第48話 迷宮攻略
遠征隊は姉様と護衛騎士が十二名、村の自警団から十名、ベルフォール伯爵と護衛騎士四名。そして私達一行。
まだふらふらしている私も、結局ついていくことになった。「聖女の力」を使うための精神力がすでに完全枯渇状態で、妖魔相手には全く役に立たない私だけど、ヴィクトルやクララ達が、私を村に置いて迷宮攻略に行くことを嫌がったからだ。妖魔が襲来することを気にしているというより、子爵が余計なちょっかいを出してくるのではないかと考えているみたいね。ヴィクトル達がいないと攻略は圧倒的に不利になるから、私は「おまけ」でついていくわけなの。足を引っ張らないようにしないとね。
とはいいつつ、私は森を踏破する気力すら残ってなく、ヴィクトルの背中におぶさっていくだけの、まさにただのお荷物になってしまっていた。ごめん、みんな。
「本当にごめんなさいロッテ。一週間は寝ていなさいと言いたいところなんだけど……『溢れ』は一刻を争うわ。第二波が神殿を出る前に、討滅し封印しないと」
「うん、がんばる。役には立たないけど」
「ありがと。でも絶対に『聖女の力』を使ってはダメよ。もうロッテの精神力は空っぽなんだから、死んじゃうからね」
そうだね、私も死にたくない。ケタ違い聖女の姉様がいるのだから、聖女の力なんか使うつもり、ないから安心してね。
問題の神殿に着くと、またゴブリンがひょこひょこ溢れかけていた。これが、第二波?
「早速あれを、試すしかないわね……神よ、悪しきものを、弱体化せよ!」
姉様がラピスの瞳を大きく見開き右手をかざすと、神殿全体を光がとりまいた。外に出ていたゴブリンが動きを止めて……その眼は虚空を見上げている。
「今です! 皆さん、お願いします!」
穏やかだけれど良く通る、声量豊かな姉様のアルトが響くと、聖女付きの騎士様たちが先頭を切ってためらいなく突撃し、あっという間に十数体のゴブリンを排除し、神殿の入口を確保する。そうか……姉様の仰っていた通り、騎士様たちも、妖魔と戦いたかったんだな。そしてヴィクトルが内部に飛び込み、続いて、最初から獣化しているクララとビアンカが突っ込む。そうよね、弱体化してるとはいえ妖魔の数はハンパじゃないはずだし、本気出さないとだよね。
カミルは人型のままで、ロングソードを構えて、私の傍を離れない。みんなで話し合って、この分担にしたんだって。うん、確かにここに竜なんかが現れたら、人間たちの中で、ひと騒ぎ起こっちゃいそうだからね。
伯爵様や村の義勇兵さんも神殿に踏み込んで、最後に姉様と私、そしてカミルが中へ。
うわあ、これは壮絶だわ。半ば崩れた石造りの神殿広間は、ゴブリンの死骸で一杯。ざっと二百弱かしら?
「どうでしたか、妖魔達の様子は?」
「いやあ、何といいますか、ほとんど戦闘能力を失っており、まるで草刈りをするが如しでして。まこと、聖女様の『弱体化』は、恐るべき威力ですな」
姉様に報告する騎士様の表情は、驚きにあふれている。
「ロッテがこの戦術を考えついてくれたおかげね、ありがとう」
姉様が褒めてくれるのは嬉しいけれど、それは私の「聖女の力」が足りなかったから工夫しただけだよ。姉様だったら、正攻法で「浄化」していっても、突破できるんじゃないかな。
「しかし、魔力の中心は、地下のようですね」
祭壇跡らしい場所から、地下へ通路がつながっている。姉様がもう一回「弱体化」を神殿全体に施した後に、私達はその先へ足を進めていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
神殿の地下迷宮は、思いのほか深かった。
発生しているゴブリンはもう数え切れないくらいだけど、時折足を止めては姉様が「弱体化」を使って下さるから、私達の側にはまだ負傷者がいない。
「数十体レベルの群れを、二十くらい排除した……かな? やっぱり姉様の力はすごいわ」
「ここまで数が多いとは思わなかったわね。『浄化』で戦ったら、かなり消耗したと思うわ。ロッテに『弱体化』を習っておいて良かったわ」
そう言ってもらえると、とても嬉しい。王国で一番妖魔退治の負担がかかっている姉様を、少しでも楽にして差し上げたいと、ずっと思っていたんだから。
「……この先にある広間が魔力の中心みたいね」
姉様の声が低くなって、みんなに緊張が走る。
「私は『封印』に全力を使わねばなりません。ロッテもまだ回復しておりませんから、皆さんには『聖女の力』の助けなしで、『封印』を完成させるまでの間、私とロッテをお守りいただかねばなりません、よろしくお願いします」
「命にかけて、聖女様を守護いたします」
「任せてくださいや! ここまで聖女様に頼りきりだったですしなあ」
「全力を尽くします」
騎士様や義勇兵さん達が口々に近いの言葉を発する。
(レイモンドお嬢様を守ることは、ロッテ様をお守りすることと同義・・)
(君をこんな危険に巻き込んでしまった責任は、命に代えても取るよ、任せて)
(お姉さん達には、指一本触れさせませんから!)
頼りになる我が魔獣軍団も、次々に意志を伝えて来るわ。うわ、嬉しくて涙出そう。
「それでは、行きましょう!」
レイモンド姉様の号令が、静かに下された。
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