正体
ワシよりも早くトナカイたちは飛んできて
サンタさんは大声で名前を読んだ
そらダッシャー、そらダンサー、それプランサー、ヴィクセン、
行けコメット、行けキューピッド、ドナー、ブリッツェン、
ポーチの上まで、煙突の上まで!
速く走れ、それ走れ、みんな走れ!
ハリケーンの前に枯葉が舞うように
何かにぶち当たると、ソリは空へ舞い上がる
だからトナカイたちは家の屋根の上まで飛んで行った
おもちゃがいっぱいのソリとサンタクロースを乗せて
「よく出来たな、ダッシャー」
突然聞こえる声。頭上から?
上を見上げてみると、そこには大きなソリを引く七体の「なにか」、そしてそのソリに乗る巨大な男がいた。
「おお、君が次のサンタクロースか」
変な事をのたまいながら、その男はソリから俺の目の前へ飛び降りる。
「お、お前は何だ?一体俺に何の用だ」
「ワシか?ワシはサンタクロース。見ての通り世界に幸せを運ぶサンタクロース」
「ど、どこがだ。こんな気味悪いバケモノ連れて空飛んで、そんな訳がないだろう!それに、サンタクロースなんて実在しない。そんなものは親が子に吐くただのまやかしだ」 つい、本音が出てしまう。
「そ・・・・・・それは、本当に可哀そうな子だ」
「・・・え?」 こいつ、泣き始めた?
「きっと親の育て方が悪かったのだろう。君は小さな頃から『悪い子』だったのだ。だから君はワシからプレゼントが貰えず、ここまで腐り切ってしまったのだな」
「て、てめえ・・・・・・」
腹の底から怒りと悲しみが同時にわく。思い出される幼少期。非行の数々。両親からの冷え切った視線。
・・・違う。違う。そうじゃない。今はそんなことを思い出している暇はない。
俺はプロだ。こんな大男だろうが得体のしれないバケモノだろうが、俺には殺れる。 ・・・よし、いつものペースを取り戻してきたぞ。突然の近接戦の場合は、まずは
相手の体格、特徴、利き手など基礎情報を瞬時に頭に入れる事が肝心だ。
「・・・おお、すまんなダッシャー。君の務めは果たされた。これで君は自由だ。クリスマスの夜を楽しむといい」
身長は190センチを優に超えている。一連の仕草から見て右利きと見た。
「よし。これで君にワシの仕事を引き継がせられるな。・・・む。君がワシに向けるその眼。殺意が感じられるぞ?」
気味悪いバケモノのうち一頭はここから逃げていったようだ。敵の数が減るのは良い事だ。これで1対8。多勢に無勢だが、やれない事はない。まずはバケモノを指揮しているように見てとれる大男の方から・・・・・・
「ぐほっ!?」
突然の鈍痛。殴られた? いやしかしあいつとの間には僅かながら距離が・・・
「可哀そうに。可哀そうに。ワシに殴られ腹を抱えて泣いておる。きっと、辛かった今までの苦い思い出が一気に渦となって押し寄せてきているのだろう」
ない。さっきまであったはずの僅かな距離が、ない。一瞬で間合いを詰められた。全く見えなかった。
「これで、君もワシからの気持ちを受け取ってくれるだろう。我がトナカイたち!さあワシの最期の仕事だ!精一杯頑張ろうではないか!」
体が動かない。さっきの一撃がよほど身に染みているらしい。だが、まだ好機はある。隙を見てこいつの体にこの神経毒を注入出来れば・・・
「うううあっ」
「念のため彼を暫らく眠らせておこう。これから彼は一生以上の時間をかけて罪を償う。その前の僅かな安息としようではないか」
何発も腹に拳を食らい、またもや薄れゆく意識の中で俺の目に映ったのは、どんどんと近づいてく、クリスマスイブの夜空だった。
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