第23話 生存戦略同盟~大口開けて食べろ! マツリの鮭おにぎり~
ちょっと臭いをかいでから、トミカは制服に腕を通した。汗臭いような気もするが着替えを取りに帰るのは危険だ。
一晩考えた結果、学校へ向かうことに決めた。
庭に出ると、マツリとクイント、さらにシャイニング氏の制服を借りたハンサムが待っていた。
「『お前らは家でいろ』って昨日言ったよな?」
「正確には『足手まといだ馬鹿野郎。カスゥ。俺がカタつけてくるから串囓って待ってろチンポ野郎ども』だよトミカ」
「そしてお風呂に入らずにねたよね」
二人はそう言って勝手に登校準備を始めている。
「わからねえヤツらだなッ! 俺が行けばお前らの問題もカタがつくんだよッ! 犬も殺されねぇーし、お前も銃弾ぶっこまれたりしねえ」
「どうして」とマツリ。
「そういえばトミカは何で市長に会いたがるんだ?」ハンサムとクイントも首をかしげた。
「それはお前……関係ねえだろボケッ」
「都合悪くなったら怒る~。俺、トミカのことだんだん分かってきたな」
「知ったようなこと言ってんじゃねえぞハンサムこら」
「トミカくんの目的は分からないけど」マツリが言った。「もし連れて行ってくれたら、私はジミーおじさんとも交渉できるし、クイントの鼻も役に立つと思う」
その言葉にハンサムも乗った。
「俺は市長に狙われてるんだろ、俺が行けば市長も無視できない。学校なら人が多いし撃たれることもないじゃないか?」
「うっせえ」
「こっちは命が懸かってるんだ『関係ねえ』とか言われて任せておけない」
「おっさんはどう言ってんだよ、娘がそんな危ねえ――」
「お父さんには言ってない。今はもう仕事に行ってるし」
「呼び戻せ」
「そうしたらトミカくんのことも止めると思う」
「そんなもん力尽くで……くそ」
トミカは昨日の敗北のことを思い出した。それにハンサムたちの言い分ももっともな気がした。自分が彼らの立場なら、秘密を明かさない人間に任せたりできないだろう。彼は改めてハンサムたちへ向き直って説得した。
「いいか。お前らが大変なのも分かる。だがだからといって俺は譲る気もない。説明はしねーしできないが、俺はこの計画に人生をかけてる。この計画をなかったことにして人生をやり直せるほど強い人間じゃないからだ。ここで逃げたら俺は俺を軽蔑したまま生きることになる。この計画は俺の血を浄化するために絶対必要なことなんだ。達成のためには命をかける覚悟で来た。これでも俺を信用でいないか?」
言葉を受けた二人は視線を見合わせた。
「できない。結局秘密は秘密のままだし」
「お風呂にも入らないし」
クイントも否定的な声で吠えた。
「信用する流れだろがッ! 風呂は関係ねえしよォ。じゃあどうすりゃ引いてくれるんだよッ」
「引かない」
「引かない」
トミカがため息をつく。
マツリとハンサムが追い打ちをかける。
「これは、私の家族の問題だよ」
「俺は俺の命がかかってる」
「俺だってそうさ」とトミカ。
最後にマツリはこう提案した。
「同盟ならどうかな」
「同盟」
「私たちが邪魔になるならちゃんと下がるし、反対に必要なことは手伝う。その代わりトミカくんは私たちが着いていくことを認めて」
「……それで同盟か」
「そう」とマツリ。
「そう」とハンサムも便乗した。
「下がれと言ったら下がるか?」
「下がる」
「下がる」
「見るな、と言ったら見ないか」
「見ない」
「見ない」
「手伝いもするか」
「する」
「する」
「それが同盟か」
「私たちみんなが生き残るための、生存戦略同盟」
「せんぞん、せん……なに?」
ハンサムが乗り遅れた。
トミカは折れた。
「もういいわ……さっさと出かける準備しようぜ」
「どういう意味だ?」とハンサム。
「一緒に行こうって意味だよ。ちょっと待ってて! いいものがある」
マツリは急いで家の中へ何かを取りに行った。
彼女は大きなおにぎりを作って戻ってきた。
「こういうときはこれだよ」
「あ?」
「これ食べ物?」
「鮭おにぎりだよ! 海苔は大野のり。ライスボール、ウィズ、シャケ。オオノノリ・フォームだよ」
「……それをどうすんだよ?」
「お弁当かな?」
「日本では大切な契りを交わすときには、シャケを忘れないんだよ。日本文化には詳しいんだ、私。同盟を結ぶときは『契りのシャケ』を酌み交わすのが法律なんだって。この契りは絶対破られないんだって」
「クソッ分からない。俺は記憶がないから……ッ」
「安心しろ。俺も意味が分かってねえ」
「とにかく3人でこれを回し飲みするんだよ。桃の木の下とかで」
「飲めねえが?」
「桃の木なら向こうにあるよ。それとみんなで写真を撮っておこう」
「写真ん~? なんでだよ」
「ちょっと考えがあるんだ。ほら、こっちきて」
「なんだかなあ」
我らシャケに誓う
我ら生まれは違えども
死する時は
同じ道、同じ時を
願わん
なお最後の「わん」はクイントのセリフである。
3人と1匹で大きなおにぎりにかぶりついた。
見届ける者はおらず、歴史にも残らないが、今ここに、ニンジャとドラゴンカーセックス、サメ人間、プラス犬の同盟がなされたのだった。
「うん。なんだこれ」
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