第一章 第三話 幸福

 赤ちゃんは寝るのが仕事、と母から聞いたことがある。正にその通りだろう。大人が仕事をするのと一緒だと思う。


 僕は自分の両親に赤ちゃんの名前を伝えた。あら、かわいいじゃない。心愛ちゃん、女の子って感じがする。でも、当て字ね、と母は言っていた。健康で人に迷惑のかけない大人になって欲しいな。父は怜と同じことを言っている。怜の両親には、僕が言おうか? と言ったが、いや自分で言いたいと言うので任せてある。


今は午後七時過ぎ。今日の仕事は終えてとりあえずお風呂に入るために帰宅した。今日病院に行くのは遅いだろうから、明日は遅番で零時から午後九時まで仕事なので、出勤前に心愛と怜の顏を見てから仕事に行くことにした。


こんなに幸福な気持ちなのは、愛しい子どもと愛する妻がいるからだろう。なんだか幸福過ぎて逆に怖いような気がする。怜に言ってみると、そんなの気のせいよ。と、一蹴した。


そうだ、気のせいだ、この幸せを壊されたくない。誰にも。

心愛の誕生日は十一月十五日。切りが良くて覚えやすい。因みに怜は十一月二十日、僕は十一月五日。三人とも十一月生まれ。この月に何か縁があるのかな。


僕が自宅で寛いでいるとスマホに電話がかかってきた。見たことのない番号で勿論、登録もされていない。誰だ? 不信感が募る。放っておくと着信が止まった。変な奴に絡まれたくない。変な奴かどうかは分からないけれど。あまりに何度も今の番号からかかってきたら出てみよう。本当に用事がある人物かもしれないから。


約一時間後――。

また、さっきの番号からだ。嫌な予感がする。出てみようと思い、スマホを手に取った。

「もしもし?」

 反応がない。暫く黙っていると、電話は切れた。何なんだ、一体。着信拒否にしようかなと思ったがもう少し様子をみてみることにした。だが、今日はかかってこなかった。


 翌日。午前七時に起きて食パンを焼いて食べた。怜は起きたかな。心愛は母乳を飲んでいるかな。気になる。


 仕事に行く前に様子を見に行こう。今日は遅番だから時間はある。

 仕事に行く支度を済ませて病院に車で向かった。十分くらいで到着した。今は午前八時三十分頃。病院に入り、二階にある病室に向かった。階段を昇りながら壁に貼ってある赤ちゃん達の写真を見ていた。どれも可愛い。廊下にもずらりと写真が貼られている。ママと一緒に写っている赤ちゃんのそれもある。


 部屋に着いて最初に目に付いたのは、怜が心愛に母乳をあげている光景だった。慎重に落ちないように抱えている。僕は声を掛けた。

「おはよう!」

 授乳に集中していたからか僕に気付いていないようで声を掛けてようやく気付いた。

「あっ! おはよう。今、おっぱいあげてたの」

「うん。初体験だな。うまく飲ませられてる?」

「うーん、なかなか出なかったけど少しずつでるようになってきた」

 僕は怜がいるベッドの右側にある丸椅子を手前にずらし座った。

「今日は遅番?」

 怜が訊くので、

「そうだよ」

 と答えた。

「今日は二十一時までだからまた明日くるから」

 うん、と怜は頷いた。

「わたしね、驚いたの」

「何?」

「心愛のベッドね、心拍が分かる板状の機械があって、それの上に布とか敷いてから寝かせてるの。借りた時はベッドだけだと思ったんだけどね」

「へー、画期的だな」

 怜は、だよね、と言いながら大きく頷いた。

 ベッドを見ると頭の所に名札があって、そこに番号や体重などが書かれていた。

「三千二百グラムなんだ」

 僕がそう言うと、

「うん、看護師さんに訊いたら標準体重らしいよ」

「そうなんだ。よかった」


 僕は心愛を見て思わず笑顔になった。二人を養うために今まで以上に仕事頑張らないと! そう思った。

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僕らの宝 遠藤良二 @endoryoji

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