第2話
私には付き合っている彼女がいます。名前はゆんちゃん。
――今から1年ほど前。季節は秋。
とあるショッピングモールの屋外大型イベントスペースでライブがありました。そこは屋根付きで
その日は雨が降らないか心配する必要がない程の晴天でした。太陽に照らされた
特典会は5人全員とのチェキ、握手、個別でのチェキ、の順番です。熱狂的なファンは握手と個別チェキを選んでくれます。その時の私の……か……彼女も……そのふたつを選んでくれました。……彼女だなんて……恥ずかしい……。
個別チェキは現場スタッフが撮影してくれます。撮ったチェキをスタッフさんから受け取り、ファンの方とお話をしながらチェキにサインするのです。私は会話が苦手なため、ありきたりなことしか話すことができません。それでも、ファンの人たちは嬉しそうにしてくれます。皆さん、お優しい。
サインを終えたら、握手をしてバイバイします。また来てね。なんて言っていいものなんでしょうか。強要しているようで引け目を感じてしまいます。それでも、来て欲しい思いが溢れて言葉が漏れるのです。
そんな特典会、最後の握手の時、彼女は大胆な行動をしてくれました。
私の
不意だったこと、頂いたことに嬉しさがこみ上がっていたこと、そしてなによりもそれをくれた女の子がお人形さんのようにかわいかったこと、それらの要因があったことから私はうっとりとしていて、気づいた時には彼女の姿を見失っていました。
頂いた紙はポケットにしまうことにしました。捨ててしまうのはもったいない……ではなく、申し訳ない。マネージャーさんに渡してしまっては彼女が注意されてしまう。そんなのは
ただ、どうしましょう。会っていいものなんでしょうか? そこで私はグループ内で特に仲のいいあかりちゃんに相談しました。
「いいじゃん会っちゃえば⁉」
そんな軽い一言でも行動する勇気を出すのには十分でした。なぜなら、相談しておきながら、心の中ではすでに決めていたからです。そんなの相談する意味なくない? そんなことありません。女の子は自身で心に決めていたとしても誰かに背中を押して欲しい時があるのです。
彼女から頂いた紙に記載された「ゆん」という名前を確かに心に刻んで、連絡してみるとゆんちゃんからの喜びの声を頂きました。
『一生添い遂げる覚悟です!』
なんて言われても困っちゃいます。私だってかわいらしい女の子が大好きです。
話してみると驚きの事実を知ることのなりました。ゆんちゃんはなんと!
同じ高校に通う生徒だったのです!
当時、私は3年生、ゆんちゃんは1年生でした。ゆんちゃんは気づいてたようですが、私は気づきませんでした。学校で声かけてくれればよかったのにと言うと……
『そんな恥ずかしいことできません!』
特典会でラブレターを直接渡すのは大丈夫なのに、学校で声をかけるのは恥ずかしいようです。
特典会なら、一言二言話すだけでいい。また特典券を買ってしまえば、逃げれないという状況になり、なお覚悟を決めることができた、と言います。
まずはということで、放課後に途中まで一緒に下校しました。「お家どこですか?」と家までついて来ます。そして、翌日からは毎朝迎えに来るのです。なんとも大胆なことをするのだろうと感心しました。
彼女は見れば見るほど、お人形さんのよう。肌は白く、小柄な体格。瞳にはハートが浮かび上がっています。好き好き大好き! 愛してる! 付き合ってください! と迫ってくるのはもう、反則です。
初めは女の子同士で付き合うなんてどうなんだろ? いいのだろうか? そんな疑問を抱いていました。でも……でも!
こんなにもかわいらしい
どこで私のことを知ったのかを聞いてみると、駅前でライブをしていたのを偶然見かけてそれから惹かれるようになったそうです。
アイドルである私のことが好きであることから、アイドル活動を優先させてくれます。なんて
喫茶店でおしゃべりしたり、お洋服を選びあったり、お泊まり会したり、とにかくいろんなことをして一緒の時間を過ごしました。恥ずかしがり屋でそのような経験が浅い私にとって、また女の子大好きな私にとって至福でした。
初めは交際というのは男女間だけだと思っていました。だけど、それは間違いでした。女の子同士の交際もあり得るんだと考えが変わりました。
それなのに……
アイドルは女の子同士であっても恋愛禁止!
に抵触するかもしれないなんてどういうことですか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます