第一章 三話 仕事と返信がこないLINE

 僕は調子悪い中、仕事に行った。すると、

「君、大丈夫か? 何だか具合い悪そうだぞ」

 と、店長に事務所で言われた。

 僕は無理矢理、

「大丈夫です!」

 強い口調で言った。

「そうなのか、無理し過ぎるなよ」

「はい」

 そう答えて出勤のタイムカードを切った。


 バックルームに行くのが少し怖い。なので、従業員に頼んだ。

「皆藤くーん。ちょっとバックルームから持って来て欲しいものがあるんだけど」

 彼は、不思議そうな顔をしながら僕を見ている。まるで、自分で持ってくればいいのに、というような表情。

「はい、なんですか?」

「ハンガーを十個持ってきてくれる?」

「わかりました」


 彼は皆藤敦かいとうあつし、二十二歳。彼が言うには、父親が日本人、母親がインド人らしい。ハーフだ。だから、皆藤君はヒンディー語、英語、日本語の三カ国語を話せる。頭がいい、凄い。僕なんか日本語しか話せない。


 彼は太っていて背が低い。肌も黒いし。これらがコンプレックスになっているのか、もともとの性格なのか、大人しく気が小さいと僕は感じている。


 以前、皆藤君とお昼休憩を一緒に入った時、彼の大食いには驚いた。大盛りのカレーと大盛りの中華丼を注文し、更に甘いコーヒー二杯と、カルピス一杯、ジンジャーエール二杯飲んでいた。これじゃあ、太るのも無理はない。本人には言ってないけれど。


 まあ、皆藤君は飲食が好きなんだろうな、と思っている。


 彼が戻って来て、

「足りない商品を補充するから、皆藤君どんどん持ってきてもらえる?」

「わかりました」

 何だか不満気な表情だ。でも、僕の状態を店長にも話してないのに、皆藤君に話すわけにはいかない。だから、隠している。他の従業員もあと三人いるけれど、皆藤君と同様だ。


 いつまで隠し通せるかな。とりあえず帰宅したら、愛ちゃんと絵里さんと僕の三人でグループLINE開けたらいいなぁ。相談したいから。


 


 

 仕事を終えたのが夕方六時頃。今の時期は秋から冬に向かっているので、陽が沈むのが早い。いわゆる季節の変わり目というやつ。この調子の悪さはもしかして、季節的なものもあるのかな。分からないけれど。


 疲れたし、調子も悪いので早速グループLINEで話を聞いてもらおう。何も言ってないから、もしかしたら二人とも都合が悪いかもしれない。


 愛ちゃんと絵里さんにそれぞれLINEを送った。<今、三人で通話できる?>と。

 僕は辛いので自室にあるベッドの上に横になった。

(調子わるい……疲れた……)

 と、心の中で呟いた。LINE通話をするのも面倒になってきた。でも、もう二人に送ってしまった。仕方ない、話せるかどうかは分からないけれど、聞いてもらおう。


約一時間後、母が、

「幹人―、ご飯だよー」

 と階下から聞こえる。食べたくない。お昼ご飯も少し食べたくらいで、それから何も食べていない。なので、ゆっくりと起き上がり部屋から出て、

「母さん、僕ご飯食べたくないからいらない」

 母は黙った。そして、

「仕事してきてお腹空いてないの? やっぱり体調悪いんじゃないの?」

 心配そうな表情に母の顔は変わった。

「少し休めば大丈夫だ」

「後ででもいいから食べた方がいいよ」

 僕は何も言わず自室に戻り横になった。

 LINEはまだこない。

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