第125話 いざ出発


 全員の職業及び能力確認が終わった直後、非常に慌ただしかった。

 とりあえず今回のダンジョンアタックのリーダーは、流れ者組の年長者であるカズキが務めるのだが、ダンジョンアタックの経験がないカズキは、ダンジョン内でのリーダーとして、等級が一番高い《烈風》を指定した。

 揉めている時間も惜しいのでガンツは素直に従い、総合的なリーダーはカズキ、ダンジョン内での指示はガンツに任せる事となった。


 旅の準備は基本している暇がないので、食料に関しては現地調達が得意なリュートに任せる形となり、ダンジョンアタックに必要な道具類はダンジョンに最も近い町等で買い揃える方式を取った。

 こうする事で準備時間を大幅に短縮出来るが、かなりの強行軍となる。

 しかしここからは時間との勝負である。

 帝国が世界を跨げるダンジョンの存在に気が付いた瞬間、ショウマ達の帰還の望みは絶たれてしまうだろう。

 ならば多少無理をしてでも進むしかない。


 まず第一関門である《グラニーツァ関所》。

 ここはオーデュロンとラーガスタの国境に設置されている関所である。

 グラニーツァ関所はオーデュロンが管理している為、帝国側の都合でいつでも封鎖できてしまうのだ。

 距離としては寝ずの旅であれば一日で着くのだが、食事や睡眠の事を考えると二日といったところだ。

 今回に関しては何としてもこの関所を通過しないといけないので、話し合いの結果適度な休憩を挟みつつ、寝ずの進行となった。

 話し合いをしている最中にリュートは別行動をしており、全員が乗れる馬車を確保していた。

 台数としては三台、馬は一台につき二頭で担当してもらい、馬術に覚えがある者が馬車を操る形を取った。

 リュートは王都で評判の男の為、無理な願いもすんなりと聞いて貰えたのだ。

 

 そして第二関門。

《ラデュ・オン=バーン》がいるダンジョンは、グラニーツァ関所から約三時間離れた場所にある《レッドバーンズ街》から、更に一刻程進んだところにあるという。

 まずはレッドバーンズ街に到着した後、速やかにダンジョンアタックの準備を行う。

 準備に関してはガンツが適時適時指示を出す方向で決まる。

 そして準備をしている最中に、同時並行で冒険者ギルドにダンジョンアタック申請を申し込む。

 帝国の法律として、ギルドに無許可でダンジョンアタックをした場合、禁固五年という非常に重い罰を受けてしまうのだ。

 その為、お目当てのダンジョンが封鎖される前に、可及的速やかにダンジョンアタックの許可を取り、ダンジョンに突入する。

 ほぼ休憩なしの強行軍で、非常にハードなダンジョンアタックになる事は安易に予想できた。

 だが強力な職業を前報酬として貰ったのだ、むしろ職業によって得た力を試してみたくて、文句どころか早く戦わせろと言わんばかりに協力的であった。


 現在夜の八刻。

 通常なら半日かけて一夜漬けの準備をするものだが、そんな暇はない。

 如何に馬車で休息を取れるかが、この強行軍を乗り切る鍵となる。

 

「皆さん、どうかよろしくお願いします」


 カズキが頭を下げると、《ジャパニーズ》の面々も遅れて頭を下げる。

 するとリュートが、皆の頭を上げさせる。


「オラは頭を下げて欲しくて協力してる訳でねぇ。大事な友達が帰りたがっているから、ただお節介やってるだけだよ。それに、もう大きな報酬は、貰ってるだよ」


 リュートは自分の胸を強めに叩く。

 そう、職業だ。

 まだ実戦で試していないが、何となくわかるのだ。

 今まで以上に身体がスムーズに動くのを。

 五感が冴えわたっているのを。

 より弓が、自分の身体の一部のように感じるのを。

 これは残念ながら、ただ鍛錬をしていては決して辿り着けなかったであろう領域に、足を踏み入れられたのだ。

 こんな途轍もない報酬を貰ったのだ、不満なんてある訳がない。

 

 どうやら他の皆も同様の考えのようで、カズキと《ジャパニーズ》に対して大きく頷いた。


「……ありがとうございます。では、時間が惜しいので早速出発しましょう。もし進行中に獲物を見つけたら、リュートさんは率先して狩りをしてください」


「わかっただ」


「そして馬車の中で可能な限り休める方は休んでもらい、逐一御者ぎょしゃ役を交代してください。それでは、皆さん行きますよ!」


『応!』


 こうして、《ラデュ・オン=バーン》のダンジョンアタックは、慌ただしく始まった。

 流石全員熟練の冒険者だけあり、焦ったりする事なく行動に移せていた。

 必要最低限の荷物だけを手に全員が馬車に乗り込むと、そのまま王都を後にした。

 目指すは第一関門のグラニーツァ関所。

 どうか帝国が、世界を渡れる可能性があるダンジョンの存在に、気が付きませんように。

 カズキと《ジャパニーズ》達は、心から願いつつ、馬車に揺られて進む。

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