第277話 魔導砲をつぶせ
生命が助かったとはいえ、カミルの負傷は極めて重かった。魔導砲で片翼をもぎ取られ半身を焼かれ、その上墜落して全身を打撲に骨折、内臓もやられていたのだ。
お口から一気の魔力チャージで致命的な内臓損傷や骨折は治ったみたいだけれど、失われた翼や焼け焦げた左腕なんかは、なめて治してあげる必要があった。結局それから二時間ばかり、私はカミルの身体をひたすらなめ続けた。カミルの意識が戻った後だから、かなり恥ずかしかったのだけれど、これは治療行為だからと自分に言い聞かせながら、何とかね。
驚いたことに、必死で彼の背中をなめ続ける私の眼前で、にょきにょきと翼の骨格が生えてきて、やがて骨の間に膜が形成されて、見る間にもとの形に戻っていくの。サーベルタイガーの眼球を再生させたこともあったけど、私の「なめなめ」パワーは相変わらず規格外みたい……魔獣にしか使えない反則技だけどね。
「カミル大丈夫? どこか痛くない? ごめん、カミルだけを危ない目に遭わせて」
「う~ん、最初はものすごく痛くて苦しくて、このまま死んじゃうかもと思ったよ。だけど、その後にたっぷりこんなご褒美があったから、差し引きプラスだね。得した気分だよ」
何やら意味ありげに微笑むカミル。うっ……「ご褒美」って、お口からのアレとか、なめなめとかよね。改めて口にされると、恥ずかしさが湧いてきてしまう。ま、カミルなりに「気を遣わないでいいよ」って、言ってくれているのだろう。
「翼も戻ったし、もうどこも痛いところはないし、全身元通りに動ける。魔力は目一杯補充してもらったし、またいつでも竜型で戦えるよ」
「だめっ、あの魔導砲がある以上、空からの攻撃はもう無理だよ!」
やる気まで回復しちゃったらしいカミルを、私は必死で止める。カミルのブレス攻撃を使わないと確かに私たちには不利な戦いになるけれど、もう一度あれで撃たれたら、今度こそ彼が死んでしまう。それはダメだ。
「俺も、しばらく休んだ方がいいと思う。目標に向かって誘導され、しかも弾速が不規則に変わるあの魔導砲は、いくらカミルでも回避不能だ。あれを使えなくする方法を考えて、火竜の出番はそれからだ」
「うん? あれを止める方法なんてあるのかい、ヴィクトル兄さん?」
「少人数の精鋭で突っ込んで、壊してしまえばいいだろう」
いつもはどっちかというと慎重派のヴィクトルが、今日はやたらと大胆な意見を言うの。
「でも、あれは鉄製の砲よ? 壊すと言ったって……」
私が疑義を挟むと、ここのところ聞きなれた念話が割り込んできた。
(ほっほっ。のう、妾の存在を忘れてはおらぬか?)
◇◇◇◇◇◇◇◇
私とヴィクトル、そしてカミルにしか聞こえていないだろうその念話の主は、魔剣グルヴェイグだ。
(のうロッテよ、主の魔力を注がれた妾の切れ味を知らぬかの? 鋳鉄の砲身くらいであれば、ひと振りで斬り裂くぞよ?)
「あ、ということは……」
「俺があのいまいましい砲を、グルヴェイグでぶった斬ればいいんだ。さすがに主力兵器だから守りは固いだろうが、深夜にサーベルタイガー部隊と、ロッテの隠密たちが協力してくれれば、とりつくことができるんじゃないかと思う。今夜まで戦線が持ちこたえていれば、実行しよう」
確かに、それはありかも知れない。数万の大軍に潜入するのは普通なら容易でないけれど、今回の場合森の木々が障害となって、敵は街道沿いに縦長の隊列を組まざるを得ない。だから森と夜の闇を利用すれば、気づかれずにかなり魔導砲の近くまでたどり着ける可能性が高いのだ。森を自由に動き回れて夜目も利くヴィクトルとヴィオラさんたちサーベルタイガー、そして彼らと呼吸の合うアベルさんアルマさんたちで組めば、できるかも。
「それなら私も……」
「ロッテお姉さんは肉弾戦向きじゃありませんから、当然お留守番ですよ。まったく、すぐ前線に立ちたがるんですから。今回危ないことは、私やヴィクトルお兄さんに任せてくださいね!」
「あれ? ビアンカも行くの?」
「当然です。アルマさんたちを乗せるのは獣化した私の方がいいでしょうし。いいですね、お姉さんは待っているんですよ?」
ううっ、ぐさっとストレートに「足手まといだ」って言われてしまった。鈴を転がすような可愛らしい声で宣告されると、余計メンタルに響く。
だけど、仕方ないのかな……聖女の業や獣の癒しが役に立つ作戦じゃ、なさそうだし。それに正直なとこ、カミルの治療に力を使いすぎて、足腰がふらふらしてる……確かに、みんなの足を引っ張っちゃいそうだ。仕方ない、今回は、お任せするしかないか。
「うん、わかった。待ってるから、みんなは無理しないでね」
言ってはみたけれど、ヴィクトルたちは目一杯無理をするのだろう。いくら敵の隊形が縦に伸び切っているとは言っても、数百の敵と戦って、ようやく目標にたどり着くことになるのだ。「無理しないで」じゃなくて、「生きて帰って」って言うべきだっただろうか。
◇◇◇◇◇◇◇◇
とにもかくにも方針が夜襲に決まって、具体的な作戦を協議し始めた司令部。そこに一人の獣人狩人が飛び込んできた。
「魔導砲のことを聞いた。あれに使われている魔石について、心当たりがある」
それは獣人村の新しい村長である、フェレンツさんだった。
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