第2話

 私には付き合っている彼女がいます。名前はゆんちゃん。


 ――今から1年ほど前。季節は秋。


 とあるショッピングモールの屋外大型イベントスペースでライブがありました。そこは屋根付きで雨天うてんでもライブが可能です。また、すぐ近くに広い公園があり、特典会を公園でやることが多々あります。


 その日は雨が降らないか心配する必要がない程の晴天でした。太陽に照らされた紅葉こうよう色鮮いろあざやかでキレイだったことを憶えています。特典会は公園で行われ、ファンサービスとして私服での参加です。その時に私が着てたのは花柄のシフォンワンピースでした。


 特典会は5人全員とのチェキ、握手、個別でのチェキ、の順番です。熱狂的なファンは握手と個別チェキを選んでくれます。その時の私の……か……彼女も……そのふたつを選んでくれました。……彼女だなんて……恥ずかしい……。


 個別チェキは現場スタッフが撮影してくれます。撮ったチェキをスタッフさんから受け取り、ファンの方とお話をしながらチェキにサインするのです。私は会話が苦手なため、ありきたりなことしか話すことができません。それでも、ファンの人たちは嬉しそうにしてくれます。皆さん、お優しい。


 サインを終えたら、握手をしてバイバイします。また来てね。なんて言っていいものなんでしょうか。強要しているようで引け目を感じてしまいます。それでも、来て欲しい思いが溢れて言葉が漏れるのです。


 そんな特典会、最後の握手の時、彼女は大胆な行動をしてくれました。


 私のてのひらに1枚の紙を握らせていたのです。その紙には彼女の連絡先と名前、それと「好きです」の一言が書かれていました。ラブレター。女の子から溢れ出る思いを言葉でつづられたかけがえのない一節いっせつ。実際に書かれていたのは一言だけでしたが、私にはもっと深い意味があるのだと感じました。


 不意だったこと、頂いたことに嬉しさがこみ上がっていたこと、そしてなによりもそれをくれた女の子がお人形さんのようにかわいかったこと、それらの要因があったことから私はうっとりとしていて、気づいた時には彼女の姿を見失っていました。


 頂いた紙はポケットにしまうことにしました。捨ててしまうのはもったいない……ではなく、申し訳ない。マネージャーさんに渡してしまっては彼女が注意されてしまう。そんなのは可哀想かわいそう。私が守らなければなりません。


 ただ、どうしましょう。会っていいものなんでしょうか? そこで私はグループ内で特に仲のいいあかりちゃんに相談しました。


「いいじゃん会っちゃえば⁉」


 そんな軽い一言でも行動する勇気を出すのには十分でした。なぜなら、相談しておきながら、心の中ではすでに決めていたからです。そんなの相談する意味なくない? そんなことありません。女の子は自身で心に決めていたとしても誰かに背中を押して欲しい時があるのです。


 彼女から頂いた紙に記載された「ゆん」という名前を確かに心に刻んで、連絡してみるとゆんちゃんからの喜びの声を頂きました。


『一生添い遂げる覚悟です!』


 なんて言われても困っちゃいます。私だってかわいらしい女の子が大好きです。こらえていた感情が溢れかえって、どうなるかわかりません。責任とってくれますよね。


 話してみると驚きの事実を知ることのなりました。ゆんちゃんはなんと!


 同じ高校に通う生徒だったのです!


 当時、私は3年生、ゆんちゃんは1年生でした。ゆんちゃんは気づいてたようですが、私は気づきませんでした。学校で声かけてくれればよかったのにと言うと……


『そんな恥ずかしいことできません!』


 特典会でラブレターを直接渡すのは大丈夫なのに、学校で声をかけるのは恥ずかしいようです。


 特典会なら、一言二言話すだけでいい。また特典券を買ってしまえば、逃げれないという状況になり、なお覚悟を決めることができた、と言います。


 まずはということで、放課後に途中まで一緒に下校しました。「お家どこですか?」と家までついて来ます。そして、翌日からは毎朝迎えに来るのです。なんとも大胆なことをするのだろうと感心しました。


 彼女は見れば見るほど、お人形さんのよう。肌は白く、小柄な体格。瞳にはハートが浮かび上がっています。好き好き大好き! 愛してる! 付き合ってください! と迫ってくるのはもう、反則です。


 初めは女の子同士で付き合うなんてどうなんだろ? いいのだろうか? そんな疑問を抱いていました。でも……でも!


 こんなにもかわいらしいの想いを無下むげにはできません。私はゆんちゃんと交際することにしました。


 どこで私のことを知ったのかを聞いてみると、駅前でライブをしていたのを偶然見かけてそれから惹かれるようになったそうです。


 アイドルである私のことが好きであることから、アイドル活動を優先させてくれます。なんて献身的けんしんてきなのだろうと感銘かんめいを受けました。本当ならもっと一緒にいたいだろう。だけど、長期休暇を除いて、学校が休みの時はアイドル活動があります。彼女は放課後デートするだけで十分だと言うのです。


 喫茶店でおしゃべりしたり、お洋服を選びあったり、お泊まり会したり、とにかくいろんなことをして一緒の時間を過ごしました。恥ずかしがり屋でそのような経験が浅い私にとって、また女の子大好きな私にとって至福でした。


 初めは交際というのは男女間だけだと思っていました。だけど、それは間違いでした。女の子同士の交際もあり得るんだと考えが変わりました。


 それなのに……


 アイドルは女の子同士であっても恋愛禁止!


 に抵触するかもしれないなんてどういうことですか!?

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