25話 邪魔
「K落ち着いて。何があったん?」
とドミノ先輩が聞くと、Kさんは興奮を抑えきれないといった声色で、身振り手振りで説明してくれた。
我々文芸部は文化系サークルの一つなのだが、それら文化系サークルをまとめる組織が存在する。部活委員会と呼べばいいだろうか。その部活委員会が管理する各部活の幹事LINEで、タカギ先輩がやらかした。
どうやら勘違いで、文芸部だけ春祭の宣伝がないと激怒して、LINEグループで暴れまわってしまったらしい。
確かにとんでもないことだ。
「やべーよあいつ!池添、お前がもう幹事やるしかないって!タカギをおろそう!」
と、眉を八の字にして大声でぼくに訴えかけるKさん。
よっしゃ、やるか!
なんてことは、1ミリも思わなかった。
「無理やり下ろすのは違うやろ」
と言った俺の目つきは鋭かったかもしれない。
少しだけ目を見開くKさん。「いや池添考えてみ?」と再度タカギ先輩がいかにひどいことをやらかしたのか熱弁し、文芸部の印象に関わるぞと畳み掛けてくる。
でもそんなことどうだっていいんだよ。
プランを崩して、何のメリットがある?
幹事をおろすことのデメリットは、限りなくある。まず、無理やりおろすのだから、タカギ先輩を責めるところから始まる。「あなたは最低なことをやらかした、文芸部の存続に関わります、もう幹事をおりてください」こんなことをタカギ先輩にぶつけたら、混乱するし、でも自己嫌悪と自衛の気持ちがせめぎあって、爆発するに決まっている。ただでさえメンタルが不安定な先輩が何をするか、想像するだけで恐ろしい。
代替わりの手続きだって、途方もないくらい面倒だ。一々、部活委員会に申請して、新しい重役のリストを作って提出しなければならない。あちらはあちらで仕事が増えるし、ぼくらもそうだ。双方にとって良くない。まあ、部活委員会は今回の件を踏まえると、幹事おろす作業なら喜んで!と思うかもしれないが、どうせもう幹事なんて、あと6ヶ月の命だ。
それに、決めたんじゃなかったのかよ。
3人で、一個上のやつらがいる文芸部を変えようって。でも、あいつらの引退までは耐えようって。
でも、もう気持ちは3人じゃない。
Kさんは文芸部じゃなく写真部をメインにしているから、半分ノリでおろしたってダメージは少ないんだ。幹事をおろす労力なんて、お前にはないよな。ぼくにはあっても。
あるいは、プライドが高いから自分が所属する文芸部がこうなっていることが許せないのかも。
「幹事をおろすのは今じゃないだろ」
「お前がやらないなら私がやる」
と、胸をポンポン叩くKさん。
邪魔すんな。
「邪魔しないで」
邪魔すんな。
写真部次期幹事のあんたが、タカギ先輩をおろしてどうする?ぼくはやらない。
代替わりが自然におこなわれるからこそ、当然のように出ていってもらえるというのに。ぼくらが追い出すための、理由にできるのに。
それにタカギ先輩がおりて、仮にぼくじゃない一個上が幹事なんてしてみろ。それこそ引退後も勘違いして居座る。
予定を崩すな……
「K、池添くん、やめとけ」
1年生もいる場で話すことじゃない、と止めに入ったのはドミノ先輩だった。ああ、ほら、勘違いしてる。本当にとんだ勘違いだ。ぼくは一個上の先輩なんて、1人として尊敬していないし、俺は違う感出されても困る。全員等しく最低なくせして、タカギ先輩を踏み台に偉そうな顔して言ってんじゃねーよ。もっと言うなら、3年がいるから話せねーんだよ。ぼくの心情をさ!Kさんに伝えられないんだよ、追い出すための策ってことをさ!
「……」
Kさんはドミノ先輩を尊敬しているためか、まだ言いたげだったのを飲み込んで黙った。ああ最悪だ、俺の言うことは聞く、文芸部の中心は俺なんだな、ってドミノ先輩が勘違いしたらどうするんだ。ぼくや多田師にここまでの憎悪を叩き出す先輩を調子に乗らせて、1年生にはしょーもない言い合いを聞かせてしまって、Kさんは本当にやらかしてくれた。
でも、Kさんのタカギ先輩をおろそうと言った時のあの瞳。
わずかに好奇心のやどったあの瞳。
革命ごっこじゃねーんだよこれは。
ドラマ性も何もない、ただ普通の文芸部を取り戻すための、本当の「革命」なんだ。
邪魔すんな。
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