第4話

 1週間考えてみました。ゆんちゃんとはその間会っていません。忠犬のような待てを会得して、私から連絡するまではその特殊能力を手放さないで置いて、とだけ伝えてあります。半分冗談ですが……彼女はどこまで本気にしてることでしょうか。


 とあるダンスレッスンの日。レッスンが始まる前です。


 決心した私は、マネージャーに話があると呼び出して、ふたりっきりの時間を作ります。そこで私は聞いてみました。


「女の子同士は恋愛に入りますか?」


 マネージャーは理解できないという風に眉をひそめて言います。


「女の子同士なら友達でしょ? それ以上の関係にはなりえないわ」


 恋愛には入らないことを喜ぶべきなのかもしれませんが、私はそうはなりませんでした。


「女の子とだって恋人同士になれます! 恋人以上の関係になれます!」


 普段の私はおとなしく、反発することがありません。そのためか、マネージャーは後ずさりして謝罪しました。


「ごめんなさい。そうよね。決めつけてはダメよね」

「そうです。わかって頂けたようで嬉しいです」

「でも、女の子同士でも恋愛だと主張するようならわかってるわよね」

「はい! わかってます! アイドルは恋愛禁止です!」


 私は私自身で女の子同士は恋愛に入ると決定づけて、アイドル引退を決意しました。


 同日。ダンスレッスン終了後の私服に着替えるよりも前。グループのみんなにそのことを、更衣室に向かうメンバーを呼び止めて話しました。


「そこまでしなくてよくない? そんなこと言ったら、私たちがプライベートで遊びにいったら、恋愛に該当しそうだし……」

「ううん。いいの。私自身が恋愛だと思ってる。アイドルはそれを禁止だとされてる。私は堂々とゆんちゃんと付き合いたいの!」


 アイドルを辞める必要はないと話すのはあかりちゃん。すでに決心を固めている私はそんな言葉では考えを変えません。すると、その言葉を聞いて、メンバーは顔を見合わせて目線で意思いし疎通そつうします。


「実はね」

「……?」


 秘密にしてたことを後ろめたいという感じで言い出しづらそうにしているのです。あかりちゃんの視線は泳ぎ、表情は曇ってます。


「私たちも同じなの……」

「……!」

「ファンの女の子と関係を作っちゃう……いけないアイドルなの!」


 驚愕きょうがくの事実を私が飲み込むのを待たずに、扉がバンッと開かれます。


「そういうこと!」


 開かれた扉にはマネージャーがいました。


「かおるこさん。聞いてたんですか?」

「りんちゃんが辞めるとなるとここにいるみんな、アイドルを辞めないといけなくなるの。私も含めてね」

「え!? かおるこさんもですか?」

「そう! だから、本当のところは女の子同士が恋愛に入るんだったとしてもりんちゃんに辞められたら困るの。そうなるとこのグループは解散することになるわ」

「そうだったんですね」


 なんとも言えない気持ちに駆られました。私だけではなかったという安堵あんど、メンバーに相談せずに悩んでいたという羞恥しゅうち、グループがこれから向かう先への不安、そんな私の気持ちを置いてきぼりにしてメンバーはそれぞれの状況を赤裸々せきららに明かします。


「そうよ。くるみちゃんなんか小学生と付き合ってますもんね」

「だって、小学生かわいいんだもん。しょうがないじゃん」


 くるみちゃんが小学生と付き合っていることをすみれちゃんが、豊満な胸を揺らして明かしました。それを否定するどころか肯定して、くるみちゃんは頬を赤く染めます。


「女の子同士でも小学生はさすがにまずくない?」


 冷静なしずくちゃんが小学生はまずいだろと釘を刺すも……その釘を軽々と抜いたくるみちゃんが答えます。


「問題ないよ! いかがわしいことはしてないもん」


 胸を張り堂々とした態度を変えないくるみちゃんに向けて、あかりちゃんは声を荒げます。


「当たり前だ! してたら引くわ!」


 あかりちゃんの言葉にひるむことなく、すみれちゃんが割って入ります。


「あら、私はしてるわよ」

「「え!」」


 メンバー4人とマネージャーが驚愕するも、ベッドで一緒に寝て夜を明かそうとしたり、くるみちゃんといちゃいちゃしてるのを思うと当然といえば当然です。


「さすがにお相手は小学生ではないけどね」


 すみれちゃんはみんなわかっているであろうことを態々わざわざ言いました。そして、くるみちゃんがしずくちゃんのことを明かします。


「しずくちゃんはむしろ逆だよね」

「逆?」


 なんとなく、想像がつくものも、とっさに私は疑問を投げ掛けました。すると、しずくちゃんは否定せずに交際相手のことを話すのです。


「そろそろ40歳アラフォーになると言ってたわよ。手取り足取り教えてもらってるわ」


 想像通りで安心です。一昔前の作品について詳しい理由がはっきりしました。そして、あかりちゃんは自身で明かします。


「私はそろそろ過去の交際相手の人数が二桁になるわ」


 メンバーの話を聞いて、ほっと胸を撫で下ろします。ほっといたらいつまでも話していそうなメンバーの会話を制止するように、嬉しさのあまり私は声を荒げます。


「私たちはみんな!」


 私の声で静まり返ったみんなは一様に私を見て、続く言葉を静かに待ちます。


「ファンとな関係を結んじゃうアイだったんですね!」


 メンバー全員、そしてマネージャー、計6人の意見が一致。


 バレたらバレた時に考えればいいの精神で交際を継続することにしました。


 ゆんちゃんにそのことを連絡して、いつものように放課後デートをしました。その際に、もう忠犬ごっこはいいんだね。と優しく微笑んでくれました。

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ユリドル 越山明佳 @koshiyama

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