第118話 更なる協力者を得る……が
ガンツ達の協力を得られたリュートは、次なる協力者を探す為に行動を移そうと思ったのだが。
「そうだ、俺の知り合いで《超越級》がいるんだが、きっとそいつらなら信用も出来るし協力もしてくれると思う。紹介しようか?」
「是非お願いするだよ!」
「じゃあ俺達は今からそいつらに話を付けてくる。また明日の昼頃にここでいいか?」
「んだ、問題ないだよ」
「わかった。じゃあまた明日な!」
なんと、ガンツ達が紹介をしてくれる事になった。
本当にガンツ様様である。
リュートは既にいなくなったガンツ達に、心から感謝した。
だがまだ協力者が欲しい。
せめてもう一組だけでも《超越級》を手配したいのだ。
実はエリッシュから話を持ち掛けられた時、エリッシュが抱えている《超越級》冒険者を借りられないかを訊ねたのだが――
「すまないね。僕が抱えている《超越級》は、そのダンジョンを探索した者なんだ」
「なら、そいつらを――」
「……満身創痍で帰ってきた、と言ったら、無理な事も伝わると思う」
満身創痍。
つまり大怪我、若しくは部位欠損、それか精神的ダメージを負ったかのいずれかだ。
そうなってくると確かに長期休業、または引退というレベルの怪我になるだろう。
この事から、最低でももう一組の《超越級》冒険者の協力を得て、カズキの《職業付与》で大幅な戦力増強をしなくてはいけない。
更には時間が全くない。
遅くなれば遅くなる程、帝国側にイニシアチブを取られてしまう可能性があり、ショウマ達が帰れなくなる可能性だってある。
オーデュロン帝国は軍事国家である。
最近では流れ者の知識に目を付け、異世界に行って何かしらの技術を習得または強奪しようと考えているという噂もある。
どうやってこの世界に帰ってくるのかは不明だが、オーデュロンでは何かしらの帰還方法を持っているのかもしれないのだ。
「……他に、他に誰かいねぇか」
時間は無情にも過ぎていき、焦りはその分だけ重くのしかかってくる。
普段は冷静に判断できるリュートも、今だけはあまりにも冷静に判断出来なくなってきていた。
悪手と思われる手段も、段々と「それは実は良い手段ではないか?」と錯覚してしまう程だ。
「とりあえず、飯食うか……」
明暗も妙案も思い浮かばない。
なら一瞬だけでも休息を入れようと判断した。
何も考えず食事休憩を入れれば、もしかしたら自ずと考えが出てくるかもしれないと思ったからだ。
さて、何を食べようかと考えながらギルドを出ようとした時、目の前に別のパーティが歩いてくるのが見えた。
凝視をしてみると、なんとも懐かしい《黄金の道》であった。
彼等とは若干因縁がある。
《遊戯者》のダンジョンを攻略する際に共にした《超越級》だが、過去の様々な問題行動のせいで石等級からのやり直しという処罰を食らっていた。
他にも行動を共にした《超越級》はいたのだが、その処罰が不服として冒険者を引退したのだ。
リュートの耳に入る評判は、可もなく不可もなく、だ。
最初は信頼度は底辺であったのだが、どうやら反省したらしく堅実に依頼をこなしているという。
石等級に降格されてからだが、依頼達成率は十割であり、少しずつだがギルド側の評価は上がってきているのだとか。
だがまだ石等級のままなのは、罰として必要経験点が倍以上になっているからであり、そう簡単には昇格はさせて貰えないのだ。
通常なら石等級からの昇格はそこまで難しくはないのだが、今の《黄金の道》にとってはその昇格すらも難易度が高めになっていた。
恐らくリュートにも怨みの一つや二つを抱えているに違いないから、出来れば会いたくない冒険者の一組だったのだが、運悪く遭遇してしまった。
そして、三人になってしまった《黄金の道》のメンバーにもリュートの存在を気付かれてしまい、一瞬時が凍り付いたかのような感覚に陥る。
(……そのまま通り過ぎるのが一番だべ)
別に彼等に悪い事をした覚えは一切無いが、目線を合わせずに通り過ぎようとした。
その時だった。
《黄金の道》のリーダーであるラファエルに腕を掴まれてしまった。
ああ、これは絡まれる。
思わず溜息を漏らす。
「なあ、確か、リュート……だったよな」
「……ああ、そうだけんど」
「……少し、時間を貰えないだろうか」
「申し訳ねぇけんど、オラも急いでるんだが?」
「わかってる、オレ達と関わり合いたくないのはわかっている。だけど、少しでもいいから話を聞いて貰えないか?」
「……」
ラファエルの表情を覗いてみると、リュートに向けている感情は怒りとか恨みではないのがわかった。
なら何を話したいのだろうか?
彼等の心の内はわからないが、少なくとも以前のような高圧的な態度ではないのは確かだ。
リュートは決断した。
「……なら、飯奢ってくれるなら話を聞くだよ」
「わかった。あまり収入が無いから、高い所は無理だが」
「オラは値段に拘りは
「感謝するぜ」
何を自分に話したいのだろうか。
全く彼等の意図を掴めぬまま、《黄金の道》の後ろを付いて行くのだった。
「まずは、お前に謝らせてくれ。あの時は本当に、すまなかった」
「…………」
《黄金の道》とやってきたのは、ギルドから数分歩いた場所にある、安くてそこそこ美味い飯屋だ。
着席して食事を注文した後、ラファエル、ゴーシュ、トリッシュの三人から頭を下げられてついつい呆気に取られてしまった。
まさか、謝る為にこのような席を設けるとは、夢にも思わなかったからだ。
「オレ達はあの後本当に色々考えさせられたさ。そして結論が出た。今のオレ達には《超越級》を名乗る程の腕前がなかったってな」
ラファエル達にとって、リュートという存在、他にも《
だが救いだったのは、彼等が「一からやり直そう」と思える程度には、人間性が落ちぶれていなかった事だ。
だからこそギルドの処罰を受け入れて、必死になって心を入れ替えて冒険者という仕事に、より真剣に向き合っている最中だった。
「だからオレ達は逆にお前に感謝している。きっかけをオレ達に与えてくれて、ありがとう」
「……」
まさか彼等から感謝されるとは思わなかったリュートは、言葉に出来ずに呆気に取られたままだった。
よく彼等を見てみると、本当に以前のような傲慢な振る舞いが一切見られない。
むしろ何処か活き活きとしているように感じる。
恐らく打算とかでもなく、本当に心からの謝罪と感謝だと思える。
(……過度に警戒するのも違うか)
今のこの三人なら大丈夫だろう。
リュートは《黄金の道》への警戒度を下げる事にした。
「謝罪と感謝は、受け取っただよ」
「ああ、ありがとう」
「……ぶっちゃけ、おめぇから謝罪と感謝の言葉が出るなんて、全く思わなかっただよ」
「だろうな。オレ達はそれ程の事をしたからな」
はははと自虐的に笑うラファエル。
ゴーシュとトリッシュも苦笑するしかなかった。
「正直、まだ少し信じらんねぇだよ」
「……まぁ、そうだな」
「だけんど、オラの耳に入ってくるおめぇ達の評判は、まぁ悪くはねぇ。だから、少しは信じる」
「ふっ、今はそれで充分だぜ。ありがとう」
こうして、因縁だった《黄金の道》のメンバーと、何だかんだ楽しく食事をしながら雑談する事が出来た。
彼等は冗談抜きで心を入れ替えており、薬草集めがこんなにも大変だったと感じた時の苦労話をしたり、ゴブリンの残虐性を改めて認識したりなど、《超越級》になって色々と忘れてしまったものを今必死に取り戻している最中だという。
リュートも金等級になった今でも薬草採取やドブ掃除をやっている旨を伝えると、彼等にはとんでもなく驚かれた。
今では等級が明らかにリュートが上なので、如何に効率良く経験点を貯めていくかをアドバイスを送ったりもしていた。
処罰のせいで昇級に必要な経験点が高くなりすぎているので、ラファエル達にとってはリュートの仕事のやり方は非常に参考になった。
「……ふぅ、楽しかっただよ。おかげで少し気が晴れただ」
「お前みたいな奴でも、何か抱えてたのか?」
「オラだって人間だべ、悩みはあるだよ」
「ふぅん、良かったらここで話していけよ。聞く事位はさせてくれ」
「……なら」
リュートは今の状況を説明した。
カズキの能力以外の事を全て。
すると、《黄金の道》の面々は驚いていた。
「……やっぱり、お前はすげぇよ。そんな実入りがないような事を、友情の為に命を賭けるんだからさ」
「そぉか? 大事な友達だべ、普通の事だと思うけんど」
「いや、俺達冒険者は損得勘定で動く。例え友情があったとしても、命と損益を絶対に天秤にかけるもんだぜ」
ラファエルの言葉に、思い切り思い当たる節が沢山あって反論できないリュート。
ラファエルの言葉に続いて、ゴーシュが喋りだす。
「それに俺の方で気になる噂を仕入れた。帝国側のギルドが慌ただしくなっているってな。もしかしたら、向こうのギルドでも、お前達が目標にしているダンジョンについての詳細が入った可能性がある」
「っ! なら」
「ああ、帝国の事だ、外部の冒険者を入国させない処置を取る可能性がある。ただ、今の段階では正しい情報かを精査している段階だと思うから、まだ間に合う筈。恐らく、遅くても明後日までにここを出発出来れば間に合うかもしれない」
ゴーシュ曰く、帝国は自国の利益に繋がるダンジョンが発見されたら、他国の冒険者を締めきって一気に鎖国状態にする事が度々あったらしい。
そうする事でダンジョンで得られた利益を独占し、軍事転用したりしているとの事。
ここからは冗談抜きで速度勝負である。
するとラファエルはゴーシュとトリッシュに視線を送る。
そして何かを察した二人は、無言で首を縦に振る。
「なぁ、リュート。オレ達は今は石等級だ。だが、腐っても元 《超越級》だ。良ければオレ達の力を使ってくれないか?」
「……へ?」
「正直今から《超越級》のパーティを探すのも難しいだろうよ。ならどうかオレ達を存分に利用して欲しい。今のオレ達は《遊戯者》の時とは比べ物にならない位いい働きをするぜ。どうか、頼む!」
《黄金の道》の三人が、リュートに頭を下げた。
あの、プライドが高かった彼等が、リュートに頭を下げたのだ。
リュートの中では大事件である。
「オレ達は機会があったら、お前に恩返しをしたいと思っていた。それが今だと直感した。だから、無償でもいい、荷物持ちでも何でもやるから、どうかオレ達も強力させてくれないか!」
ラファエルの声色は、切実な願いがこもっているように聞こえた。
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