第5話 ヴィリーの女神 ソール

 カツーン、カツーン

 俺のブーツの足音が、ひび割れたタイルの床に反響する。


 戦時中の嫌な記憶が蘇る。

 突如、現れた地獄の門“アクシオンゲート”。


 アクシオン=暗黒素粒子が集積して、ダークマター暗黒物質世界からの入口が開いた。

 そこから舞い降りる異形の物体、それを殲滅せんめつするために宇宙連合艦隊が組織された。


 俺は前線となる惑星で、地上に落下した反物質生命体を破壊する特装歩兵団に所属していた。

 形状はなんとも形容しがたい幾何学構造物。彼らは無限に拡張し、惑星全土を飲み込み始めた。

 最後はアンチグラビティキャノン反重力粒子砲で惑星ごと破壊することになった。

 

 俺は惑星が崩壊する寸前、脱出に成功したが……多くの兵士はそこで息絶えた。

 あの時仲間を見捨て、生き延びた俺だが……やはり呼ばれているのかもしれない。


「ああ、ヴィリーさん……面会ですか?」

「娘に会わせてくれ」

「面会時間は三分です。隔離病棟には防護服着用で入ってください」


 防護服に体を包み込むと病室の前まで向かい、コンコンとガラスを叩き、ガラス越しに声をかけた。

「ソール、元気か?」

「パパ……」


 ベッドに横たわる娘が俺のほうに顔を向けた。口には人工呼吸マスク、鼻から伸びるチューブは得体の知れない機械に巻き付いていた。


「いい仕事が入ったんだ……。うまくいけば、もう少しマシな病院に移ることができるぞ」

「いいのよ、無理しないで。大丈夫、もうわかっているから」

「何がだい?」

「もう私……長くないんでしょう?」

「ふざけるな、ちょっと体の調子が悪いだけだ。治療法はすぐに見つかる」


「パパは長生きしてね、私の分まで楽しんでほしい……」

「違う……。お別れに来たのは俺のほうだ」

「どういう……こと?」

「ちょっと厄介な仕事でな、戻ってこれるか保障がない」

「やめて……そんなこと」

「ソール、お前は俺のすべてだ。お前のためならなんでもやる、たとえ人殺しでも」

「パパ、お願い、やめて、ハァ……ハァ……」


 “ブー”

 ――ヴィリーさん、面会時間終了です。すぐに退出してください――


 備え付けのスピーカーから連絡が入った。


「ソール、必ずお前を元気にさせる。そのためなら悪魔にすら魂を売り渡そう」

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