ける癖を直さないといつか自分の身を滅ぼすぞ、アルド」
アルド「余計なお世話だよ。で、頼めるか?」
合成鬼竜「あぁ、問題はない。では出発するぞ。航時目標点座標AD1100年 ホーンテッド・シャトー」
一瞬のうちにホーンテッド・シャトーの上空に着いた。ホーンテッド・シャトー近辺には着陸できないため、いつもの様にホーンテッド・シャトー王室のテラスに降ろしてもらうアルド。
アルド「助かったよ。鬼竜」
合成鬼竜「帰りは明日のこの時間でいいか?アルド」
アルド「あぁ、その手はずで頼む」
合成鬼竜「了解した。では、気をつけてな」
合成鬼竜と短い会話を交わし、テラスから王室に入るアルド。王室を抜けるとそこには玉座があり、4Fへと続く階段があった。4F西通路を抜け3Fに降りる。そのまま3Fの廊下を抜け、2Fへと降りた。
アルドがその鏡を見つけた時刻は11時50分、2Fの廊下に件の鏡はあった。
アルド「あれか...特段変な様子はないけどな」
アルドは唾をごくり、と呑み込んだ。
刻一刻と0時へと近づいていく。
アルドが合成鬼竜からもらった時計の針がコチコチと音をたてその針を進めていた。
数分の時が経過した時、突如、アルドが声をかけられる。
アルドは気づく。こんな場所で?こんな時間に?肝試しに来た他の一般人だと信じたかったアルド。
-しかしその声は何度も聞いたことがある声だった。
それはまぎれもないアルド自身の声。それも前方、鏡の中から声をかけられていた。
鏡の中のアルドがもう一度 声をかける。
「デスパーティへようこそ」
気づいた時、アルドはホーンテッド・シャトーの廊下で寝ていた。時計を見ると7時、しまった寝ていたのか...
何が変だ。違和感を感じるアルド。
辺りはまだ暗い。いくらホーンテッド・シャトーが暗いと言っても朝7時であればそれなりに明るいはずだ。
もう一つ違和感。それはアルドが時間が知るために事前に合成鬼竜から渡されていた腕時計にあった。その文字板を見たアルドは驚きを隠す事ができない。
アルド「なんだこれ!?文字盤に書かれている数字が反転してる。さっきまで普通の腕時計だったのに...」
よく見ると時計の秒針の回り方も逆である。
アルド「これは...何か変だぞ...」
次第に夜が明け、夕方になる。アルドが知っている時の流れとはまるで正反対であった。
全てが反転した空間にいるような...反転...?
アルドは意識を失う前のことを思い出す。確か、鏡の中の自分に声をかけられて...
アルド「そうか...! ここは鏡の中か。本当に入れたんだな」
コツコツとアルド以外の足音が聞こえる。足音の主が敵か分からない以上、アルドは剣を構え臨戦態勢をとる。
廊下の先からやってきたのは頭がリング状の物体のスーツ姿の男。異様なのはなんと言ってもその異形頭。
リングが通常の人間の頭の位置についており、その輪の中を小さなもう一つのリングが最初のリングと比べて90度ずらして接続されている。
2つのリングで球体を成しており、それが胴体の頭部についている。球体の中心には2つのリングを支える支柱があり、アルドは目の前の形状の物体をこれまで見たことも聞いたこともなかった。
アルド「な、何だアンタは!?」
異形頭の男が話し始める。
???「パーティへようこそ、アルドくん。ワタシが今回のゲームマスターだ。名前は残念だが教えることはできない。それがこの世界の『ルール』だからね」
アルド「ゲームマスター? ちょっと待て俺は人を探してここに...」
異形頭の男はアルドの話など聞く耳を持たないと言った様子でゲームのルール説明を始める。
???「今回のゲームのルールを説明しよう。といってもかなり単純だ。クリア条件はただ一つ」
異形頭の男が右手の人差し指を立てる。
『ワタシの名前を当てろ』
アルド「は!?」
意表を突かれたアルドは思わず声に出てしまう。だってそんなの分かるはずもない。さっき会ったばかりの... それも頭部が異形の人型の生き物なんて今まで見たことがある人なんているのだろうか。
???「それまでキミはこの鏡の世界からは出ることはできないよ、では分かったらまた声をかけてくれたまえ」
コツコツと異形頭の男が歩き始め、廊下の奥の闇に消えていく。
名前?名前と言っても心当たりはまったくと言ってない。それにあんな男の妄言に付き合う必要はアルドにはなかった。アルドは当初の目的であるエルジオンの女性の友達を探すことにした。
歩いても歩いても女性の友達は見つからない。それどころか魔物の気配すら消えてしまっている。時間は... すっかりお昼頃になっており、時計の針は10時を示していた。
廊下を歩いているとアルドと同じように先程の異形頭の男が歩いているのかコツコツとブーツの足音が響いている。何をしているのかは知らないが建物内をヤツは動きまわっているようだ。
とりあえずホーンテッド・シャトーのエントランスについたアルド。しかし、エントランスの扉は固く閉ざされており、アルドの力を以ってしても開くことはできなかった。
では上からはどうだろうと、アルドは玉座奥の王室へと向かう。先ほどまで開いていた玉座から王室へ通じる扉が固く閉ざされており、テラスにたどり着くことすらできない。テラスに行けなければ、当然だが合成鬼竜に助けを求めることもできない。そもそも、この世界に合成鬼竜はいるのだろうか?
アルド「もしかして... 閉じ込められた?」
さきほどの異形頭の男が言っていたことはおそらく真実なのだろう。あの男の言葉を信じるのであれば、ゲームをクリアするしか脱出方法がないと考えるのが妥当なところである。
アルドがホーンテッド・シャトー内を歩き始めてもう何時間経っただろうか。
辺りは再び暗くなり、時計の針は0時を迎えそうになっていた。そういえば暗くなってからはアイツの足音は聞いていない気がする。日中しか活動していないのか...?
廊下の先の闇から異形頭の男が近づいてきた。
そして彼はこう告げる。
???「残念だが、時間切れだな。これにてゲームオーバーだ」
その言葉を言われた瞬間。アルドの意識が遠のく。目の前が真っ暗になり、地べたに倒れるアルド。
このまま死ぬのか...?
アルドが気づくと、そこはスタート地点。件の鏡の前であった。アルドは思わず時計の針を見る。時刻は0時、秒針は... 反時計回りをしていた。文字盤も逆さのままだ。
脱出したのかと思ってぬか喜びをしてしまったアルド。
束の間、コツコツと再び闇の中から異形頭の男が近づいてアルドに声をかける。
???「さて問題です」
アルドは既にその先の言葉を知っていた。
???「ワタシは一体ダレでしょう?」
男の異様な雰囲気、質問、その全てが恐ろしくなってしまったアルドは思わず異形頭の男に斬りかかってしまう。
???「それもまたキミが選ぶことができる選択肢の一つだ。ただ、それは悪手で間違ってはいるけどね」
異形頭の男との戦闘が始まった。
アルドが振るった剣は異形頭の男の胴体を捉えていた...がその剣は空を切る。
たしかに当たっていたはずだ。胴体をすり抜けたと言う以外表現方法がないだろう。
異形頭の男が詠唱を始める。
???『グラビティ』
男が放った魔法は暗黒の重力球であった。その重力球はアルドの体力の9割9分を奪い、消え去った。
アルド「ぐっ...」
???「またしてもゲームオーバーだ、体力が尽きてしまった」
アルドは再び目の前が真っ暗になった。
目が覚めたその場所は件の鏡の前。時刻は0時丁度であった。
その次のシチュエーションはアルドは既に知っていた。
コツコツとブーツの音が闇の中を響かせる。
こちらに近づいてくる異形頭の男。
彼はアルドに問いかける。
???「さて問題です」
最初を除けば2度目の質問。既にもうそれは知っている。
???「ワタシは一体ダレでしょう?」
誰か、誰かこの異様な輪廻から俺を助けてくれ。アルドは心底ココにきてしまったことを後悔していた。
ココは禁忌の箱だ。開けてはいけない場所だった。
さきほどから冷や汗が止まらず背中は寒い。
すまん、フィーネ。お兄ちゃんは帰れないかもしれない。もう人探しどころではなく、自分ですら生きて帰れるかも分からなくなっていた。
返答に困っていたアルド。それに見かねたのか、異形頭の男がその場を立ち去ろうとする。
???「では分かったらまた声をかけてくれたまえ」
そう言って異形頭の男が廊下奥の闇の中へ消える。
この攻略不可能なゲームに付き合うしかない、アルドは本能的にそれを感じていた。
しかし、アルドは何も思いつかない。考えろ考えろ。
アイツの名前だ。何か手がかりはないだろうか。
ホーンテッド・シャトー内はあらかた初日に探し尽くしてしまった。
でも、少し。ほんの少しだけアルドには名前の心あたりがあった。アイツの名前はおそらく、おそらくだけれども。
第一話 『Day 1 』 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます