第9話 試験が終わって

「・・・・ん、んぅ」


うっすらと白い光が差し込み、ヘミリアは覚醒を促された。目を開けると映り込むのはやけに低い白の天井と――――


「気がついたかの。ヘミリア・ハートヴィル嬢。」


ヘミリアが横たわるベットの側に座り、ニコニコと微笑んでいる禿頭の老人の姿だった。


「カミノ先生、、、ここは?」


「ここは会場内の救護所じゃよ。お主は竜夜に刀の腹で顎を打ち抜かれてな。気絶してしもうたから、儂がここまで運んできたんじゃよ。体調は大丈夫そうかの?竜夜は気絶しただけだから大丈夫だと言っておったが・・」


「はい、大丈夫そうです。もう起きられます。」


そう言うとヘミリアは体を起こす。そして深々とため息をついた。


「はぁぁ・・地力が違ったとはいえ、負けることはやっぱり悔しいですね。」


「まあ、そんなに気に病むこともないわい。竜夜は年老いたとはいえこの儂にも何でもありの全力勝負で勝っておるからの。現時点ではお前さんが勝てる相手ではないよ。」


「・・・元SMO最強と呼ばれた【災害ディザスター】にも勝ってるとか、、ホントに何者なのよ、あの人は」


化け物より化け物じみている。・・・いや、それもいまさらだろう。


最後の一瞬、竜夜の影から現れた闇からは誰かが自分を見つめているような途方もないプレッシャーを感じたし、そもそも闇を発生させる霊能力なんて聞いたこともない。きっと彼の固有能力によるものだろうが、勝負が終わった今では彼にもう一度挑もうという気概はもうなくなってしまった。


(あっ、そういえば)


「カミノ先生、彼はその後どうしていますか?」


「竜夜なら二人の戦闘でめちゃくちゃになってしまった周りの環境を元に戻しに行っておるよ。」


その回答を聞いたヘミリアはグッと決意の表情を浮かべ、ついにその質問をした。


「・・・・カミノ先生、あの男は一体何なんですか?」


「何、とは?」


「とぼけないでください。確かに彼がSMO最強と呼ばれるのも戦った今だからこそ分かる。でも、いくらなんでも。私は海外でいくつか別の組織の人と戦いましたが私の攻撃を受けきった人も数少なく、【冥界をも照らし清める天王の聖剣クリエンサー・ホーリーソード】まで発動させる必要もないくらいでした。私も能力者として修行を重ねています。それでも彼に追いつけるビジョンがまるで見えません。」


「ほっほっほ、確かにのう。あやつの強さは別次元じゃ。しかし儂がその強さの理由を喋ってしまってはいかんのでな。一つの要因について語るにとどめておこうかの。ヘミリア嬢。君は「御影」という名字に聞き覚えはないかの?」


「御影?・・・・そんなことは」


知らない、問と言い掛けたが、たった一つだけその性を持つ者の名前を聞いたことがあった。


「・・・・まさか5年前のあの戦いですか!?」


「いかにも。5年前、つまり竜夜がまだ小学6年の時のことじゃ。福井県で発生した霊力の異常発生によるいにしえの怪物、八俣遠呂智やまたのおろちの再臨。それに勇敢に立ち向かった二人の英雄。その二人の名字が「御影」じゃよ。竜夜はその二人の間に生まれていた一人息子じゃ。竜夜は二人から様々な技術や体術を学びそしてたくさんの愛情を注がれ育っておった。」


「なるほど、だから彼はあんなにも規格外の力を・・あれ、でも、その戦いの結末って確か・・・」


その続きを遮るかのように神野校長が続ける。


「ともかく、竜夜の強さの根底にはそれがある。後はあやつの努力の賜物じゃて。」


そしてもう離すことは何もないとばかりに立ち上がり、出口へと歩いていく。ヘミリアはなおも校長に何かを言い募ろうとしたが結局続く言葉が口から出ることはなく、校長の後を追って歩き出した。


そして二人は救護室を出て、会場である体育館に戻ってきた。会場はちょうど閉会式を行っている真っ最中であった。壇上には夏美姉妹と竜夜が立っている。開会式の時と同じように夏美の手で素早く閉会式も締めくくられていく。


「はーい、みんな今日はお疲れ様!ランクの審査結果や総合評価は郵送しておくから家に帰ってゆっくり休んでね。それじゃあ、かいさーん!!」


その夏美の声で新人たちは解散となった。その直後から早速、組織の人間による声かけ、もといヘッドハンティングが行われている。組織はこの新人試験のような場で才能のある能力者や、組織本部に所属して他の霊能力者のサポートしてくれる人材を探している。今年は良き年だったようで、去年よりも多くの新人に声がかかっているようだ。そんな様子を横目で見つつ、竜夜はヘミリアと校長がいる場所へと足を運んでいた。


「おーい、ヘミリア。体はもう大丈夫なのか?」


「ええ、心配無用よ。柔な鍛え方はしていないから。」


(これは鍛え方次第でどうにかなるものじゃないんだけどなぁ。)


「そ、それよりその・・・名前呼び。本当にするのね。」


「だって、ヘミリアがいいよって言ったんでしょ。せっかくだし、呼ばせてもらおうと思って。」


ヘミリアはなれない名前呼びに赤面し、竜夜は楽しそうに笑っている。そんな二人の微笑ましいやりとりを見ていた校長は竜夜に対してこんな提案をした。


「竜夜くん、ヘミリア嬢を君の弟子にしてはもらえないだろうか。」


「弟子、ですか・・・」


「左様。ヘミリア嬢ほどの実力者を預けることのできる人物は儂の知る限りお主しかおらん。どうか頼まれてはくれんかのう。」


「・・・分かりました。ヘミリアがそれでいいと言うのであれば。」


「もちろん!お願いします!」


「ほっほ、決まりじゃな。それならば竜夜君の家に近い住居を用意させよう。今後はそこに住んで彼から一つでも多くのことを学びなさい。」


「はい!カミノ先生、ありがとうございます。」


「なんのなんの、それでは儂は諸々の手続きをするので本部に帰るとするよ。」


そういった校長は踵を返し体育館の会場から出て行った。すでに新人たちや組織の人間も片付けや用事を済ませ帰っている。そんな誰もいなくなった会場で二人は改めて師弟の契りを結ぶ。


「これからよろしくお願いするぜ、ヘミリア。」


「こちらこそ、しっかりと修行していつかあなたを超えてみせるわ。竜夜。」


これにより竜夜は生まれて初めての弟子を獲得する。そして二人はさらなる高みを目指して走り出すのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る