第181話 行くよシュトローブル
うん、なんかクララの高め体温に包まれてものすごくよく眠れて、すっきりした。やっぱり定期的に何かを吐き出すって、重要よね。
翌日からの私はもう昨日みたいなネガティヴ思考に沈むこともなく、楽しく出発準備を手伝った。そう、結局ヴィクトルに乗せてもらって、妖魔湧きのポイントに連れて行ってもらって働いているんだ。
相手が物理系の妖魔だったら私はいらない子だけど、魔法系とか死霊系だったら、聖女の「浄化」のほうが効くわけじゃない。それに、いくら虎さんたちが物理攻撃に強くたって、まったくケガしないわけではない。そんなとき私がいれば、すぐ治してあげられるわけで。
そうだよ、最初からこうしていればよかった。彼と肩を並べて戦うのは無理かもしれないけれど、こうやって彼と「ともに」戦うことは、私の力でもできるんだもの。そうすれば、あの人と自分を比べることもない。
(ふふふっ、何かいいことがあったみたいね。昨日はもやもやしている顔をしていたから)
(そうですよ! いつものロッテお姉さんじゃないみたいで、心配でした……)
昨日の落ち込みっぷりは、ヴィオラさんやビアンカにもバレていたらしい。ことにヴィオラさんに見透かされているらしいのが、ものすごく恥ずかしい。落ち込んでいた原因までは、まさかわかんないと思うのだけれど。
(ああ、私はロッテちゃんの男に手を出そうとか決して思わないから、安心してね)
が~ん、完全にバレてしまっていた。真っ赤になって固まる私のほっぺたを軽くペロンとなめたヴィオラさんは、上機嫌で歩き去っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日は森で最大の湧きポイント、数世紀前の神殿らしきところの封印を解きに行った。本当は封印を残していた方が妖魔の出現が抑えられるのだけれど、この一族特有の封印技法を人間に盗まれるわけには、いかないのだって。何か不思議な規則で並べられた魔石をヴィオラさんが取り払い、私が回収する。うん、何か拾ったりしまったりする仕事は、手が自由な私がやった方がいいからね。
すでに湧いている妖魔たちは、一掃する。ここにはそこそこ強い妖魔がいたけれど、ヴィクトルの敵ではなかった。一体だけ物理の効きにくいレイスが出たけど、私が「浄化」することで一発消失させることができた、うん、ちゃんと出番があってよかったわ。
あとは放置するっていうから、いつかみたいに「溢れ」ちゃうんじゃないかと心配になったけれど、ここはロワールの迷宮みたいに怪しいオーラを出す石碑なんかもないし、おそらく大丈夫みたいだ。うん、あとはアルテラの人たちに責任を持ってもらおう。
私にとっては妖魔との戦いよりも、その後の方が大変だった。
(おお、オークにつけられた傷が治った!)
(お嬢ちゃん、私の傷も診ておくれ!)
(こん棒で殴られた腹がどうも気持ち悪くて)
(俺も肉球がちょっと……)
何か役に立とうと治療係を買って出たのはいいけれど、どうもケガを治す効果より「紫の魔力を流してもらうと気持ちいい」という方にみんな反応しちゃったみたいで、しまいにはかすり傷レベルの虎さんが列をなす羽目になってしまった。ヴィオラさんがしびれを切らして一同に喝を入れてくれなければ、帰してもらえなかったかも知れないわ。
(とはいえ、ロッテちゃんの魔力を一度味わったらやめられない、気持ちはわかるわ~)
そんなこと言いながら、ヴィオラさんは虎の姿で舌を出すの。まあ仕方ないか、お礼の意味で特別に……彼女のざらっとした舌を、ぺろっとなめてあげる。
(う~ん、最高。これだけでアルテラ兵の百人くらいいけそう!)
いや、行かなくていいよ、ヴィオラさん。怖いこと言わないで。
(俺には、ないのかな?)
う、よりによってここで、要求されてしまった。なんか子供みたいにキラキラした期待の眼をヴィクトルに向けられると、流されやすい私は断れない。ちらっとヴィオラさんに視線をやると「やれやれ!」とばかりにけしかけるような眼を向けられて……。
ゆっくりヴィクトルの前に立って、その頬を両手で挟む。そして遠慮がちに舌など出してみると、すかさずヴィクトルが長い舌をぺろんと出して、私の舌に触れる。恥ずかしくてこれ以上は出来ないけれど、どうやら満足して頂けたらしい。私は彼のふわっと毛並みの良い頬に自分の頬をほんの三回ほどすりすりしてから、身体を離した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなこんなで数日後、私たちとサーベルタイガー一族は、西を指して出発した。
彼らの荷物はせいぜい、森から持ち出した大量の魔石くらい。これはクララとビアンカが夜なべで作った振り分けバッグに入れて、力のある雄が何頭か分担して持っていく。他の虎さんは何も持たずの旅だ。
楽そうに見えるけれど、何も持たないということは必要なものすべてを現地調達しながら前に進まなければならないということ。一日ごとに水場を探し、そこを中心として一族の腹を満たすべく狩りをするというルーティンをこなさないといけないわけなの。実質移動できるのはせいぜい半日なので、私たちが行きに旅した道程よりも、確実に進みが遅い。
「まあ、急ぐ旅じゃないし、ゆっくり行こう」とヴィクトル。
「そうですよね! ロッテお姉さんのためにものんびり行くべきですよね!」とビアンカ。
「そうですね、強行軍はロッテ様によくありませんわね」とクララ。
むむっ。三人が私を心配してくれてるのは本当だろうけれど、それだけじゃないよね。あなたたちが狩りしたくてムズムズしてるってのが、本音なんでしょっ!
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