第3話 霊能力者新人試験 (面倒事)

竜夜は小町先生に追いつき先生と一緒に廊下を歩いていた。廊下の窓からは桜が散り始めていてその花びらがひらひらと舞っている様子を見ていると自然と眠気に誘われる。竜夜がそれに従って大あくびをすると、小町先生が申し訳なさそうに言った。


「ゴメンね竜夜君。疲れてるのに呼び出しちゃって。」


「いいですよ。少し眠いだけなんで。」


そう返すと小町先生は嬉しそうにいい子いい子と褒めてくれた。竜夜は言われた言葉をかける適正年齢を考え、少し恥ずかしくなりながらも呼び出した要件について改めて尋ねた。


「それで先生。俺を呼び出した理由って何ですか。」


「それがね、私にもわかんないの。校長先生に竜夜君を呼んできてくれって頼まれて今こうして校長先生の元に向かっているんだけど・・・」


「そうですか、校長が・・」


この会話からわかるように校長も組織の一員である。この地域の霊能力者に指示を出すトップであり、自らも昔、異形退治のスペシャリストとして活躍していた。


初老と呼ばれる年齢に差し掛かった今は戦いの場から身を引き、後人の育成に力を注いでくれている。


そんなことを話していると、二人は校長と話すときにいつも集まる校長室の横にある談話室に到着した。


扉を開けて中に入るとそこには神野かみの校長が座ってお茶を飲んでいるところだった。


「おお、来てくれたか竜夜君。」


「はい、今日はどのようなご用でしょうか。」


「まあまあ、細かい話はお茶を飲みながらにしよう。」


そう言うと、校長は手早くお茶を入れてくれた。それに礼を言いつつ竜夜と先生は校長の真向かいに座った。校長はお茶をぐっと一気飲みすると話を始めた。


「今日、竜夜君を呼び出したのは二週間後に行われる霊能力者新人試験についてのお願いがあったからなのだよ。」


話を進める前に霊能力者新人試験についてのざっくりとした説明をしておこう。


霊能力者新人試験とはこの4月から霊能力者になった人が一カ所に集まって互いの力や能力を見せ合い、未知の霊能力に対する知識を身につけるとともにお互いを高め合うことを目的として毎年行われている行事だ。地域ごとに行われ、組織に入っている人であれば必ず参加の義務がある。


「お願いですか?」


「うむ、今までの試験は弱い妖怪や召喚した式神を倒してもらったり、低レベルの解呪を行ったりと比較的緩やかに行ってきた。しかし最近、異形の出現率が少しずつではあるがペースが速くなってきている。原因は未だに不明だが、今までの試験では役不足なのではないかと思ってね。そこで今回の試験は竜夜君も参加してもらいたい。君は試験官として新人の相手をする。より実践的な試験にすることで一人一人の得意不得意を見極め、どの場面に出撃させるかを判断しやすくしておきたいと思っているのだよ。」


「えぇー、試験官ですか。面倒くさいですね。」


「もし君が参加してくれないというのであれば、君への負担がもっと多くなってしまうがそれでもいいかね?毎晩遅くまで異形狩りを続けていたいと?」


「アー、試験官タノシミダナー。」


「うむ。わかってくれればそれでいい。もちろん、タダとは言わんよ。ボーナスも振り込んでおこう。しっかり頑張っておくれ、はっはっは。」


こうして、面倒なことに竜夜は新人試験の試験官という大役を任されることになってしまったのである。


「ああそれと、去年と同じようにあの子たちもやってくるよ。直接会うのは久しぶりだろうからたくさん話してくるといい。」


「本当ですか!夏美と冬華は今年も来てくれるんですね。遊びに連れて行ってあげられる時間はあるでしょうか。」


「そこは竜夜君次第だな。竜夜君が試験をさっさと終わらせて彼女たちのフリーな時間を確保してあげなさい。どうだい、益々やる気が湧いてきただろう?」


「はい!頑張ります!」



あの子たち・・今井夏美いまいなつみ今井冬華いまいふゆかというのは竜夜の地元である奈良県にいたときの1つ年下の双子の幼なじみだ。竜夜の生まれはお寺なのだが、彼女たちは神社である。家が近いこともあり小さい頃からよく遊んでいた。


竜夜が霊能力者であるように二人は巫女の仕事をしており、二人とも霊能力者の力を「視る」ことに長けていて毎年この時期に新人たちの力を測るために東京にやってくるのだ。


幼なじみたちとの久しぶりの再会という高揚感と試験官の憂鬱感を同時に味わいながら試験日当日に思いを馳せる竜夜であった。

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