第73話 答え合わせ
『……よくもまぁそんな涼しい顔して、仲間を射殺せるね』
リュートは、敵味方含めて自分から意識が逸れたのを確認した後、矢を放った。
そして、バーツを射殺したのだった。
「……てめぇ、よくもバーツを!!」
ラファエルは激昂する。
当然だ、自身のパーティの仲間を殺されたのだ。
だが《遊戯者》の思わぬ一言で、その怒りは霧散する。
『……どうして、ばれたんだい?』
「え、ばれた?」
ラファエルは呆けた声を出す。
実は、バーツはラファエルの背後からナイフで襲いかかろうとしていたのだ。
バーツを射殺す直前、『まぁいいや、悪いけど、早速死んでもらうよ♪』と《遊戯者》はそう発言した。
この言葉がきっかけでバーツの顔が歪み、ナイフを取り出していたのだった。
しかし、前から間者だと思っていたバーツの動きに注目していたリュートは、射殺す事でバーツの凶行を事前に止めたのだ。
《遊戯者》の問いに、リュートへ全員の視線が注がれる。
「……答え合わせっちゅうやつか。その間、おめぇが攻撃してこない保証がねぇ」
だが、リュートは戦闘態勢を解かない。
むしろ、木の矢を弓の弦にあてがい、粗末な鏃を《遊戯者》に向けたままだ。
『わかったわかった、僕は攻撃しないよ』
「ならええだよ。怪しく思ったのは第一階層からだべ」
『えっ、そんな前からなの?』
「んだ。バーツは五感が優れているにも関わらず、分かれ道の時に風の流れる方向とは別の所さ誘導してただ。この時から怪しかった」
『うっわ、君も風の流れ感じられるタイプだったかぁ』
リュートが感じていた第一階層からの違和感。
それは、バーツが先頭にいた際、風の流れとは逆の方向に行っていた事だった。
最初はただの違和感だったが、第二階層でリュートとエリーが先頭に立った際、漠然とした違和感の正体がわかったのだった。
つまり、第一階層は敢えて危険且つ制限時間を大幅にロスしそうな進路を、バーツが選んでいたという事だ。
実はキンバリーが死んで得られた第三階層の休憩時に、こっそりとエリーに確認を取ったのだ。
分かれ道で《エコーロケート》を使った際、外れの道はどのような様子だったかを。
そして返ってきた答えは、「正解の道と比べて、相当な敵の数がいる」だった。
この答えで、バーツが第一階層ではわざと敵の多い場所に誘導していたという事実が得られたのだった。
「そして、おめぇが使う言葉の節々から流れ者が使う言葉が漏れてたけぇ、おめぇを流れ者と仮定して、第九階層でタツオミが罠を張っただ」
「僕とリュートは、バーツが間者だと思っていたから、第九階層でスマホを渡してみたんだ。するとどうだい、僕達の世界で使われている
一番の決定打は、第九階層でタツオミがバーツに残り時間を聞いた時だった。
「バーツ、残り時間は?」
「えっと、
そう、正確にこの世界では使われていないローマ数字を、しっかりと読み取って伝えてきたのだ。
全員が必死だったので聞き流していたが、タツオミだけはしっかりと聞き逃さなかった。
そしてもう一つの決定打。
「バーツ、時間を伝えてくれてありがとう。それを返してくれないかな?」
「あっ、へい」
バーツからスマホを返してもらった時、これまた当然のように電源ボタンを軽く一回押してスリープモード状態で返してきたのだ。
操作方法にあまりにも慣れ過ぎていた。
この時、確信したのだ。
「いやぁ、びっくりしたよ。バーツはただの間者かと思っていたんだけど、まさか《遊戯者》本人、若しくは分身体だとはね」
タツオミから放たれた言葉に、リュートを含めた全員が驚く。
リュートもそこまでの答えに辿り着いておらず、タツオミからも聞いていなかったからだ。
「ごめんねリュート、言うタイミングがなかったんだ」
「……まぁ確かに。ただ、ちょっと悔しいだよ」
「ふふ、頭脳戦ではまだまだ負けないよ」
タツオミはリュートに対して誇らしげな表情を向けた。
リュートも勉強の効果で相当知恵を付けたと思っていたが、頭脳担当のタツオミには届いていないようだ。
『……続けて』
《遊戯者》が答え合わせの続きを促す。
「そもそも何故バーツが《遊戯者》本人若しくは分身体かと思ったのか、それは非常に簡単だよ。もしただの間者だった場合、何かしらの通信機器を使って君に情報を送る筈だ。だが、バーツはそんな素振りを見せなかった」
『タツオミ君、ここは僕のダンジョンだよ? なら君達の声なんて僕に筒抜けだと思わなかったのかい?』
「最初はそう思ったさ。でも第九階層でハリーが君の会話に割り込む形で叫んでも、君は何も反応を見せなかった。つまりダンジョン内の僕達の会話は、君本体には聞こえていなかった」
『成程』
「更に、このダンジョンに入った直後に、僕達の帰還のスクロールを封じたね? 何故か事前に帰還のスクロールを持っている事を知っているかのようにさ」
『冒険者なら持っているのは当然だろう?』
「高価なものだけど、《超越級》となれば最低一つは持てるだろうね。だけど、そもそも超常的存在は僕達がいる《現界》には干渉できない筈。それは君も同じ筈なのに、あまりにも君は僕達の社会構造に理解が深すぎたし、冒険者への理解があまりにもありすぎるのさ。つまり、何らかの方法で《現界》に干渉できる術を持っていた。例えば――」
タツオミが一拍置いて《遊戯者》を睨みながら言う。
「流れ者が勝手に付与される《ステイタス》。それから得られるスキルによって、とかさ」
討伐隊全員に衝撃が走る。
確かに流れ者の場合、自動的に《ステイタス》が付与される。
となると、スキルも得られる筈。
つまり、《ステイタス》もスキルもある超常的存在という、とんでもなく厄介な存在である、という事なのだ。
討伐の難易度は、ぐっと上がるだろう。
「まぁ君がどれ位の期間 《現界》に干渉できるかは不明だけど、第九階層でようやくその結論に至った訳だ。色々とヒントをくれてありがとう」
『「……いやぁ、まさかここまで見事にばれるとは思わなかったよ。流石だと言っておこう」』
《遊戯者》の言葉が、本体だけでなく傍から聞こえた。
そう、バーツの死体からだ。
全員がバーツに振り返ると、バーツは何事もなかったかのように起き上がる。
『「そう、このバーツは僕の分身体が
中に入っている。
つまり寄生しているという事なのだろうか?
そのような疑問を抱いていると、
『「では、分身体は帰還します! とうっ!!」』
バーツは服と
バーツから飛び出した分身体は、そのまま本体の身体に溶け込んだ。
『この真実に気が付いた君達に、僕の能力を教えよう! タツオミ君が言った通り、僕はスキルを与えられているんだ。その中に《現界干渉》と《化けの皮》っていうのがあってね? 《現界干渉》は、《現界》に一時間干渉できるスキルでね。制限時間内に《化けの皮》を使って人間の皮を剥いで装着すれば、二週間程 《現界》で活動できるってスキルさ!! 不思議な事に皮を被ると自然と内臓も形成されるし性別も外皮に合わせられ、そして記憶も能力もそのまま受け継げるんだよ!!』
そんなスキルは聞いた事もなかった。
何と残酷なスキルだろうか。
しかし、人間の皮を剥ぐ、という事は――
「……おい、《遊戯者》」
『なんだい、ラファエル君』
「……バーツは、てめぇが殺したのか?」
『うん、そうだよ♪ いやぁ、いい声で叫んで泣いてくれたねぇ。外皮が無くなったから、触れるもの全てに痛がっていたし、空気に触れても痛がって、悶えて死んでったよ♡ あれは、もう快感だったよ! バーツの身体で何度も空っぽになるまで
外皮が無い。
つまり、中身が剥き出しという事だ。
さぞかし、苦痛だったろう。
それを思うだけで、ラファエルの怒りは溢れ出てくる。
ラファエルにとって、バーツは可愛い弟分だった。
そんな彼が、こんな惨い最期を迎えたとなると、怒りを抑えられなかった。
「……てめぇは、絶対に殺す」
『やれるものならやってみなよ♪ ほら、早速死亡者追加だよ?』
「は?」
すると、ごとりと何かが落ちる音がする。
音がする方を向くと、《伝説の存在》のリーダーであるケインの首が落ちていた。
首を斬ったのは、同じパーティメンバーのリーナだった。
『バーツはブラフさ♪ わざとバーツに疑いの目を向けて、もう一人の僕の分身体の注意をそらしていたのさ♡』
リーナは更にアンナに襲い掛かり、腹を
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
アンナの断末魔が響き渡る。
討伐隊の面々は大混乱だ。
『タツオミ君、正直バーツをここまで疑われるのは想定外だったけど、おかげでリーナも僕だっていうのがバレずに済んだよ♪ 僕は分身体を二体まで生成出来て、二体とも《化けの皮》を使えるんだよ♪ 化かし合いは僕の方が上手だったようだねぇ♡』
けらけらと笑う《遊戯者》に、苦虫を噛むタツオミ。
『さぁ、最終決戦を始める前の前哨戦だよ! 相手はリーナちゃんだ、張り切って行こう!!』
《遊戯者》の笑い声が、響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます