第二章 二話 酷い男

 俺をふったユリはきっと俺のもとにもどってくるだろう。そんな気がする。電話で別れ話をするのだからよほど顔を会わせたくなかったのかもしれない。要するに気まずいのだと思う。


 さっき、俺が住んでる部屋に不気味な女がやって来た。黒いぐちゃぐちゃな長髪の女。まるで生気が感じられなかった。その女が言うには、「あなたが付き合ってた若い女死ぬよ」と。俺は、は? と思わず口に出ていた。しかも、チャイムを鳴らさず、ノックだった。まるで幽霊と会話しているような気分。その場にいるけれどいないような雰囲気。「あんた誰?」と訊いたら、「あたしは名もなき女だよ」と答え、目線を下を向けて合わせようとしない。気持ちが悪いので、「帰ってくれ!」と怒鳴った。すると、俺は一瞬意識がなくなった。意識が戻った時にはその女は消えていた。一体何だったのだ、と思い身震いした。玄関には水がびっしり浸っていた。あの女、本当に幽霊なのか? 果たしてそんなものがこの世にいるのか、にわかに信じがたかった。


 俺は新しい女を探そうと思い、シャワーを浴びた後、赤いTシャツを着てジーンズを履いた。赤い愛車に乗り、いつものように繁華街に向かった。その時、俺のスマホが鳴った。相手はユリだった。やっぱり来たか、と思い電話に出た。

「もしもし、ユリか。どうしたんだ?」

『アタシの話しを聞いてくれない?』

 彼女は何だか元気がない、どうしたんだ。

「何だ、今、運転中だからあとにしてくれ」

 そう言うと、『車どっかに停めて聞いて欲しい』と泣きじゃくっているようだ。もしかして、好きな男に振られたか? 仕方ないなぁ、と思いながら繁華街の空いている駐車場に車を停めた。

「停めたぞ! どうしたんだ?」

『フラれた……』

 やっぱりか。想像通りだ。

「そんなことかと思ったよ。で、俺に何で電話してきた? 俺のこと振ったくせに」

 そう言うと、沈黙が訪れた。

『ごめんなさい……。アタシにはファルコンしかいないみたい……』

「何だよ、今更。遅いんだよ」

『……』

 ユリは黙っている。そして、

『アタシ達、やり直せない?』

 俺は、きた! と思った。

「好きにしてくれ。俺は恋愛は面倒な人間だ。ヤれればいい」

 大真面目に俺は言った。すると、

『今すぐアタシを抱いて!』

「抱くのはいいが、避妊はしないからな」

『う、うん』

「なんだよ、そう言われて怖気づいたか?」

 再び黙った。そして、

『もし、赤ちゃんできたらどうしよう……』

 ハハハッ! と俺は笑った。

「そんなこと知るかよ。おろせばいいだろ」

『何それ! 無責任!』

「そう思うなら、ヤらなきゃいいだろ。俺はそういう男だ」

『ちょっと考えさせて』

「ああ、だから好きにしろって。ただ、思うのはお前とはセックスの相性

はいい」

 そう言うと電話は切れた。俺は、ケッ! と言った。

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