第20話 使者

ソアルジュは気付けば自室に戻り、ソファに腰を下ろしていた。

 逃げていくロシェルダの背中を見送った後の記憶は無い。

 目の前に置かれたお茶は冷めているが、この世話を焼いたのは、こちらを心配気に見つめているリサだろう。


 ソアルジュにはどうしたらいいのか分からなかった。


 気持ちを受け入れて貰えなかったら、普通はどうするものなのか。

 誠心誠意伝えれば、思いは届くものだと、どこかでそう……高を括っていたのかもしれない。それがいけなかったのだろうか。


 手に入らないなら壊してしまえとか、遠ざけるべきだとか、相手の幸せを望むものだとかいう、以前見た劇役者の台詞が頭を過ぎる。けれどそれのどれが正解かというよりも、彼女が自分に背を向けて走り去った事実が胸に刺さり、項垂れた。




「……か。……殿下。……ソアルジュ殿下っ」


 ぼんやりとソファで過ごしていたソアルジュは、うたた寝でもしていたように、沈んでいた意識を自室に戻した。

 既に夕焼けは沈み、外には暗闇が降りて一日の終わりを告げている。

 ソアルジュは、はっとリサを振り返った。


「ロシェルダは? 彼女は部屋に戻ったのか?」


 外に向かって駆けて行ったが、向かった先迄確認していなかった。……放心していた自分に歯噛みする。

 何をしているんだ。


 (私は……変わりたいんじゃなかったのか)


 そんな言葉が胸に湧く。思い出したように。


 (好かれたい……)


 今でも変わらない自分の心。

 

 (その為にまだ何もしていない。全てを諦めるのは……何か一つでも変えられた自分を見つけてからでも、いい筈だ)


 そう思い、改めてリサを見ると彼女は顔をくしゃりと歪めて、大丈夫ですよと口にした。


「ロシェルダさんは、ハウロ医師のところにいます。今日は夫妻の元に泊まるそうです。……殿下の主治医では無いのに、あの部屋は分不相応だそうですよ」


 その言葉にソアルジュは、ほっと息を吐いた。

 彼女がまだ城にいてくれている。

 その事が僅かに自分の心に光を灯した。


 そしてふと部屋の端に見知らぬ従者の顔があり、眉をひそめる。

 その様子にリサは表情を引き締め、ソアルジュに告げた。


「国王陛下からの使者にございます」

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