第111話 旅立ちの準備
《ジャパニーズ》の面々が揃った所で、リュートはエリッシュから聞いた話を全て打ち明けた。
元の世界に戻れる可能性が、非常に高い事を強調して。
「……帰れるのか、俺達」
ショウマが呆けながらぼそりと呟く。
その後だ、《ジャパニーズ》の全員の目から涙が溢れ出し、リョウコに至っては膝から崩れ落ちて手で顔を覆い隠した。
「勿論、無事に帰れるかは超常的存在次第だべ。それに戦いに勝たなきゃ帰れねぇから死ぬ事もあるだよ。《遊戯者》と同じくれぇ大変だと思うけんど、それでも行くか?」
リュートはしっかりと四人を見据えて、現実的な事を伝える。
障害は超常的存在の《
空間を操る超常的存在の為、むしろ《遊戯者》よりかも苦戦する可能性もあるし、速攻で殺される可能性だってある。
だから単にぬか喜びはさせない。
リュートにとって大事な友人だからこそ、厳しい選択肢を突き付ける。
「おめぇ達が取れる選択肢は二つ。一つは死ぬかもしれねぇけんど、覚悟を決めてダンジョンアタックする事。もう一つは、帰るのを諦めて、この世界で暮らす事だべ」
「……」
「今のおめぇ達なら、この世界でも充分に生きていけるだよ。だから、わざわざ危険を冒してまで挑む必要は
「……まるで、俺達に帰ってほしくないように聞こえるけど」
「……本音さ言うだよ。ショウマやタツオミはオラの大事な友達だべ。ここまで仲良くなれた友達が、元の世界に帰ったら一生会えねぇ。それは、正直、辛すぎるだよ」
「リュー……ト」
「でも、オラはもしおめぇ達が帰る選択をしたとしても、オラも命を賭けておめぇ達を手伝う。友達として、おめぇ達が帰る所を見届ける」
「っ」
《ジャパニーズ》の面々は、リュートの想いに胸が熱くなり、そしてとめどなく涙が溢れてきた。
この世界に来てよかった事はただ一つ。
リュート、《
そのリュートが、こんなにも自分達の事を想ってくれている。
彼の言葉が、四人の心に染み渡る。
「リュート、ありがとう……」
タツオミがリュートに抱き着く。
普段冷静な彼も感極まり、らしくない行動を取った。
リュートはタツオミの背中を軽くぽんぽんと叩くと、肩を掴んで優しく引きはがす。
「時間が
「ああ。俺達は帰る為にダンジョンアタックをする」
ショウマ、リョウコ、チエ、タツオミ。
全員が今まで元の世界に帰る為に行動をしてきた。
ここでこの世界に残るという選択肢は、彼等にはなかったのだ。
リュートは、帰る選択をした彼等に抱いた感想は、寂しさと残念さだった。
残るという選択をしてくれたら、きっと楽しく過ごせるだろうと思っていた。
だが、引き留めるつもりはない。
リュートは心に残る寂しさを振り払い、発言する。
「なら、他の冒険者に協力を求めるだよ。オラは色んな冒険者に声さかけっから、ショウマ達は《
「「「「了解!」」」」
こうして、ダンジョンアタックをする為に行動を開始する。
リュートは片っ端から冒険者達に声を掛ける。
特に声を掛けたのは《超越級》。
勿論、前回の《遊戯者》の時みたいな足手纏いはいらないので、リュートと交流がある《超越級》に声を掛けたのだ。
しかし、今回のダンジョンアタックの目的は《ジャパニーズ》の面々を元の世界に帰す為。
ラストアタックも望めなさそうなダンジョンアタックに、あまり乗り気では無さそうだった。
予想はしていたが、ここまで断られるとは思ってもみなかった。
ショウマ達に話をしたのが昼時。
今は夕暮れ時だ。
時間を大分使ったが、結果は出ていない。
気持ちが焦ってしまう。
だが、友人の為に止まる訳にはいかない。
リュートは信用できる《超越級》以外の冒険者にも声を掛ける。
だが、やはり断られてしまった。
既に空は漆黒に染まっている時間。
ギルドを出入りする冒険者は、見るからに減っていた。
打つ手なし。
リュートはギルドの椅子に力無く座っていた。
「おや、リュートさんではないですか」
「ん?」
ふと、声を掛けられる。
ゆっくりと顔を上げてみると、そこには商人がいた。
よく村に訪れていた、あの商人である。
「おお、商人さんでねぇか! すっげぇ久しぶりだぎゃ!」
「そうですね、お元気でしたか?」
「まぁ元気にやってるだよ。商人さんはなしてギルドに?」
「今日はギルドの方で魔物の素材を引き取ってほしいと呼び出されましてね。それで足を運んだ次第です」
「……そっか」
「ふむ、何かお悩みで?」
「……」
「お話を聞いても?」
リュートは一瞬悩んだ。
だが、もしかしたら打開策が思い浮かぶかもしれない。
意を決してリュートは、商人に全てを話す。
流れ人の友人が帰る為の協力を買って出たが、成果が全くない事に落ち込んでいた事を。
リュートが話し終えると、商人は珍しく動揺していた。
「……帰れる方法が、見つかったの、か」
「? 商人さん?」
「リュートさん、私に協力させていただけませんか?」
「え?」
商人は目の前でフードを外す。
すると、黒髪黒目の彼の素顔が晒された。
この世界には黒髪黒目の人種は存在しない。
つまり、それらは流れ者の証でもある。
「しょ、商人さんも、流れ者だったのけぇ?」
「ええ、そうです。ずっと、ずっと探していました。元の世界に帰る方法を」
「……成程、ライーカ町で言ってた事は全部、流れ者だからってことけぇ」
「すみません、あまりこの世界では私達日本人の事を良く思われていないようでしたので」
流れ者はニホンジンと呼ばれる人種しか来ない。
理由は不明だし、謎である。
一部の流れ者はニホンジンは、異世界の創作が結構流行しているからではないか、と言っているが、根拠は全くない。
「私は自分の世界に帰りたい。だから、是非私も参加させてください」
「いいけんど……商人さん、戦えるだか?」
「ふっ、私はあなたが狩りを始めた頃から村に通っていたのですよ? それにこの世界にやってきた時に貰った《ステイタス》もあるので、《超越級》の皆さんには引けを取らないでしょう」
リュートが住む名も無き村は、魔境と呼ばれる程魔物達が強いし凶暴だ。
今思えば彼は、その魔境をいつも一人で突破して村に訪れていた。
つまり、実力は相当あるという訳だ。
「是非とも、よろしくお願いします」
彼はリュートに頭を下げる。
リュートの中では既に答えは決まっている。
「商人さん、よろすく頼むだよ!」
「ええ、任せてください。それと、私の名前を言っていなかったのでお伝えしましょう。私の名前は
「えっと、名前がカズキ……だか?」
「はい、そうです。カグラでもカズキでも、好きな方で呼んでください」
商人改め、カズキはリュートに右手を差し出す。
リュートは迷わず手を取って握手をする。
「こちらこそだよ、カズキ」
強力な助っ人を一人、確保できたのだった。
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〇流れ者は全員日本人
この世界に来る流れ者は、何故か黒髪黒目の日本人ばかりである。
髪を染料で染めている日本人も、この世界に来た瞬間に黒髪に強制的に戻されるようだ。
転生した流れ者に関しては、何処の国出身かは思い出せず、しかし思い出や知識はそのまま引き継がれるようだ。
転移した流れ者は自身の国も含めて、全て明確に答えられる為、この世界では流れ者=日本人という認識が広まっている。
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