第11話 旦那の帰宅
時刻は午後六時三十分頃。旦那の松本康太が帰って来たのか家のチャイムが鳴った。私は嬉しくなり玄関に走っていった。一週間ぶりに帰ってきた夫。
施錠を外すとドアがゆっくり開いた。
「あなた! おかえりー!」
私は満面の笑みで康太を出迎えた。
「ただいま、あずさ。しんごは?」
「テレビ観てるよ。いつものアニメ。さっきね、三人でお買い物に行こうと話してたところなの」
「おっ! マジか。そいつは楽しみだ」
私は、うん、と頷いた。
「それと後で話したいことがあるの」
「話し?」
康太は不思議そうな顔つきになった。
「うん、しんごのことで」
彼は真っ直ぐ私を見て、
「わかった」
と言った。
私は夫が持っているビニール袋に入った洗濯物やゴミ、大き目のバッグを持っていたのでそれらを受け取り、
「お風呂沸いてるわよ」
「買い物は何時ごろ行くんだ?」
「あなたがお風呂から上がったら行こうと思って」
「そうか、じゃあ、入ってくる」
康太は浴室に行く前にしんごに話し掛けていた。康太はしんごに会えてさぞ嬉しいだろう。
約三十分後。康太がお風呂から上がって来た。夫は私達がいる居間に下着姿で来て、
「さっき、しんごを風呂に誘ったけど断られた」
康太は苦笑いを浮かべている。
「おかあさんとはいる」
彼は、
「おい、しんご。そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないか」
と、言い、
「ひひー」
と息子は笑っている。
旦那の顏をちらりと見ると、表情が硬い。
「そんなにおかあさんがいいなら、おかあさんと二人で買い物へ行け」
「ちょっと、あなた! 何を言い出すの。子どもじみたこと言わないで」
康太は俯いてしまった。すると、
「わーん、おとうさん、こわいよう。けんかしないで、おかあさん」
泣き出したので私は慌てた。
「あっ! しんごごめんね。でもね、おとうさんもしんごに会いたくてしんごとおかあさんのために一生懸命働いているの。だから、おとうさんのことも考えてあげてね」
「……はーい」
「康太。三人で買い物行こう」
「いいのか?」
「うん、しんご行くよ」
「何で行くの?」
康太は呆れたのか、笑っている。
「こりゃ、今回は行けないわ。何でいくの? ときたよ、ハッハッハッ!」
「あー、もう! せっかくおとうさんが帰って来たのに……」
こんなことになるなら夕食作っておけばよかった。
「じゃあさ、夕ご飯作ってないからご飯食べにいこ?」
しんごと康太は笑顔になり、
「ぼく、はたがついたおべんとうがいい!」
「はた?」
康太の頭の上に疑問符が浮いているように見えて可笑しくなった。
「お子様ランチのことでしょ」
「あっ! そうか」
今度は疑問符から電球マークに変わった。思わず笑ってしまった。
「さあ、着替えていくよ!」
こうして何とか出掛けることが出来る。良かった。
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