第205話 復活だ!
思いっきり泣いて疲れたせいだろうか、久しぶりに熟睡した。
何か朝から気分がすっきり。もちろん姉様の死が悲しくなくなったわけではないのだけれど、それでも自分は生きていかないといけないっていうのかな、そういう開き直りみたいな感情が、今はもうはっきり胸の中に息づいていた。
そんな気持ちにさせてくれたのは、クララのお陰よね。ご褒美は、って? うん、今朝目覚めた後に、アルノルトさんお仕込みのあれやこれやの技も使われて、たっぷりと回収されてしまったのだ。
「アルノルトさんにあんなに愛されてるのに……」
「そうですね、あれは……いいものです。でもこれは、別腹なのですわ」
まだ落ち着かない息遣いのままでちょっとすねて見せた私に、いつものクールな表情でしれっと大胆なことを言うエロ狼のクララ。そうか、私はデザートなのか。ちょっと悔しいけど、メインディッシュがアルノルトさんだというのなら、彼女を幸せにしてくれそうだし、まあ、いいか。
私のすっきり感が、うちの家族たちにはすぐわかっちゃったみたい。ヴィクトルは金色の瞳で甘く微笑んでくれて、カミルには両手をがしっと握り込まれた。カミルの手がいつの間にか私より大きくなっちゃっていて、少しびっくり。ルルは私の肩に止まって、これでもかというくらい私の髪に頭を埋めて、耳の後ろあたりをくちばしでコリコリしてくれている。う~ん、可愛いんだから。
そして、ビアンカにはいきなり泣かれて、そして抱きつかれた。そうだよね、彼女は総督府では私の秘書、おうちではクララの代わりの侍女になって、ずっと私のそばにいたんだ。抜け殻状態の私を見て、一番心痛めていたのは、ビアンカなのだろう……本当にごめん。胸部装甲がさらに厚みを増しているなあと呑気な感慨を抱いている間にがっしりと頭を抱え込まれて、お口から魔力をたっぷり吸い取られた。まあ、心配かけちゃったから、このくらいのご褒美なら、喜んであげちゃうんだけどね。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなこんなで、私は復活した。もちろん心の奥に決して癒せない傷は残っているのだけど、前を向いてやっていこうという気力は、ばっちり回復だ。
総督府に出てきたとたん、昨日までと打って変わったように判断の難しい案件が山積みになっていた。そうか、この十日間は、サインすればいいような仕事しか、回してこなかったというわけね。アルノルトさんとビアンカの配慮なのでしょうけど……まあ、昨日までの私を見たら、まともな仕事は任せられないわよね。とっても申し訳ないことをしてしまった気分。向こう一週間くらいはたっぷり残業して、負債を返そう。
そして山積みされていたお仕事をひいひい言いつつもようやく片付けた数日後のこと。もう一つ気になっていた件の、報告が届いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「申し上げます。お探しの人物を見つけ出すことはできませんでしたが、ご存命の可能性が高いのではないかと推察されます」
ひざまずいて報告する男女は、国軍所属の隠密さんだ。将軍様であるローゼンハイム伯に職権乱用して頂いて、借り受けたのだ。商人や芸人に身をやつして敵状を探る、いわばスパイね。生きているかもという報告には驚いたけれど、情報収集のプロフェッショナルがそう言うのだ、何か根拠があるのだろう。
そう、この人たちはこの二週間ほど、私の依頼で隣接するハルシュタット子爵領に潜入していたのだ。目的はもちろん、賢者ディートハルト……ビアンカのお父さんの消息を探るために。今日は重要な報告事項があるというので、ヴィオラさんにも来てもらっている。
私の家族たちに、こういうことは頼めない。クララは森での索敵なら無敵だけど、人里では彼女のケモ耳と美貌が、人々の印象に残り過ぎる。ヴィクトルなら人化すればほぼ人間に見えるけれど、デカいし綺麗だし、目立ち過ぎる。それに、真っ直ぐなヴィクトルは他人をダマして情報を引き出すなんて器用な真似、できるわけないからね。
そして間違っても私がハルシュタット家を探っているなんて気取られてはいけない。辺境の隣領同士で争いになったりしたら、国の安全保障が危なくなってしまうわよね。
そんなわけでローゼンハイム伯爵様に相談したら、ものすごい勢いで食いつかれ、翌々日にはもうこの二人が派遣されてきたというわけなの。
「聖女ロッテ様の騎士として、お役に立てる機会を逃すわけにはいかないので」
というのが伯爵の弁だけれど、この人たちとっても優秀そうなのよね……実際たった二週間かそこらで十数年間に失踪したターゲットの生存情報とか持ってくるんだから、本当に精鋭なのだろう。私のところなんかに居たりして、いいのかなこの人たち。
「私たちはローゼンハイム将軍にすべてを捧げておりますので、その命に従うのみ」
女性の方……確かお名前はアルマさんと言ったはずね、私の疑問にきっぱりと言い切る。アベルさんという男性の方も深くうなずく。う~ん、伯爵様も私と似た体質の方みたいだな、あちこちでやらかしては、家族というか信者を増やしちゃうタイプっていうか。
「あ、ありがとう。では、あなた方が賢者ディートハルトの生存を信じるに至った事情を、報告して下さい」
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