第12話 父親に懐かない息子

 しんごの寝る時間があるのであまり遅くまで外出は出来ない。二十一時くらいが限度だろう。車の運転は旦那がしてくれる。私が、

「疲れているんじゃないの? 運転変わろうか?」

と、言ったが、

「大した疲れじゃないから大丈夫だ」

と、言うので任せた。こういうタフなところが男らしくて好き。子どもの前だからそういう発言は控えているけれど。でも、たまには抱かれたい。愛している夫に。

大手スーパーマーケットに今来ているけれど、混んでいる。食事をするスペースはどこも満席のよう。しんごが食べたがっているお子様ランチを置いている店も満席。お子様ランチを置いている店で一番空いている店を選んでしんごと夫の康太に、

「この店の前で待とう? 椅子もあるし」

と、言うと康太は、

「そうだな、そうするか」

と言い、しんごは泣きそうになっていた。

「しんご、どうしたの? 疲れちゃった?」と訊くと、大きく頷いた。

今の時刻は午後二十時頃。少し客足が引いて来たように感じる。

「ここで食べて帰ろうか。しんごが可哀相だから」

 康太は黙っていた。しんごは頷いた。すっかり意気消沈してしまった。

「しんご、そこに座って待とうね」

 そこに女性店員がやって来て、

「いらっしゃいませ。もう少しお待ちいただくことになりますがいいですか?」

「はい」

 と、私は言った。しんごを椅子に座らせて私も座った。康太は、

「俺は立っているよ」

「ごめんね」

 と、私は言いしんごは寄りかかってきた。

「しんご、大丈夫? もう少しだから」

 息子は何も言わない。

 

 ――約十五分待ち、さっきの女性店員が笑顔でやって来た。

「お客様! お待たせしました。こちらへどうぞ」

 感じのいい店員、と思った。

 中は割と狭く、でも蛍光灯の光が眩しいくらいに明るい。まるで、勉強机に付いている蛍光灯のようだ。一番奥の席に案内された。奥の席に康太が座り、私としんごはその向かいに座った。どうしてしんごはお父さんの隣に座らないのかな。きっと、旦那も気にしているだろう。なので、しんごに言った。

「たまにはお父さんの隣に座りなさい」

 すると康太は、

「子どもに余計な気遣わせるなよ」

「余計? 余計じゃないでしょ」

「そうか? しんご、お父さんの隣に来ないか?」

 しんごは私に寄りかかってきた。行く気がない様子。

「やっぱ、来ないじゃないか! 何でだよ」

 私は、

「ほら、しんご。お父さんがおいでって言ってるよ」

「いやだ。おかあさんがいい」

 すると、しんごは私の腕を掴んで抱き着いた。

「けっ、なんだよ。可愛くないな」

 そこで別の女性店員がやって来た。

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」

 その店員はとてもソフトな雰囲気を醸し出しており、優しいオーラを放っていた。同性であるにも関わらず、思わず笑みが漏れた。

「どれにする? しんご」

 しんごが指差したのは迷いもせずに玩具がセットのメニューを選んだ。康太は、

「うーん」

 と、迷っている。私は、

「たらこスパゲッティ」

 そう言った。旦那の方を見るとハンバーグを凝視している。やっぱり、男だなぁと思い少し笑ってしまった。

「炭焼きハンバーグ」

 言いながら店員の方を旦那は見た。

「かしこまりました。復唱致します。お子様ランチお一つ、たらこスパゲッティお一つ、炭焼きハンバーグお一つ、ですね?」

「はい」

 と、返事をした後店員は、

「失礼致します」

 そう言って厨房の方へ行った。

「楽しみだな」

 と、康太。

「そうね、久しぶりね。三人で外食するのは」

 と、私。

 しんごは私にくっついたままだ。息子がもっと父親に懐けばいいのだけれど。仕方ないわね。そう思うことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家族 遠藤良二 @endoryoji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る