第2話 学校生活

人間には生きている限り何かしらの役割がある。そして竜夜も例外ではない。


彼は都立天壌院高校とりつてんじょういんこうこうという学校に通う高校2年生である。だから、どんなに寝るのが遅くても次の日が平日だったら学校に行かなければならない。家から歩いて20分くらいの場所にあるため、そこまで急いで準備をする必要はないがともかく学校にはきちんと行かなければならないのだ。


しかし餓鬼を討伐したあの後、追加で3件も異形の出現が報告されたため眠い目と重い体を必死で動かしてどうにか討伐を終えた竜夜だったが、そのころにはもう少しで朝日が昇り始める時間帯で結局一睡もすることができずそのまま学校に来ていた。


だから授業なんて耳に入ってくるはずもなく1限から4限まで爆睡し、どうにか体の状態を安定させることに成功していた。途中、3限の現国の授業の担当であり名前のとおり怒ると怖い鬼塚先生に教科書で頭を叩かれたらしいが竜夜はまるで石のように微動だにせず眠りこけていた。


そしてその話をしているのは竜夜の中学校以来の友人である成田友幸(なりた ともゆき)である。今は昼休みの昼食時で二人はパンをかじりつつその話をしていた。


「それにしても見物だったぜ。あの鬼ちゃん先生の剣道仕込みの大声で呼ばれても教科書で叩かれてもグッスリと眠りこけてたお前の姿は。鬼みたいに顔真っ赤にして叫んでたのにちっとも起きねえし。」


友幸が「ちゃん」をつけることからわかるように鬼塚先生は女性である。しかも、剣道の有段者で東京都での剣道大会で何度も優勝の経験があるそうだ。しかし竜夜にはそんな先生の声を聞いた記憶は1ミリもなかった。


「お前も毎日お疲れさんだな。また、妖怪退治してたのか?」


「しゃーねぇだろ。それが仕事なんだから。」


友幸は彼が霊能力者であることも、毎日のように異形退治をしていることも知っている。中学生時代にある事件がきっかけで友幸には自分が霊能力者であることを明かし、そこからはずっと竜夜の良き理解者になってくれた親友である。この学校には友幸の他にも竜夜が霊能力者であることを知っている人はいるものの竜夜は友幸を一番信頼している。照れくさくて本人には決して言えないが。


「はぁー、おまえはホントにお人好しだな。嫌なんだったらやめちまえばいいのに、自分にできるからって口では面倒くさがってるけど誰かのために行動してる。」


「悪かったな、これが性分なんだよ。」


「貶してなんかねえさ。立派なことだと思うぜ?俺にはそういう生き方は無理だろうからな。」


「ホントか?面白がってるようにしか聞こえないんだが。」


「ホントだって。」


「だったらいいけどさ。あ、5・6限って何だっけ。」


「数学と英語。」


「よし、寝るか。」


彼の学校生活は何事もないように進んでいる。今のところ竜夜の唯一の心安まる場所が学校だ。願わくば、この穏やかな学校生活をずっと続けていたい。それが竜夜の切なる願いだ。


そんなフラグのようなことを考えていたから良くなかったのだろうか。突然、教室のドアが開いて竜夜は担任の小町先生に呼ばれてしまった。


「竜夜くん、今時間大丈夫かな。ちょっと一緒に来てくれる?」

そう言って、小町先生は踵を返して教室を出て行った。


「はあ。ちょっと行ってくる。」


「おう、いってらー。」


友幸にそう言って竜夜は席を立った。実は小町先生も霊能力者なのだ。組織のオペレータを担当していて、高校にいる間の任務状況や報告を受ける役割を担っている。


竜夜はまた何か面倒事が起る予感をひしひしと感じながらも小町先生のあとを追いかけることにしたのだった。


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