第64話 教会からの刺客(1)
王都でのあれやこれやが片付いたらすぐ知らせてくれるはずなのだけれど……姉様と伯爵様が発ってもう二週間がたつのに、一向にその連絡が来ない。
「まあ、ことは爵位や領地の剥奪に関することですから、調整に時間がかかるのでしょうが……」
「聖女の剥奪だったら、ものの数日で決まっちゃったけどね……」
「うっ、申し訳ございませんロッテ様……そのような、つもりでは……」
私が自虐的なギャグをぼそっとつぶやくと、クララが可愛そうなくらいしょげてしまった。トレードマークのもふもふ尻尾がだらんと垂れてしまっているわ。これは私が悪いわ、フォローしないとね。
「あ、いや、何とも思っていないから大丈夫だよクララ。うん、だけど……これだけ長引くと、私がピンピンしていることを知った教会から、暗殺者を送られちゃう可能性も、かなり出てくるよね」
「そうですっ! これはぐずぐずしていられませんわ! バイエルンへ逃亡する支度をしないとっ!」
私が空気を変えようと無理に振った話題に、クララが食いつく。
「うん、私の身の安全だけ考えたらそうなっちゃうんだけど、やっぱり事態が収束するまでは、ここにいないといけないよ。魔獣と人間の盟約なんて、私が立ち会わないと難しいでしょ?」
「うっ、そうですね……ではせめて領都からの一本道に、交代で見張りを立てましょう。余所者の暗殺者は、この深い森を抜けてくることが出来ないでしょうから……」
私の安全に関わることになるとムキになるクララなの。そんなわけで、クララとビアンカ、そしてヴィクトルが交代で村へ続く一本道を見張ることになった。カミルが入っていないのは、虎や狼と違って竜の姿では森の中を高速で走って戻ることができないから……こればかりは仕方ないよね。
三日ほどは何事もなく過ぎて……四日目の午前。
見張りについていたビアンカが虎の姿で駆け戻ると、私の眼の前ですぅっと美少女にその姿を変える。
「お姉さん、怪しい人たちが来ます。馬が二騎に馬車が一つ。馬は騎士のようで、馬車の中には四人ほど乗っている気配がありました。発している魔力は、伯爵様や聖女レイモンド様のものではありません」
正確で冷静、そして要を得た報告ね、相変わらずいい子だわ、ビアンカ。
「う~ん、暗殺隊が来ると思っていたけど、正面から来たかって感じね……」
「騎士はなんとかなりそうですが、馬車に乗っているのがどんな技を持っているかですね」
「こっちにサーベルタイガーと魔狼がいることは、子爵がペラペラしゃべって、バレてるはず。だから、戦うつもりなら遠隔攻撃できるメンバーを入れてくるでしょうね……魔法使いか、弓使いかな。それと、一人は聖職者だと思うわ。堂々押し寄せて来るのならそれは『異端者討伐』でしょうから、教会の者がいないと格好がつかないから」
クララの疑問に答える私を、カミルが不思議そうに見つめている。
「どしたの、カミル?」
「いや、うん、ロッテお姉さんは普段ポンコツなのに、こういう時だけはすごく短い時間で、シャープに結論を出せるのは、なぜだろうって……」
む。それって、決して褒めてないわよねカミル。覚えてらっしゃい。
「お姉さんの予想通りなら、僕は竜になっておいた方がいいかな。遠隔攻撃する連中なら、炎のブレスで焼き払ったほうがいいよね?」
「あ、それは最後の手段にしよう。ここは森林だから、山火事になったら消しようがないし……それに、村の人たちに竜の姿を見られない方がいいと思うの」
魔狼やサーベルタイガーの存在は知っている村人も、竜を見たことがある者はいない……ロワール王国には、竜の住処はないからね。それを眼にした時の恐れ方は尋常のものじゃないだろう。「溢れた」神殿での戦いでカミルが竜に変化したけど、あれを見たごく少数の人には、厳重に口止めしてあるわ。やっぱり、竜はマズいと思うの。
「そっか……」
「遠隔攻撃は、私が何とかするしかないわね。とにかく、敵に情報が渡っていない手段で攻撃するのが必要ね。そうすると……」
私が親指を噛んで作戦を考えている姿に、カミルとビアンカが何か不思議なものを見るような眼を向ける。なによ、私だって真面目に考えること、あるんだから!
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