第5話 霊能力者新人試験当日(入り口まで)
さて、竜夜が面倒な試験官を押しつけられ友達や身内にまで突き放された日から早二週間、つまり今日は霊能力者新人試験当日だということだ。今日は祝日で平日でありながら休みのため気兼ねなく試験を行えるということでもある。
「はあ、憂鬱だー。」
そんな彼がどこに向かっているかというと、新人試験の会場だ。去年は家の近所の施設で夏美や冬華もそこへ来て試験をしたが、今回は模擬戦闘もあるということで電車で15分ほどの距離にあり、組織が所有する体育館を会場に充てるとのことだった。
「ほれそんなことを言っておらんと、もうちっとシャッキリせんか。夏美や冬華も来るんじゃぞ。」
新人試験云々ではなく単純に夏美と冬華に会うことが目的の玉藻は気楽そうだ。なお玉藻は実体化することももちろんできるのだが、常に巫女服を纏っているため目立ってしまう。そのため公共交通を利用する際や人混みの多い場所では透明になり浮遊してもらっている。今も、座席に座っている俺の耳の上あたりに浮遊してそんなことを言っている状況だ。
「そう言ったって、憂鬱なものは憂鬱だよ。面倒くさい・・」
「他人から何を言われようと最終的に決めたのはお主じゃろ?ならば、最後まできっちりやり遂げんとな。」
ぐうの音も出ない正論に閉口すると、電車のアナウンスが流れてきた。
{まもなくー○○、○○}
どうやら彼らが降りる駅に着いてしまったようだ。二人は電車を降り、改札を出ると会場である体育館に向かって歩き出した。駅からはそんなに離れていないとのこと連絡があったので、割とすぐに会場に到着することができた。
「中々、大きな体育館じゃのう。それに防御術式が至る所に張り巡らされておる。これなら竜坊が少し本気を出しても壊れるようなことはないかの。」
「ああ、そうみたいだな。」
玉藻の言うとおり、建物本体はもちろんのこと周辺の道や住宅にも術式が刻んである。そしてここに夏美と冬華も到着しているはずなので竜夜は早速中に入ろうとしたのだが・・
「おい、おまえ。そこで何してるんだ。」
突然、車から降りてきた男の子に呼び止められてしまった。見ると、その子の後ろには黒服姿の男女が4人ほどいて後ろにはさっきまで少年が乗っていたであろう黒塗りのワゴン車が停車されていた。驚いている竜夜に対して無視されたと受け取ったのか
「おい!そこのお前だよ。そのヒョロッとして細長いやつ!」
と、口調を強めて怒鳴ってきた。少年は続けて言う。
「ここは今日、貸し切りなんだ。お前みたいな一般人は立ち入り禁止なんだよ!さっさとどっか行けよ!」
きっと、新人試験を受けに来た子なんだろう。どうやら竜夜のことを体育館に入ろうとしている一般人だと思っているようだ。しかしおかしい。霊能力者であれば、霊力を目に集中させて相手の力量を計る“霊視”が使えるはずだが、この子はそれを使ってなお竜夜を一般人だと思い込んでいる様子だ。この子の弱点は霊視能力が弱いと言うことだろう。玉藻の姿も見えていないようだ。
しかも、言葉遣いも失礼だ。どう見ても中学生くらいの子なのに高校生の自分に対して敬語どころか、自身が特別だと思い込んで周囲を見下しているのが丸わかりだ。まだ会場にも入っていないのに帰りたくなってきた。
「おい!なめてんのか?なめてるんだったら・・」
「そこまでにしたらどうですか、赤羽さん?底が知れますよ?」
なおも少年は竜夜を追っ払おうとして言葉を紡いだとき、今度は俺の反対側からこれまた男の子の声がした。嫌な予感がしつつそちらを振り返ると、こちらも少年が立っていて黒服の人たちも横に控えていた。その少年は続ける。
「一般の方にあまり威張り散らさない方がよろしいですよ?先ほど言いましたが底が知れるので。それに迷惑ですからね。」
「うっせー、青山。お前も来やがったな。どうせお前は集まった中の最下位で試験を終えるんだぜ?来ない方が良かったんじゃねぇか?」
「そちらこそ、僕に負けて赤っ恥をかくんですからハンカチを用意しておいた方がよろしいですよ。」
どうやら最初に絡んできた少年は赤羽で次が青山というらしい。そして二人は犬猿の仲らしく竜夜を挟んで言い争いを始めた。その言い争いを聞きながら竜夜はだんだんイライラしていた。やりたくもない仕事なのに初っ端から面倒事なのだ。イライラもするというものだ。
そうやって二人が言い争いをしていると、体育館の扉が開いた。そしてそこには二人の少女がいた。
「何の騒ぎなの?これは。」
「近所迷惑になるから静かにしてください。」
二人が出てきた瞬間の少年たちはとんでもない早さの身の変わり様を見せて同時に二人に近寄った。
「夏美様!悪いのは俺じゃありません。悪いのは・・・」
「冬華様!悪いのは僕じゃありません。悪いのは・・・」
「「あいつ(だ)(です)!!」」
なんとここで少年たちは竜夜を指さしたのだ。無関係だったはずなのにいつの間にか巻き込まれていたようだ。少年たちが指さした方向を二人の少女も追う。そこでようやく竜夜の存在に気づいたようだった。
「竜にぃ!!」
「竜夜お兄ちゃん!!」
言葉が早いか、行動が早いか。その言葉の通り二人は竜夜に駆け寄って抱きついてきた。竜夜も二人を抱きしめ返す。久しぶりに会えたからこれくらいは許されるだろう。
「竜にぃ!来たら連絡してよ!すぐに表に出たのに。」
「うん、うん」
「ごめんごめん、中に入ろうとしたらあの子たちに邪魔されちゃって。」
夏美は小さな体とよく日焼けした小麦色の肌が特徴的な女の子だ。玉藻に似たクリクリした瞳をしているがその瞳の色は反対の赤色に染まっている。
一方で、冬華は高校1年生にしてはかなり高い身長と雪のように白い肌が特徴だ。スッと切れ長の瞳は玉藻の瞳の色合いよりさらに濃い藍色になっていて、顔つきも大人びている。
俺と夏美たちが再会を喜び合っている間、二人の少年はポケーとしていて何が起きているのかわかっていないようだった。そして何が起っているかわかっていないため、見当違いにも竜夜を罵倒してしまった。
「なに、勝手にその人たちに触っているんだよ!早くどけよ!」
「そうですよ。即刻どいてください。」
どうやらその言葉は竜夜を慕ってくれている少女たちをキレさせるには十分だったようで、彼の胸に顔を埋めていた二人はゆらりと振り返ると鋭い言葉の矢を放っていく。
「何言ってんの?この人が誰かわかってないの?この人は今日君たち新人の試験官をやってくれるために忙しい中わざわざ来てくれた人なんだよ?」
「霊能力者として恥ずかしいですよ?」
「その前に竜にぃに暴言吐くとか信じらんない!」
「人生をやり直させてあげましょうか?」
美少女である夏美と冬華から余りにもキツい暴言をもらった二人はただただ顔を真っ青にしてブルブル震えていた。そんな二人にとどめを刺すべく夏美と冬華はついに俺の正体について言い放った。
「この人は・・」
「この方は・・」
「「SMO最高戦力であり最強の御影竜夜お兄ちゃんだよ?」」
最後の正体暴露がとどめになったのか少年たちは白目をむいて気絶してしまった。少しやりすぎかとも思ったがイライラが解消されたのでむしろグットだ。竜夜がありがとうと言うと二人は嬉しそうに笑ってくれていた。一悶着ありながらもようやく竜夜は霊能力者新人試験の会場へと入場することができたのだった。
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