第11話 ラグナロクの果てに

 俺は再び地球を訪れることにした。彼女に花を手向たむけるために……。


 ユミルから伸びた根は地球全土を覆うほど広がった。

 しかしそれは星を破壊するどころか、緑を再生し、青い空を取り戻す結果となった。


 そしてあの変人科学者――ブーリは残された大樹を研究することで、アンノウン正体不明ウイルスの正体を突き止めた。

 ダークマター暗黒物質世界に生息する微生物が、ウイルスを変質化させていた。

 ブーリはさらに大樹から採取される成分から、抗体を生成することを成功させた。


 おかげで……俺の娘も回復に向かい、今では元気にハイスクールに通っている。


 ブラウンズビルでかつて彼女を追った道を辿って歩いていくと、目の前に銀色の大樹が見えてきた。

 大樹の根元まで来たところでひざまずいて、花束を置き、十字を切った。


「あんたか……」

 後ろを振り向くと、そこにブーリがいた。被っていた帽子を脱ぎ、深々と頭を下げた。


「あなたには本当に申し訳ないことをした……自分の娘の命と引き換えに、あなたの娘さんの命を奪った」

「……本当のユミルはすでに亡くなっていた。あれは……彼女が与えてくれた一時の夢だと思っているよ」

「あなたのおかげで娘の笑顔をもう一度見ることができた、感謝している」

「礼なら……ユミルに言ってほしい。彼女が残してくれた大切な遺産だ」


 上を見上げると、大樹の木漏れ日が至るところに差し込み、光のカーテンをなびかせていた。


「結局、彼らは侵略者だったのか、守護者だったのか……」

「どちらでもない、同じ宇宙に生きる家族なんじゃないかと思っています」


 よく見ると、大樹には銀色の大きな実がっていた。

 その実は今にも落ちそうなほどれていた。


「この大樹は実が生るんですね……。あ、っと危ない!」


 俺達の頭上に真っ逆さまにその実が落下してきた。俺はブーリを抱えながら、すぐ横に倒れこんだ。

 ドシャっという音とともに、地面に落ちた銀の実は割れた。


「危なかった……。ん、あれは……」


 割れた実の中から見える白い物体。

 俺達は恐る恐る近づき、その中を覗いてみる。


 そこに見えたのは、銀髪の少女の眠る姿。

「これは……ユミル!」

 ブーリはすぐに少女を抱きかかえ、声をかけた。

「ユミル……ユミル!」


 少女は目をゆっくりと開くと、ブーリを見つめながら口を開いた。


「おとう……さん」

「ユミル!」

 ブーリはいつまでもユミルを抱擁したまま、その顔を涙で濡らしていた。

 

 俺はいままで信じていなかったが、この時確信した。

 神話世界に出てくる「奇跡」ってやつは、本当にあるんだな……と。

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