第2話 妹は兄を弄んで玩具にする

「なんだよコレ! 評価1のオンパレードじゃねぇか!?」


 大量に入れられた『評価1の★星』を見て、俺は愕然とした。


 「三段階評価☆☆☆」ではない、この小説投稿サイトは「五段階評価☆☆☆☆☆」なのだ。インターネット通販の密林の評価を思い浮かべて頂くと、わかりやすいだろうか。

 たくさんの商品がある中で、『星★が一つ』の商品を貴方なら買いたいですか? 買いたくありませんよね?


 そうなのだ…小説投稿サイトにおける『5段階評価の評価1』とは、もはや『お前の作品おもろないねん!』と言われているに等しいのだ…


「スマホに友達からボイスメッセージ来てるから、再生するね お兄ちゃん」


『「読んだよ、お兄さんの小説! リアル妹に兄妹のエロ小説読ませるとか変態だわ! プレイじゃん、貞操に気をつけなよゆず!」』


 妹の友達のボイスメッセージを聞いた俺は、勉強机の椅子からずり落ちた。


「リアルの兄が、妹を無理矢理に×××する話を書いてるなんてドン引きだわ~って、みんな引いちゃったみたい…」

「いや、だから俺が読んでほしいのは新連載の異世界ファンタジーで…、お前わざと兄妹作品のほうを勧めただろ!」


 俺が怒りを込めた声で叫ぶと、妹はテヘペロ顔をして視線を剃らした。


「柚…なんで俺にだけ冷たいの? 俺のことイジメて楽しいか…?」

「え~? イジメてないじゃん~こんなに優しい妹なのに~」

「はぁ…小6の頃は柚はこんなじゃなかったのにな…」


 俺は涙目になって、床に膝をついた。


「もう嫌だ…女子高生怖い…。陰キャ、キモイ~!とか言って、どーせ俺のこと笑い物にしてんだろ…」


 女子高生たちに、俺の兄妹小説が笑いものされていると思うと心が痛かった…。


「女子高生怖いって…お兄ちゃんだって男子高校生でしょ、同い年なんだから」


 呆れた顔で俺を見下ろしながら、溜息をつく妹のゆず


 俺と妹の柚は幼馴染だった。連れ子のいる親同士が再婚して兄妹になったので、血は繋がっていない。今ではすっかり仲の良い家族だが、妹は女子高に通っているので学校は別なのだ。


「じゃあ、お父さんとお母さんにも、読んでくれるように頼もうか?」

「お前…俺に止めを刺す気か…オヤジとオフクロに読まれたら、マジで死ぬ…」


 俺はぷるぷると震える涙目を隠そうと、部屋の端っこに移動して蹲った。すると、蹲り顔を伏せている俺の身体を、妹が指でツンツンしてきた。


「ドンマイ! お兄ちゃん」

「ドンマイじゃねーよ! お前に評価1を大量に入れられた作者の気持ちがわかるか!?」


 よしよしと俺の頭を撫で、いい子いい子してくる妹。


「ぷークスクス、泣きそうなお兄ちゃんも可愛いよ~」


 妹は笑いを抑えもせずに、俺を馬鹿にするように見下ろした。『クソッ! こいつ完全に俺で遊んでやがる…』


「いいか、『三段階評価で星★1つ』は作者に優しい。だが『五段階評価で星★1つ』は作者のメンタルを地味に攻撃するんだ。勿論、自分の作品が星5つ貰えるような満点作品じゃない、と言われればそこまでだが…」


 俺はいい機会だから、妹に小説投稿サイトの評価の仕組みをレクチャーしてやることにした。俺は蹲った姿勢のままで顔だけ上げて、妹に力説した。


「評価入れてもらえて嬉しい! でも1って…面白くないってことだよな? もうこの作品の続き書くのやめて、他の新作書いたほうがいいのかな…?。パソコンに向かっても否定的な意見ばかり頭に浮かんできて、作品の続きが書けなくなる気持ちがお前にわかるか! エタって布団を濡らす涙がお前にわかるのか~! エタる奴にはエタる理由があるんだよ!」


「お兄ちゃんウザイ…! 評価の説明されても、小説書いてないからわからないよ」


 だが俺の力説は、妹の心には響かなかったらしい。妹はそう呟くと、部屋の入り口のほうへ背を向けて歩き出した。


「でもお兄ちゃんのファンタジーの作品は、普通に面白かったよ」


 妹はドアのところで振り返り、ニシシッと笑い片目をつぶってウインクした。その可愛いすぎる仕草に思わずドキンとしてしまう俺。


 単純かもしれないが、作品褒められたのは嬉しかった。それに妹のこんな笑顔を見たのは久しぶりだった


 俺の感情はいつも、妹の柚の言葉一つで急降下・急上昇してしまう。どんなに恋心を隠しても、それはだけは抑えられない。


 柚に恋をした小学6年の冬からずっと…

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