第146話 悪いヤツは一掃だっ!

「ふむ、聖女の能力については疑う余地がないようじゃな。エグモントの説明の方がつじつまも合っておるしのう、そうなると、そのゲルハルトとやら、そしてシュトローブル総督は儂を騙して褒美をむしりとろうとした、というわけかの」


「いえ、あの、これには、深い理由が……」


「陛下をたぶらかすに、理由も何もあるかっ!」


 クリストフ父様がシュトローブル総督を鋭く怒鳴りつける。父様がこんな怒った声を出すのを見るのは初めてだ。


「くそっ、お前さえ黙っていれば……覚えておけよ、お前の家族の命はもう……」


 おかしな司令はもうやけくそになったのか、副司令様にお約束っぽい捨て台詞を投げつける。まあ、これは予想範囲内だけど。


「あら? 司令様、何をおっしゃっているのですか? エグモント様の奥様とお嬢様は、私達の方ですでにお預かりいたしておりますの。お嬢様のご病気も間もなく快癒しますし、何か問題がありまして?」


 私が投げつけた言葉に、こんどこそ司令の顔色が、どす黒く変わる。そう、先日あの城砦から私達が連れ出したのは、エグモントさんの奥様と、娘さんだった。エグモントさんの家族がどこにいるのかマーレに調べてもらったら、あそこに保護……という名の監禁されていることがわかったんだ。そして彼が家族の安全と引き換えに、あの司令の無茶振りにつき合わされていたこともね。


 だけど司令のこの反応を見る限り、切り札が失われたことを、どうやら本当に知らなかったみたいね。城砦の主であるブルクハウゼン子爵は自分のメンツが潰れることにこだわって、事件のことを隠しちゃったのかな。


「まあ、そういうわけです。司令にはずいぶん妻子を盾に無理を聞かされましたが、それももう終わりです、これからは自分の良心の赴くところに従って生きますから。まあ私も貴方も陛下をたばかった罪は同じ、仲良く縛につくとしましょう」


 ぱくぱくとみっともなく口を開閉しているゲルハルト司令と対照的に、エグモント副司令は、憑き物が落ちたようにすっきりした表情をして言った。さすがに厳罰は免れないでしょうけど、こうやって最後は私達の側に立ってくれたんですもの、情状酌量が認められるように、クリストフ父様が動いてくれるはずだわ。うん、期待しよう。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「うむ、まったく怪しからん連中でしたな。公職から追放するとともに、厳罰を与えることに致しましょう!」


 さっき、私の力にあからさまな疑問を投げかけた宰相様が、何か急ぐ理由があるかのようにあわてて事をまとめにかかっている。


「そうじゃの。宰相の申す通り、まずは奴らに加担した者全員、公職を辞してもらうとしよう。うむ、宰相、お主もじゃよ」


「何ですと? 私はあの連中の悪事とは何の関係もありませんぞ。引き続き陛下の御ためにこの職を続け奉りたいと」


「ふむ、何の関係もないと、のう……」


 陛下が何やら目配せすると、謁見の間に、多くの書類を携えた一人の青年が現れた。


「貴様、アルノルトッ!」


 戦勝の偽装が暴かれ悄然としていたおかしな司令官が、アルノルトさんの姿を見てまたまたいきり立つ。いや、あなたはどっちみち重罪人だし、多少罪が上乗せされても、同じでしょ。


「皆の者、この者の話を聞くが良い」


 すでに司令の存在を無視している陛下に促され、アルノルトさんが順々にシュトローブルでの犯罪行為を明らかにしていく。


 周辺の村に課せられた「保護税」、そしてシュトローブル市民に課せられた「特別関税」なるものは、何ら法的根拠がなく、王室の許可を得たものでもなかったこと。そうして司令と総督で共謀し徴収された税は決して安全保障に使われることはなく、第二王子派の貴族にそのまま分配されていたこと。


「利益の分配を受けた貴族のリストはこれ、総督の筆跡であることを確認済です。宰相のお名前も、トップにございます」


「そんなものは知らん! どうせ勝手に私の名前を書いたのだろう、証拠にはならん!」


 宰相も強気に反論する。まあそう言うでしょうね、だけど私達は、証拠なしに攻撃するほどバカでもないのよ。アルノルトさんは続ける。


「確かにこれでは証拠になりません。では次にこの書状をご覧下さい。確かにカネを受け取った旨書かれており、最後に宰相ご自身のサインがございますな」


「何っ! 総督っ、何でこんなものを残して……」


 語るに落ちるというのは、こういうことなんだな。そう、本来は廃棄すべきものだったのだけど、ゲルハルト司令が後日の安全を確保するため、内緒でしまっておいたものらしい。トカゲの尻尾切りってのはどこの世界にもあるから、それに備えてね。で、それをアルノルトさんが発見して、私に託したってわけなのだ。


「宰相、お主は長年よく仕えてくれたが、残念じゃよ……」


 陛下が少し眼を細めながら、声を低めてつぶやいた。

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