『今日』に繋がるまで

「皆様、世界の終わりが近づいています」

 全世界で、唐突にそれは流れた。


 テレビで、ラジオで、パソコンで、スマホで、あらゆる電波や通信機器を通して——放送が行われた。

 映し出されていたのは各国の代表たちだった。


 各々の代表が自国に向かって、自分の国の言葉で、終焉を告げていった。




「現在、地球に巨大隕石が迫っております。我々はこれを『フィーネ』と名付けました」


「『フィーネ』が観測されたのは今から5年前、その時から世界一丸となって打倒『フィーネ』を目指してきました」


「ですが……今日に至るまで、有効的な手段は見つけることが出来ませんでした。既に『フィーネ』の存在を隠し通すことは不可能と判断し、このような形で発表させていただきました」


 いつも通り『チビタンク』こと、生島明日実の無茶ぶり——今回はご当地商店街の名物・名店制覇——に付き合わされた後だった。

 ようやく帰宅し、風呂に入るまでぼんやりと眺めていたテレビからそんな放送に切り替わるなんて……事実は小説より奇なり、ってやつだな。



「しかし我々は諦めたわけではありません。今後も『フィーネ』を回避、または撃墜する手段を探していく所存です」


「あくまで今回は、『フィーネ』の存在を皆様に知らせるためにお時間を頂きました」


 知らせてくれたって、どうすりゃいいんだよ?

 いや、俺に出来ることなんかないだろうけど……遺書でも書い、ても意味ないか。地球ごとダメそうだもんな。



「何より……皆様にもいつも通り過ごして頂きたいと願っております。我々をご覧ください」

 そうして我が国の代表——日本の内閣総理大臣から、円状に外を向くように各スタジオが並んでいる画面へと切り替わる。その各々のスタジオにいたのは世界各国の代表達……だろう。

 それぞれが、各々の国に向かってメッセージを送っていたのだ。


 そして円状に並んでいた代表たちが、何もない円の中心に集まっていく。


「……人種、宗教、文化、国籍、身分など、様々な違いが私達にはあります。それで私達は対立し、時には武力を衝突させてきました」

 今度は総理大臣が直接喋っていない、あらかじめ取っておいた音声を流しているのだろう。中心に集まる代表たちは誰も口を開いていない。


「ですがこの未曽有の危機に対応するために、それら全てを超えて手を取り合うことを……改めて宣言します」

 代表たちが、そこに集まった全員と握手を交わしていく。

 手を出し渋るものも、戸惑う者もいない。全員が自分から手を出して硬く結ぼうとする。


「皆様も、決して自らの欲望や恐怖に負けず、健やかに過ごしてください」



 そして、映像が終わった。

 残ったのは無情にも見える言葉、『隕石フィーネ』が落ちる日時と場所が、記されていた。



 これが、三ヶ月ほど前だった。




 あの時に映し出された内容は以下の通り。


 落ちる日は『今日』。

 時間は日本時間で18時ごろ。

 場所は……日本のここだそうだ。


 いや、正確には『ここも含まれるだろう』という方が近い。それだけ『隕石フィーネ』がデカイのだ。



 もちろん、『フィーネ』への有効策は何も出ていない。



 世界が、地球が、『今日』で終わる。

 そう、『明日』は来ないのだ。


 それでも混乱や暴動は驚くほど少なかった。それどころか、いつも通りに生活できるほどにライフラインや交通網も生きている。

 あの全世界に向けた放送の効果だろう。

 最期だからこそ……人間として恥じることなく、後悔せず最期を過ごしたいと願う人は……それだけ多かったのだ。



 まあ、この心臓と肺が常人の二倍はありそうな『チビタンク』も、悔いがないように過ごしたかったのかもしれない。

 単純に彼氏を作っておきたいとか、恋愛しておきたいとか即物的な理由じゃないだろう。


 ……違うよな? 本人も違うって言ってたもんな?

 平凡で冴えない、けど小さい時から知ってるし悪くはないから……だからこいつでいいって理由じゃないよな?

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