第36話 夢の中でも、変わらずあなたが大好きです

   1

 微かに酒の余韻を感じながら自室でヘルマンの手記に目を通し、新しい発見がないことにクルトは吐息をこぼした。

 アズサの部屋へ繋がる扉をしばしの間眺めてから、視線を引き剥がす。

 魔女は、眠った頃だろうか。

 例えそこにあるのはアズサの体だとわかっていても、顔を見に行こうとは思えない。


 蝋燭ロウソクの火を吹き消し、ベッドへ潜り込む。

 何度か寝返りを繰り返してからやっと寝入ったところで――声が、聞こえた。


「クルト」


 アズサの声だ。


「クールト。クルトさーん。くぅちゃーん」

「……くぅちゃんはやめろ」

「あ、良かった。届いた」


 慌てて目を開けようとすれば、アズサの声がそれを引き止める。


「待って待って! 起きちゃダメ! そっちじゃないの。夢、夢の方にいるの!」

「夢……?」

「そうだよ。これは、夢。あなたは深ーい眠りに落ちます。そこで、愛しい恋人に再会するのでーす」

「夢じゃなくて、本物のアズサに会いたい」


 夢だと自覚すれば、霧が晴れるように視界が開けていく。

 泣きそうな笑みを浮かべたアズサがすぐそこにいて、手を伸ばして頬に触れてみたが、温もりや感触はわからなかった。


「私も会いたい。消えるのって、すごく怖いね。びっくりしちゃった」

「これは……本当に夢なのか?」


 クルトの手のひらへ頬を擦り寄せながら、アズサはどう説明するべきか悩んでいるようだった。

 目の前の存在は、クルトのよく知るアズサだ。表情の動かし方が、ラドバウトとは全く違う。


「よく、わかんないの。私、気付いたらここにいてね。あ、気付いたのはついさっきなんだけど……クルトを、呼んでたんだ」


 気付いてもらえて良かったと、アズサは笑みをこぼした。安堵と戸惑い混じりのアズサの笑みを見たらどうしようもなく、泣きたくなって、クルトはアズサを掻き抱いて泣き顔を隠す。

 やはり温もりは感じない。そのこともつらくて、悲しくて、涙が溢れた。


「……私、死んじゃったのかな?」


 不安げに揺れた、アズサの声。


「死んでない。生きてる。今、アズサの体にはラドバウトがいるんだ。それで、みんなでアズサを助けようとしてる」

「でも私……多分だけど、一度、死んだよ」

「死んでない!」

「本当? また、みんなに会える? クルトにぎゅーっとされて、匂いとか触った感じとか、わかるようになる?」

「なる。絶対」

「それなら、良かった」

「アズ」

「ん?」

「アズサ」

「なぁに?」

「……アズサ」

「アズサちゃんですよー」


 体を離して顔を覗き込めば、アズサがへらりと、気の抜けた顔で笑う。


「クルトが泣くの、初めて見た。可愛いね」

「アズが泣かせたんだ」

「……ごめんね」

「悪いと思うなら、アズサも泣け」

「え? 無茶振り」

「怖い思い、したんだろ?」


 こくんと、アズサは頷いた。クルトの胸元へ頬を寄せて、目を閉じる。


「今も、すごく、怖いよ」


 クルトは、アズサの髪を梳くようにして撫でた。触れているのに感触がないのは、妙な感じがするなと思う。

 それは、アズサも同じだった。


「抱き締められてるのに……触れてる感じが、しないの」


 背伸びしたアズサの鼻が、クルトの首筋の匂いを嗅ぐ。いつもなら感じるこそばゆさを、クルトは感じなかった。


「大好きなクルトの匂いも、わからない」


 クルトの胸元の服を両手で引っ張り、アズサはクルトの唇へキスして、すぐに離れた。

 じっとクルトの瞳を見つめる漆黒の瞳が、みるみる涙で濡れていく。


「触れるクルトに、会いたいよ……」


 静かに涙をこぼすアズサを抱き上げて、クルトはその場で胡座を掻いて座った。膝の上にアズサを乗せて、黒く艷やかな髪へ頬を擦り寄せる。


 泣きながら、アズサは自分の身に起きたことを話した。


 バウデヴェインの顔を見た途端、腹の底から湧き出てきた激情を必死に押しとどめていたら、ふとラドバウトの存在を感じて謝られた。まるで彼の言葉を合図にするかのように自分自身が崩れて行くのを感じて――全てが真っ暗になって、意識もそこで、途絶えた。


「それで、ここで目覚めて、俺を呼んでた?」

「うん。クルトがいるって、感じたから」

「多分だけどな。こうして会えたのは、アズサが戻る前触れだ」


 クルトは笑みをこぼし、アズサの額へ唇を押し付ける。

 アズサの涙を袖で拭いながら、今度はクルトが、アズサの体がラドバウトに奪われてしまってから起こったことを話して聞かせた。

 アズサの魂の事情についても、全てを包み隠さず教えたが「正真正銘、偽物の魔女だったんだね」と言って笑っただけだった。


「無理して笑わなくても良いんだぞ?」

「無理、してるように見える?」

「全く」


 あはははは、と明るい声でアズサが笑う。


「魂の始まりが誰かの複製品で、作られたものだとしても……私は他の人と同じように人間のお腹に宿って産まれ落ちて、みんなと一緒に生きてきたんだよ。それって、複製じゃない人たちとどう違うのかな? 逆に長年の謎が解決してすっきりした!」

「アズサの前向きなところも、好きだ」

「最近クルトは隠さず好きって言ってくれて、嬉しい」


 首筋に擦り寄ってきたアズサの髪を撫で、クルトもすぐそばの頭へ頬を寄せる。アズサが匂いと言っていたが、確かに感じないなと、こっそり落胆してしまう。

 花のように甘いアズサの香りが嗅ぎたいと考え、己の変態的な思考に若干引いた。そんなクルトの心の内に気付かず、アズサが口を開く。


「私の魂、みんなの体に間借り中なの?」

「あぁ、そうだよ。……アズサは、今でもラドバウトを信じられる奴だと思うか?」

「思うよ。どうして?」

「あいつは、アズサを泣かせた張本人だ」

「でも、わざとじゃない。私に謝った時のラドバウトさん、すごく動揺してる感じだったもの」

「……アズサのオリジナルだから、抜けた所のある奴ってことか?」

「そうかもね! 本当は、すごく明るくて楽しい人なんだよ。それと、奥さんと娘さんを溺愛してた」

「想像つかないな」

「私も、クルトが殺されちゃったら犯人を呪うだろうな」

「俺もだ。……早く、帰ってきてくれ」

「頑張る! でも、何をどう頑張ったら良いのかなぁ?」

「起きたら、ラドバウトに聞いてみる」

「うん」

「俺が寝れば、また会えるのか?」

「どうだろう? でも私は、ここから出られそうにない感じがするんだよね」

「それなら頑張るのは俺たちの方だな。ゆっくり休みながら、アズサは安心して待っていてくれ」

「良い子で待ってたら、迎えに来てくれるの?」

「約束するよ。絶対に、アズサを取り戻してみせる」

「うん! 大好きだよ、クルト」

「俺も大好きだ、アズサ。愛してる」

「戻れたら、たくさんキスしてね」

「わかった。嫌って言ってもやめないからな」

「嫌なんて言わないよ」


 二人、唇を重ねたが、互いに感触はしなかった。


「そろそろ、起きちゃうかなぁ?」


 指を絡ませ繋いだ手を、アズサが反対の手で撫でる。


「あ、そうだ! ラドバウトさんに聞いて欲しいことがあるの」

「何を聞けば良い?」

「私は、こうしてクルトと会話ができたでしょう? ラドバウトさんとは、できないのかな? 話してみたいんだけどな」

「聞いてみる」

「あとね」

「うん」

「みんなの所に間借りしてるのなら、私の分身? は、同じように夢でみんなに会ってるのかなぁ?」

「それも、聞いてみる」

「お願いしまーす」


 目眩のように視界が霞み、クルトは己の覚醒を感じた。


「おはよう、クルト。今日も一日、無理せず元気に頑張ってね!」


 遠くなったアズサの声を最後に、クルトは自室のベッドの中、夢から覚める。

 目を開けて即座にベッドから立ち上がり、アズサの部屋へ繋がる扉をノックした。返事がないということは、まだ眠っているのだろう。

 だが、いても立ってもいられず、扉を開けてアズサのベッドへ歩み寄る。

 白いシーツへ広がる黒髪。

 見慣れた傷痕のある顔を見下ろして、クルトは夢で会ったアズサに傷をどうしたいか確認し忘れたことに気が付いた。次に会えたら忘れず聞こうと、記憶に刻む。


「なぁ……おい、起きてくれ」


 触れることはためらわれ、ベッド脇に立って声を掛けた。

 長い睫毛が震え、瞼が持ち上がる。


「……夜這いではなく朝からとは、ハレンチ極まりない。中身はあの子じゃないのだ。自重しなさい」

「アズサに会ったんだ」

「寝ぼけているのか?」

「違う。夢で、アズサと話した」

「夢……? 記憶を、覗いても構わないか?」

「そんなことができるのか?」

「できる。私は魔女だからな」


 にやり笑った魔女が気怠げに動き、ベッドの枕元に置いてあった水晶を、胡座を掻いた膝へ乗せる。アズサは絶対にしない座り方だ。

 ベッド脇に立て掛けてあった杖を手に取ると、クルトに額を合わせるよう魔女が告げた。


「間違っても口付けるなよ。今、中身は男だからな」

「わかっている。あんた、結構うるさい奴だな」

「娘の恋人と、朝から額をごっつんこだなんて悲劇だ」

「俺にとっても、愛する人の体に男が入っているなんて悪夢だよ」

「お互い様か」

「早くしろ。話が進まない」

「おぉ、すまん。どうにも、人と言葉を交わせることに浮かれているのかもしれんな」


 苦笑を浮かべた魔女が咳払いをしてから詠唱を始める。フランクの薬のおかげか、昨夜より喉の調子は良さそうだ。

 魔女の手振りでの指示に従い、腰を屈めたクルトは額を触れ合わせる。特に変わった感覚もなく、許可が下りるまで大人しくしておいた。


「確かにこれは……お前が作り出した幻影などではなく、あの子自身だ」

「他には何か、わかるか?」


 そうだな、と呟いたきり魔女は黙り込み、見透かそうとするかのように目を眇めてクルトの体を見つめている。


「……どうやら、お前の魂が寄り添うことで、あの子は形を保っているようだ。だがお前の中のあの子の魂だけでは不完全だから、今この体に戻してもまた崩れてしまうだろう」

「他の奴らのアズサも同じ状態になっていれば、アズサは戻れるんだよな?」

「そうだな。他の子らの状態も確認しよう。それと、私とあの子は、直接言葉は交わせない。夢の中でも無理だ。同じ場所にあるとどうしても一つに戻る作用が働き、私はあの子の魂を吸収してしまうだろうからな」

「前に二度、お前はアズサの体を使ったよな? あれは、相当危険な行為だったということか?」

「あの時は、この体の主導権はあの子の方が強かった。だが、私がこの体を欲しいと強く望めば、その時点であの子の魂を壊す危険はあったな」

「……一つ、良いか?」

「なんだ?」

「アズサだ。あの子でもこの子でもなく、アズサって名前がある」

「知っているが、呼んで良いものか、わからぬのだ」

「会えないなら許可の取りようもないだろ? ややこしいから、アズサって呼んでやってくれ」

「許されるのだろうか……」

「そんなに気になるなら、アズサに直接許可を取る方法を考えれば良いんじゃないか? あんた、すごい力を持ってるんだろ」

「簡単に、言ってくれる」

「アズサがあんたと話したいと言ったんだ。何とかしてやってくれ」

「……方法を、考えてみよう」


 その後クルトは自室へ着替えに戻り、魔女の着替えは、フェナとリニとマノンとエリーがやって来て全てを整えてやっていた。



   2

 朝の日課でクルトが庭へ出ると、イーフォとリュドが既にいた。ヨスは昨夜飲み過ぎていたから、きっと起きられないだろう。ブラムとガイは勇一と共に朝食当番で、ハルムはクルトのすぐ後にやって来た。


「アズサと夢で会ったか?」


 前触れなく聞いてみたら、リュドと剣の打ち合いをしていたイーフォが憐れみの視線を向けてくる。


「アズサの夢を見たのか、クルト」

「見た。イーフォたちは見なかったのか?」

「俺だってアズサには会いたいけど、お前ほど切実じゃねぇからなぁ」

「切実に想え。頑張れ」

「俺がアズサを切実に想ったら嫉妬するくせに」

「アズサを取り戻すためなら目をつむる」


 柔軟体操をしていたハルムが、クルトとイーフォの会話を聞いて首を傾げた。


「アズサさんの夢を見るのと、魂の修復に関連があるんですか?」

「ハルムは察しが良くて可愛いな」

「えへへっ、ありがとうございます。でも残念ながら、僕はアズサさんの夢は見られてないです」

「そうか……。リュドはどうだ?」

「見ていないな。アズサは、何と言っていたんだ?」


 体を動かしながら、クルトは夢の中でのアズサとの会話と、今朝のラドバウトとの会話について話す。

 全てを聞き終わった後で、イーフォが嬉しそうに笑った。


「間違いなく、アズサだな」

「僕も、夢でアズサさんに会えるように頑張ります! アズサさんとの思い出でも語り合います?」


 ハルムの提案に、リュドが頷く。


「色々試してみるか。他の奴らにも夢の件、聞いてみよう」


 普段より早めに切り上げ、シャワーを浴びて着替えてから食堂へ向かう。

 洗濯は、休みの日や朝の空いた時間にそれぞれが自分の物を洗うが、泥と汗が付いた物はすぐに洗えと女性陣に言われているため、シャワーのついでに手早く洗って干すようにしている。

 朝の仕事を終わらせてから食堂へ入ると、魔女と女性陣はまだいないようだった。


「なぁ……トイレってさ、どうしてると思う?」


 イーフォの言葉を聞いたクルトが素早く振り向き、顔面を鷲づかむ。


「考えるな」

「妻帯者だったんだろ? それなら、女の体なんて見慣れてるんじゃないか」


 クルトの足がリュドの尻を蹴飛ばし、顔を鷲づかまれたままのイーフォは痛みに呻く。蹴られたリュドはクルトから逃げるように、足早にキッチンへと駆け込んだ。


「クルトさん、クルトさん」


 無垢な笑みを浮かべたハルムに呼ばれ、クルトは振り返る。


「俺がやる、とか言ったらダメですからね? さすがのアズサさんでも、クルトさんのこと、嫌いになっちゃうかもしれませんよ」


 頷きと共に、クルトはイーフォの顔から手を離した。

 ハルムがキッチンへ向かう背中を見送りながら、イーフォがクルトへ視線を向ける。


「クルト。お前、言おうとしてただろ?」


 ニヤニヤ笑うイーフォの顔へ拳を叩きこもうとしたがするりと避けられ、イーフォもキッチンへ駆け込んだ。

 クルトも歩いてキッチンへ向かう。


 朝食支度の手伝いをしながら、クルトは庭でしたのと同じ質問を繰り返した。


「アズサの夢? 俺は見てねぇな」

「俺もです。アズサさんが夢に出てきたら、何か良い事があるんですか?」


 ガイと勇一の返答に、クルトは少し、がっかりしてしまう。これではアズサとの再会はまだ先ということになるかもしれない。

 勇一からの質問には後で説明すると返して、クルトはブラムとコーバスへ視線を向けた。


「俺、見たよ!」


 コーバスが、明るく笑う。


「俺も見たな。少し、話をした」


 ブラムは、記憶を辿りながら告げた。


「十四、五……くらいの、まだ幼さが残るアズサだったな。ギルドのことについて、話した」

「俺のアズサはクルトに会うより前のちっこいアズサで、一緒に遊んだよ! んで? 夢にアズサが出ると何があるの? 帰ってくる合図?」


 合図に近いと、クルトはコーバスへ返す。

 クルトが見た夢とラドバウトとの今朝の会話について説明している途中で、女性陣がキッチンへ顔を出した。彼女たちは着替えを手伝いながら魔女に話を聞いたようだ。

 女性陣は全員、夢を見ていた。年齢もそれぞれ違っていたらしい。

 フェナが懐かしそうに、目を細める。


「出会ったばかり頃のアズちゃん、可愛かったなぁ」

「私は四年ぐらい前のアズちゃんだったかな? 会話の内容的に」

「リニはアズサと夢の中で何を話したんだ?」


 何故かリニがニヤリと笑った。何となく、嫌な予感にクルトはたじろぐ。


「恋バナだよー」

「イーフォのことか」

「クルトのこともだよ!」

「……否定しなかったな?」

「クルトのくせにぃぃぃッ」


 赤い顔をしたリニに二の腕を殴られたが、後頭部を殴ろうとしてきたイーフォの攻撃は避けておいた。


「続きは食事をしながらにしよう。食べる時間がなくなるぞ」


 ブラムから言われ、もうこのままキッチンに立った状態で食べてしまえば良いんじゃないかという空気になるが、フェナがあることに気付いて声を上げる。


「あれ? ヨスがいない! 私起こしてくる!」


 結局、ヨスを待つ間に食事は食堂へ運ぶことになった。


 フェナに連れられ食堂へ顔を出したヨスは、完全に二日酔いの状態。いつもの席に腰掛け、いただきますの挨拶の後で、コップへ並々と注いだ水を一息で飲み干す。


「弱いくせに調子にのるからだぞ」

「うるせぇ。酒が飲めないブラムに言われたくねぇよ」

「飲めないわけではない。好かないだけだ」

「アズサにも叱られたんだから、もう良いだろぉ」


 一斉に注目を浴びたことに、ヨスが怯んだ。


「ヨス。アズサはどんな姿だった?」


 クルトからの質問の意味がわからないと眉根を寄せたが、ヨスは首を傾けながら答える。


「そういやぁ……顔に包帯巻いてたな。あれは、クルトを庇って怪我した直後か」

「何を話したんだ?」

「具合悪そうだねって言われたから、酒飲み過ぎたって答えたら注意されて……その後は、なんか、俺も縮んで……そうだ。あの時したみたいに、アズサに対して怒ったんだよ。下手したら死ぬとこだったんだぞって。妹は兄貴に守られるもんだぞって、怒ったなぁ。怒りながらさ、なんでだか俺、あの時初めてアズサも守ってやらなきゃいけない奴なんだって気付いてさ。変だよなぁ……もっと小せぇ時から、一緒にいたのに」


 話す内に食欲が湧いたのか、ヨスはスプーンを手に取り温かいスープを口に運ぶ。

 ヨスへ、フェナがアズサの夢についての説明を始めたから、クルトは目の前に座るエリーへと視線を向けた。


「エリーのアズ姉はね、会った時の年齢っぽかったよ! 今になって思うと、こんなに小さな女の子が、大丈夫だよってエリーのこと抱き締めてくれたんだなぁって思ったら、なんだか泣けちゃった。……マノンのアズ姉は去年くらいって言ってたよね?」


 エリーから話しを振られ、マノンが頷いた。どこか表情が暗く見えるのは、エリーの話に触発されたからだろうか。


「去年、書庫でアズサが読み漁った歴史書の整理をしてたんだけどね、その時の会話をもう一度、夢の中でしたの。それで思い出したんだけど」


 マノンは言葉を切り、クルトと、ブラムへ順に視線を向けた。最後にアズサの席に座る魔女を見て、口を開く。


「アズサが、言ってたんだよね。この世界の文明は、一度滅びたのかもしれないって」

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