第8話 霊能力者新人試験 (模擬戦闘②)

竜夜は二次試験の最後に開会式前のあの少女と対峙していた。強い霊能力者同士の対峙は大気を震えさせ、霊力のせめぎ合いで建物が揺れ始める。そんな中で竜夜は少女に質問を投げかける。


「ねえ、開会式の前に俺をじっと見てたよね?俺に何か用事でもあった?」


「いいえ、ただあなたを見つめていただけよ。噂の最強の男がどんな人なのか見てみたくって。」


「そうか・・君名前は?」


「私の名前はヘミリア・ハートヴィル。ヨーロッパの名門、ハートヴィル家の娘よ。あなたと同じ高校2年生よ。よろしくね、最強の霊能力者さん?」


「俺の名前は御影竜夜だ。そんな風に呼ばれるのはあまり好きじゃないな。」


「じゃあ、こうしましょう。あなたが私に勝ったら私のことをヘミリアって呼んでもいいわよ。私のことを名前で呼んでいいのは私が許可した人だけだもの。そのかわり私があなたに勝ったら私にSMOのエースの座を譲り渡しなさい。」


「なあ・・・その条件は俺にうまみがほとんどないんだが・・」


「あら、こんな美少女とお近づきになれるのよ?それに最強の霊能力者さんはいたいけな新人に対等な取引を強要するつもりなのかしら。」


「自分で自分のことを美少女っていうかなぁ・・・はぁ、もうわかったよ。好きにしてくれ。」


「じゃあ、決まりね!私はなんとしても組織の中でのし上がらなければならないの。あなたに勝って一気に上り詰めてみせるわ。」


「勝てたら、の話だけどな。」


その言葉をきっかけに益々大気が震えていく。観戦している者たちは固唾を飲んで、いつスタートするかを待った。そしてついに審判が宣言する。


「これより二次試験最終戦、御影竜夜対ヘミリア・ハートヴィルの試合を開始します!」


審判が合図代わりに大きく手を打ち鳴らした瞬間、二人は同時に動いた。


竜夜は腰に下げた刀を抜き、ヘミリアも手に持つ杖の先に魔力を収束させ光の剣に生成すると二人はクロスレンジへと距離を詰める。まずヘミリアは剣を槍のように素早く突き、動いていた竜夜にいきなりの先制攻撃を仕掛けてきた。それをさすがの反応速度で打ち落とした竜夜はお返しとばかりに刀を軽く振るう。しかしこれは打ち落とされたヘミリアの剣が下から刀を打ち上げ有効打にならない。


「へえ、なかなかやるな。」


「そっちも、最強の名は伊達じゃないみたいで安心したわ。」


軽口をたたき合いながらも二人はお互いの次の動きに意識を集中させる。その間も体は休むことなく動き、得物同士が音を立てて攻撃を防ぎ相殺する。そうして何合か打ち合った後、ヘミリアは突然バックステップで距離をとり剣で竜夜のいるあたりを薙ぎ払った。


それを防ごうとした竜夜だったが戦いの日々で培った第6感ともいえる何かが警鐘を鳴らす。咄嗟に防ぐ動作からステップに切り替えて後ろに下がった竜夜にヘミリアは驚きの表情を浮かべた。


「どうして今のを避けようと思ったのかしら。」


「さあ、なんか嫌な予感がしたんだよ。」


竜夜のその返答に満足がいったのかヘミリアは警鐘の正体についてネタばらしをした。


「ご名答。私の光剣は自由自在に分解と再構成をすることができるのよ。今あなたが刀で受けていたら私は勝利していたわね。」


「なるほど、最初の一撃目、あれは俺に刀で打ち合うことができると印象づけるためのブラフだったのか。」


「またまたご名答ね。でもこんなにすぐに見破られるとは思っても

みなかった!っわ!」


会話の最中にも隙を逃さず剣で切り払う。しかしタネが割れた攻撃が竜夜に通るはずがない。


「もう原理はわかった以上俺には通用しないぜ?降参したらどうだ。」


一歩下がって避けた竜夜に対して、しかしヘミリアは不敵に笑う。


「そう、原理は見破られた以上もう私に勝ち目は薄い。だからあなたを倒す!」


そう言ったヘミリアは突然跳躍して大きく後ろへと下がった。倒すと言いつつも後ろへと下がったヘミリアの行動に竜夜は疑問を覚え――――次の瞬間、それは旋律によって解消された。


「地の底まで照らし尽くせ、天上の熒光ひかり


光剣を空へ掲げた瞬間、その光が縦横に膨張し――――ついに巨大な光の剣となって雲を散らした。


『なんだこれぇぇええ!!』


『こんなのに適うわけがない・・』


試合の様子を見ていた新人たちや試験官も口を開き、呆然としている。夏美たちや玉藻ですら固まって動けない。これぞヘミリアが今できる最高威力の攻撃魔法。彼女はその力を持って


「【冥界をも照らし清める天王の聖剣クリエンサー・ホーリーソード――――!!】」


しかし、そんな中で光の剣を正面に見据える竜夜だけは――――笑っていた。


(ここまですごいなんて思ってもいなかった。だからこそ超えたくなる!!)


新人試験という模擬戦闘にここまでの力を注いだ少女に敬意を表するためにも己の最高をぶつけることを竜夜は選択した。霊力で身体を数十倍に強化し、次の一撃に全霊を込める。


幾度となく戦いを繰り返してきた彼の肉体はヘミリアを打ち倒すその次の一撃を放つ構えをすでに知っていた。故に身体は自然と導かれるように構えを取る。


身体を斜めに構え、背骨ごと捻りこむように腰を捻る。

刀を持つ手は右手一本のみ。

鞘に収めた刀を脇腹を通し背中に回すように持ち、左手でその根元を掴んだ。


それはいわゆる居合抜きと呼ばれる構えであった。


その構えを一見し――ヘミリアは竜夜の意図を読み取った。


自分の剣が届く前に、竜夜が最速で自分に刃を届かせるつもりなのだと。刃を振るう人物は自分よりも何倍も戦闘をこなし自らの武を高めあげた剣士だ。その剣士が振るう居合抜きの速度はヘミリアには想像も付かない。だがそれでも――問題ないとヘミリアは断じた。


当然だろう。竜夜が斬撃という手段を執った以上、リーチの差は埋めようがない。何をどうしたって自分の刃が先に届く。ならば――――


(アタシの、勝ちだ――ッッッ!!!!)


それを確信して、ヘミリアは一歩強く踏み込み、光の剣を竜夜に向けて突き出す。そこでヘミリアの集中力は極限まで高まる。景色や色は吹き飛び、真っ白な視界に移るのは今まさに剣を振るう竜夜の姿だけ。


そんな姿以外が何もかも消え去った世界で――――――ヘミリアは見たのだ。


剣を振るう竜夜の影から刃に向けて収束する”闇”を。


その闇は刃を覆い尽くし、刀を一本の黒い棒きれにして光の剣と打ち合った。その瞬間、光の刃は瞬く間に闇へと吸い込まれついには跡形もなく消えてしまった。そして速度を微塵も緩めることなく刀は迫り来る。


迎撃も回避も悲鳴すら追いつかない速度の中でヘミリアは刃に顎を打ち抜かれ、意識が強制的に墜ちていく。崩れ落ちるヘミリア。


「そ、そこまで!勝者、御影竜夜!!」


審判の声とともに試合の終了が告げられる中、その場にいたすべての人たちが目の前で怒ったハイレベルな戦いに対して、言葉を失い、ただただ最強の男を見つめていた。――――こうして霊能力者新人試験は全行程を終了したのだった。

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