第67話 ショウマ、大活躍


「……何が、何が起こっているんだ」


 ラファエルは驚愕した。

 第二階層は自分達より等級が下である雑魚に踏破を任せたのだが、目の前に広がる光景は、自分達が仕切っていて第一階層の攻略よりも非常に速く進んでいた。


 第二階層も同様に大量の魔物が沸いていたのだが、ゴブリンではなく豚鬼オークであった。

 豚の頭部に肥えた人間の胴体という見た目のオークの知能はゴブリンと同程度だが、体躯は彼等より大きく力も強く、耐久力もある。

 ゴブリンより劣っている点としては、繁殖能力のみである。

 つまり、第二階層は第一階層に比べて時間が掛かるかもしれない場所であった。

 ラファエルはオークの集団相手だと、《超越級》以外の面々には荷が重いと思っていたが、そうでもなかった。

 彼等は、各々のパーティにいる魔法使いが使用できる広範囲魔法を、接敵する毎に一人ずつ一回使用し、討ち漏らしを他が叩くという戦法を取ったのだ。

 こうする事によって魔法使いの魔力を温存しつつ効率的に魔物を排除し、歩みを止めずに階層を進んでいたのだった。


 時は第一階層踏破後の休憩時間に遡る。

 ラファエルから《超越級》以外のメンバーが先頭で進むという提案を通した面々は、作戦会議をしていた。

 作戦を立てているのは、意外にもショウマだった。


「こういうRTAってのは、とにかく効率が求められる」


「効率かぁ……」


「そこで魔法使い全員に聞きたい事があるんだけど、広範囲魔法は撃てるか?」


 手を挙げたのは《竜槍穿りゅうそうせん》の黒魔法攻撃役アタッカーのヨシュア、《ジャパニーズ》のチエ、そして自信なさげにウォーバキンが手を挙げる。


「あれ、ウォーは精霊魔法の使い手だよね? 精霊魔法って広範囲攻撃魔法とかあったっけ?」


「うーむ、正確には攻撃魔法じゃねぇんだ。妨害魔法って言った方がいいかな。精霊にお願いして眠らせたり、とかな」


「おお、いいじゃんいいじゃん! 頼りになるなる! とにかく効率重視だから、魔法使いに初手ぶっ放してもらいたい。討ち漏らしは他の面々が処理する形だな」


 ショウマの提案に、皆が感心していた。


「で、魔法使い全員に聞きたいんだけど、自分の魔力を最大で百と仮定して、十程度の消費でゴブリンより強い相手を高確率で倒せる範囲魔法ってある?」


 これはチエとヨシュアに対する質問だ。

 二人はしばらく考えた後、頷いた。


「ありがとう! 次に聞きたいのは魔力の回復速度だ。失った魔力を一回復させるのにかかる時間を知りたい。千絵、どれ位かかる?」


「……体感的に、魔力を一回復するには、二から三分位……かな?」


「ありがとう、ヨシュアはどうかな?」


「正直君達が使う分とか秒は全く分からないけど、一時間こくより手前位で失った魔力は全回復するよ」


「成程、千絵と同じ位の速度って認識でいいかも、ありがとう。ウォーはどう?」


「ふーむ、俺様もヨシュアと同じ位の速さ、だと思うぜ」


「わかった、ありがとう! 最後に斥候のエリーに聞きたいんだけど、最近新しいスキルを発現したって聞いたけど、詳細を教えてくれないか?」


 ショウマは《竜槍穿りゅうそうせん》のエリーに質問をする。

 エリーはリュートとの訓練により、とあるスキルが使えるようになった。

 それが――


「アタシが最近使えるようになったスキルの名前は、《エコーロケート》。つまり、音の反射で脳内に建物の構造だったりをより正確に教えてくれるスキルだよ」


「へぇ、それはいいじゃん。その《エコーロケート》は常に発動してる?」


「ううん、ずっと発動し続けると頭が痛くなって鼻血が出てきちゃうんだ。だから、発動した瞬間に石を先に投げて、その音で構造を調べたりできるよ」


「うんうん、すっげぇいいスキルじゃん! ありがとう!」


 ショウマは聞きたい事を聞き終えると、本格的な作戦を立てる。


「俺の提案は、魔法使いの攻撃魔法で先制攻撃を仕掛ける。それである程度数が減るから、残りを皆で叩く戦法だ。先頭はエリーとリュートにお願いしたい。二人にはある程度石を拾ってもらって、通常時は罠や敵の気配を探ってもらって、分かれ道の時はエリーの《エコーロケート》を使ってどっちがいいかを判断して欲しい。リュートも危険がないかを常に探っておいてもらって、風の流れも感じてほしい」


 リュートとエリーは頷く。


「よし。で、肝心の魔法使いなんだけど、全員が一気に魔法を使うんじゃなくて、一回の接敵に対して一人の魔法使いが範囲魔法を撃つって感じだ。つまり、交代で魔法による先制攻撃を撃って魔法使いは後方に下がり、次の接敵で次の魔法使いが先制攻撃を放つって感じだ」


 ショウマが魔力の回復を尋ねたのは、この為である。

 このように魔法使いが交互に先制攻撃をする事により、失われた魔力を少しずつでも回復できるようにする為だ。


「順番はそうだなぁ……ウォー、千絵、ヨシュアの順番でいいかな?」


「俺様が最初か?」


「ああ。広範囲の眠らせる魔法を撃ってみて、魔物に効くかを図りたい」


「成程な、了解だぜ」


「後は討ち漏らしを倒す時は、出来れば一撃で仕留めてもらいたい。体力温存の意味合いも含めてね。スキルは可能であれば温存して欲しいけど、危険だったら使ってもいい。こんな感じの提案なんだけど、どうかな?」


 ショウマの提案に、皆頷いた。

 非常に効率的で無駄がなく、素晴らしい作戦だと感じたからだ。

 

「ありがとう、それとハリー、出しゃばってすまない」


「いや、素晴らしい提案だった。俺の方が感謝の気持ちで一杯だ。しかし、随分と的確だったが、経験があるのか?」


「いや、経験はない。でもさ、こういうRTAに挑戦している人達の事は沢山知っているんだ」


 ショウマはゲームやアニメという娯楽が大好きなようで、日々ゲームの最速クリア時間を競う競技を見守っていたとの事。

 その競技に求められるのは、兎に角効率だ。

 今回はそれに倣って、今考えられる中での効率化を提案したのだった。


「……やはり、流れ者の世界は俺達の世界より遥かに進んでいるらしいな。何となく理解したけど、あくまで漠然とだ」


 ハリーがそのように感想を漏らす。

 そして作戦の立案が終わった所で、タツオミが告げた。


「……休憩時間終了まで、残り一分。僅かだよ」


 それを聞いたハリーが、《超越級》を含めた全員に聞こえるように、声を張り上げる。


「全員、休憩時間はもうすぐで終わる! 全員準備をしろ!」


 全員が武器を取り、立ち上がる。

 そして、不愉快な声が流れる。


『さぁ皆、休めたかなぁ? これから第二階層のRTAを始めるよ~♪ 今回の制限時間は、十三分! 敵もちょっと強めにしてあるよ? さてさて、第二階層で何人死んでくれるかなぁ? 何人絶望してくれるかなぁ?』


 相変わらず苛立つ煽りをしてくる遊戯者。

 タツオミはスマホを操作してタイマーをセット。

 皆準備は完了している。


『それでは、第二回RTA、スタート!!』


 第二階層への入り口が開き、討伐隊の全員が走り始めた。





 そして時は戻り、第一階層の時より遥かに速いペースで先に進んでいる討伐隊の面々。

 この時点で、《超越級》以外の面々は《超越級》メンバーより優秀である事が証明されてしまったのである。


「……ちくしょうが」


 ラファエルはこの時点で、討伐隊のまとめ役としても器が彼等より小さいという事実を見せつけられ、彼のプライドは大きく傷付いた。


 そして誰かが小さく、


「これはつまらん。罠を置くか」


 と、誰にも聞こえない声量で呟いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る