第23話 模索


 そして一度目を閉じ、ソアルジュはロシェルダを恐る恐る抱きしめた。腕の中で驚きに身を竦ませるロシェルダを感じ、温もりにほっと息を吐いた。


「ならば私が平民に……」


「いけません!」


 叫び、ロシェルダはソアルジュをぐいと押しのけた。

 愕然とした顔を向けるソアルジュの手をぎゅっと握り、ロシェルダは目を合わせ切実に訴えた。


「私が、頑張るべきなんです。あなたと対等な関係を築きたいと思うなら」


「……どう言う意味だ?」


 困惑に瞳を揺らすソアルジュに応えたのは、セヴィアンだった。


「ソアルジュ殿下。ロシェルダを我が国に欲しいと言ったのは、間違いではありません。私は、私の婚約者を治せる医師を探しているのです」


 振り返るソアルジュに、セヴィアンは少しだけ寂しそうに笑った。


「私の婚約者は、生まれつき身体にアザがあるそうなのです。その為ドレスを着られないと。

 たったそれだけの事で私の婚約者ではいられないと、周囲に諌められ、その座を辞そうとしているのです。

 幼い頃からあったそのアザは、小さな頃は薄く目立たぬものでした。けれど歳と共に濃く大きくなってゆき、周りはそれを見苦しいと。王族に嫁ぐに値しないと断じたのす。

 ……彼女程聡明で情に厚く、国母として相応しい人など、どこにもいないと言うのに……」


 恐らく彼が婚約者を求めているという噂も、そこから来た話なのだろう。

 ソアルジュは理解した。彼の言わんとしている事を。

 ロシェルダと繋いだ手に力を込めて、実父を見れば、試すように瞳が細められた。

 ソアルジュは息を吐き、セヴィアンに笑いかけた。


「ロシェルダならきっと治せるでしょう。私は、あなたもまた一人の恋する男である事に、感謝するべきなのでしょうね」


 その言葉にセヴィアンも口元に笑みを刷いた。


「それでも、あなたが信頼に値しない者であったら、この話は進めなかった。ロシェルダはハウロ夫妻の大事な弟子だと聞いておりますから。

 もしロシェルダがこの話を受けるなら……恐らくこれ以上無い茨の道を歩く事となるでしょう。だからこそ、あなたの意思を、心を確認しておきたかった」


 ソアルジュは一つ頷いて、ロシェルダを見た。


「ロシェルダ。私は最初君にひと月の約束をした。君とした一番最初の約束だ。これ以上君の信頼を失え無い。違えたく無い。だから残りの二週間で、君に私の精一杯の誠意を伝える。……それで、決めて欲しい。私を信じ、道を共にしてくれるかどうか……」


 頼りなく揺れるソアルジュの瞳にロシェルダは頷いた。

 逃げてしまった先程の自分を恥じていた。酷い事をしたと詰っていた。そんな自分にやり直す時間を与えられるのだ。

 今度こそ思うままに心を開き、考え、決めたい。


「……はい」


 目を合わせて頷くロシェルダに、ソアルジュは嬉しくなって、もう一度彼女を抱きしめた。

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