第24話 帰途


 二週間後、王命によりロシェルダは隣国へと旅立った。

 そしてセヴィアンの婚約者の身体に病の片鱗を見つけ、それを癒すと、やがて婚約者の身体からアザも消えていった。


 王太子とその婚約者はいたく感激し、彼女を侍女に召し上げた。

 やがてその働きぶりと希少な力故に、彼女を養女にという話が貴族の中から持ち上がる。

 その中で彼女の祖国である隣国に娘が嫁ぎ、医師として城に従事している、フィーラ・ロアウロ侯爵家がその役を担う事となる。フィーラとロシェルダが師弟関係にあった事が、決め手となった。


 隣国と自国、両方の王族を救った奇跡の治癒士。

 平民でありながら高位貴族の養女になった彼女に、実はずっと熱心な求婚者がいる事は、公にはされていなかった。

 


 どうか二国の架け橋となるように。そんな願いを込めて。

 また、治癒士による病の献身を受けた事で、王太子夫妻は何より彼女の希望を優先させた。

 そして両国の話し合いの上、ロシェルダをその求婚者の元へ────祖国へと帰した。


 ロシェルダが祖国を発ってから一年が経っていた。


 ◇


「ロシェルダ!」


 迎えの馬車を駆け降りながらソアルジュが泣く。

 

「やあ、久しぶりロシェルダちゃん。元気だった?」


 手を振りながらリオドラ公爵が笑いかけている。

 ロシェルダはソアルジュに向かって急ぎ歩いた。

 平民の時のように駆けて行く事は出来ないけれど、でもこの早さが一番彼の近くにいけるのだ。


「ソアルジュ様!」


 嬉しさと切なさにソアルジュに飛び込むロシェルダの胸は、あの頃と違い、彼に負けぬほどの恋慕が溢れていた。

 たった二週間のソアルジュとの語らいで、ロシェルダは彼の切実な想いと誠実な気持ちを沢山受け取った。胸に淡い恋心を覚える位には。

 その想いを胸に国を発ち、遠距離で少しずつ想いを育てていったのだ。

 ソアルジュはそんな彼女を受け止め破顔する。


「やっとロシェルダを連れて帰れる」


 ロシェルダもまた目を潤ませて笑った。


「ソアルジュ様、私は……リオドラ公爵家に嫁げる淑女になれましたでしょうか? あなたの隣に立てますか?」


「ああ……ああ……!」


 ソアルジュはロシェルダをぎゅうと抱きしめて何度も頷き、歓喜に打ち震えた。


 二人で努力し続けた。

 遠く離れていても手を取り合って、共に生きる未来を目指し、歩いてきた。


「良かったねえ、ソアルジュ」


 いつもの調子で口にする義父の声に優しさを感じるのは気のせいかもしれないけれど。

 それ位嬉しくて、幸せで。

 腕の中の大事な人に笑いかけ、笑顔を返されれば愛しくて。


「ロシェルダ、私と結婚してくれるかい?」


 詰まる想いを打ち明けるように、ソアルジュはロシェルダに泣き笑いの顔を向けた。


「はいソアルジュ様。喜んで」


 ロシェルダもまた涙を浮かべて笑って応えた。

 そうして額を寄せ合い、二人一緒に幸せを噛み締めて、笑った。




 祖国に戻り、ソアルジュの婚約者となったロシェルダは、その一年後、公爵夫人となる。そして生涯治癒士として国に貢献し、また、公爵夫人として夫であるソアルジュを支え、共に生きた。


 とても仲睦まじい夫婦として。




 ◇ おしまい ◇



 おまけ二本用意しました( ´ ▽ ` )

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る