第51話 クララにもご褒美を
目覚めたのは、もう翌朝だった。ヴィクトルのもふもふ布団が気持ちよすぎて、夢も見ずに熟睡してしまったみたい。
(やっとお目覚めかい、ロッテ)
「む、あ……おはよう、ヴィクトル。ありがとう、すっごくよく眠れちゃった。でも……ヴィクトルは? 眠れた? 体調はどうなの、すっごく疲れてたはずでしょう?」
(あ、ああ……ある意味では眠れなかったけど、調子は最高だよ。ロッテの魔力が身体中に染み込んで、今ならゴブリンが千体来たって戦える気がするよ)
ん?「ある意味では眠れない」ってどういう意味なのか気になるけど……絶好調ならまあいいわ、目的は達成よね。
気が付くと、私の身体には毛布が掛けられている。
(ああ、それはあのクララという狼侍女が掛けて行ってくれたんだよ)
そっか。結局一晩ヴィクトルと添い寝してしまったから、同じく大活躍したクララには、まだお礼も言えてないし、ご褒美もあげられていない。
「うん……ヴィクトル、私、クララのとこにいくね」
(そうするといいよ。ひょっとして、やきもきしているかもね)
なごり惜しいけど最高級のもふもふ布団を抜け出した私は、クララを探した。
彼女の姿は、村はずれの墓場にあった。昨日のゴブリンとの戦いで村を守って命を失った人たちを弔うお手伝いをしていたのね。私が駆け付けた時にはちょうど埋葬も終わって、姉様が聖女として魂の平安を祈っているところだった。姉様が真剣に祈りをささげている間、もう一人の「もと」聖女たる私は寝くたれていたわけだから、ダメだよね……。
鎮魂の儀式が終わるのを待って、クララに呼びかける。
「ごめん、私すっかり、こんな時間まで寝ちゃってた……」
「いいのですよ。昨日は、すべての力を振り絞って、がんばられたのですから。お疲れになっているでしょう?」
「確かに疲れていたはずなんだけど、ヴィクトルのおなかで一晩寝たら、すっかり……戦う前より元気になっちゃったかも」
そうなんだ。ヴィクトルのもふもふに包まれているうちに、身体の疲れも、失われた精神力も、意外なほど回復してしまったの。
「やっぱり、ヴィクトルさんとロッテ様は何か精神というか、心の相性がよろしいのかも知れませんわね……ネコ科というところが気に入りませんけれど」
また、クララが意味不明なコメントを吐き出し始めたわ。でも、クララはヴィクトルに好意的になって来てくれた感じで、私としては嬉しい。だって二人とも……「ふたり」って表現は違うかもだけど……大好きだもの。
「クララだって、疲れているでしょう? 昨日活躍したのはおんなじだし、今日もこうやって働いているし……」
「そうですね、確かにちょっと疲れ気味ですね。ロッテ様のご褒美でも頂けると、たちまち元気になれる気が、するのですが?」
む、これはやっぱり、要求されているのよね。
お墓から戻って、村の集会所近くまで歩いたところで、クララは私の手を少し強引にひいて建物の陰にいざなって……壁に押し付けるように立たせるの。これはもう……する流れよね。私はまぶたを閉じ、覆いかぶさってくるクララの唇が触れ、ざらっとしたものが私の舌にちょっと荒々しく絡んでくる感覚を、いつもよりドキドキしながら味わった。それに、なんかいつもよりクララがガツガツしてて、時間も長い気がするんだけど、気のせいかな?
「ぷはぁ……今日も、美味しくご褒美いただけました……」
「なんか、いつもよりノリノリな気がするんだけど」
「だって、昨日からビアンカもカミルも、そしてヴィクトルさんもロッテ様のご褒美をたっぷりもらっているのに、私だけまだだったのですもの。それはヤキモチも焼こうというものですわ」
「いや、それは……」
わたわたと慌てて弁解に走る私。ほっぺたや耳が、なぜだか熱くなる。
「ふふっ、いいのですよ。ロッテ様の力は、独占してよいものではありませんから。生涯の伴侶を選ばれるその日までは、みんなに愛を注いで差し上げてくださいね……私も含めて、ね」
クララがまた、いつもの色っぽい微笑みを浮かべた。
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