第47話 その頃の《ジャパニーズ》のメンバーは……
リュートが銀等級として最高のスタートを切った頃、《ジャパニーズ》のメンバーは未だ立ち直れずにいた。
いや、むしろ今拠点としている賃貸の一軒家に引き籠っていた。
元々彼等は命のやり取りとは無縁の世界で暮らしていて、唐突にこの世界へ転移してしまったのだ。
目的の為ならある程度冷酷な判断すら出せるタツオミも、流石に精神的ダメージを負ったらしい。あの日から食事やトイレなどの最低限の事以外は、個室から出てきていない。
チエは被害者達の死に際の表情がこびりついているらしく、寝る際にたまに夢に出てきて悲鳴を上げる程だ。
そして、ショウマとリョウコは、性的快楽に逃げた。
きっかけは本人達もよくわかっていない。
だけど、気が付いた時にはお互いの身体を貪り、時間があればひたすら快楽を求めていた。
リョウコは初めてであったが、
今日もショウマの部屋で二人共一糸纏わぬ姿でベッドに寝て、息が乱れていた。
ショウマもリョウコも今のままではいけないとは考えている。
だが、そう思った瞬間、身体が全力で拒否をしていた。
それでも無理に外へ出ようとしたら、激しい腹痛に襲われ、結局冒険者活動が出来ない。
ショウマも同様であった。
「……はぁ、ダメなのはわかってるんだけどな」
ショウマがぼそりと呟く。
初めの頃の行為中はただただ激しく荒々しいものだったのに、最近はリョウコの事を大事に扱ってくれている。それが嬉しくて、ショウマに惹かれつつあった。
彼には向こうの世界で恋人がいる。しかもリョウコの親友と言える存在だ。
そんな親友の彼氏に、現実逃避という理由があるにせよ手を出してしまったのだ。
ショウマの呟きは、きっと親友に対する罪悪感を意味しているのだろうと、リョウコは感じた。
「……ごめんね、向こうに帰ったら芽衣に謝るから」
「ん? ああ、そういう意味じゃない」
「えっ、違うの?」
ショウマの呟きの本当の意味は二つ。
一つ目は、このままただ快楽に溺れるのはいけないという事。
この拠点は賃貸の為、家賃を稼がないといけない。
そしてもう一つは、向こうの世界にいる彼女より、傍で自分を支えてくれるリョウコに気持ちが大きく傾いてしまった事。
命のやり取りをこちらの世界でしているせいか、傍で支えてくれるリョウコの存在が日に日に大きくなり、身体を重ねた事によって気持ちは決定的になってしまった。
罪悪感は全くない。
むしろ身体から始まってしまったこの関係から、恋人関係に持っていけるのだろうか?
そちらの方が不安になってしまっていた。
(はは、今日なんてもう五回もしてる。……猿だな)
無理をさせてるな。
そう思いながら、リョウコの光沢があって綺麗な黒髪を優しく撫でる。
リョウコはショウマに撫でられて嬉しそうに微笑む。
(……だめだ、完全に涼子にぞっこんだ)
思春期の性欲はとんでもない。
またリョウコを抱きたくなったが、ぐっと堪える。
「なぁ、涼子」
「どうしたの、翔真?」
「……俺さ、そろそろ冒険者に復帰しようと思う」
「えっ、大丈夫なの?」
「わかんない。けど、動かないと始まらない、そう思うんだ」
「……翔真」
「達臣も千絵も、多分まだ無理だろうな。とりあえず、俺はそろそろ行けそうな気がするからさ、ソロで活動してみようと思う」
「そんな、危険だよ!」
「わかってるさ。でも、俺は皆のリーダーだから。俺が動いている姿を見て、少しでも皆の励みになれたらなって思う」
ああ、もうダメだ。
優しい笑顔を見せながら語るショウマに、リョウコは胸がときめいた。
最初一緒に転移した時は頼りないと思っていたけど、日に日にリーダーとしての自覚が芽生えて逞しく成長し、いつの間にかリョウコは彼を支えたいと思うようになっていた。
「いつ、行くの?」
「……今は、多分正午位かな。今から行こうと思ってる」
「……て」
「ん? なんて?」
「抱いて、翔真。今、貴方が欲しいの」
「えっ、でも……無理してないか?」
「ううん、無理じゃない。お願い、来て」
目を潤ませながら見つめてくるリョウコを拒否する事は、ショウマには出来なかった。
(ああ、好きだよ、涼子)
(好きよ、翔真。だから、無理しないで)
二人の想いは心身共に一つになった。
リュートと《
この三人は、リュートが銀等級に昇格した時から積極的に意見交換をしており、リュートにとっては数少ない友人と認識する程にまでになっていた。
今は、先程まで三人でやっていた模擬試合の感想を言い合っている。
「俺様が思うに、リュートは直線的過ぎなんだよ」
「ウォーもやっぱそう思うだか……。ちょっといい戦略が思い浮かばねぇだよ」
「ふむ、昇格試験の時に俺とやった時も、相当矢を消費していたな。リュートの今の実力は、対人戦より狩りや不意打ちに特化しているんだよな。とにかく今は、俺達が付き合うから対人戦の経験を積んでみよう」
「ありがてぇけんど、おめぇ達だって忙しいんでねぇか?」
「何言っていやがるんだ、リュート! お前程の弓の腕前を持ってる奴なんて早々いねぇから、俺様達も助かっているんだぜ?」
「そうだ。この前のサバイバル訓練も、本当に助かった」
サバイバル訓練。
王都近くにある森で三日間、リュート対 《
森の中にいるリュートはまさに水を得た魚で、完全に気配を消して予想外の所から狙撃されるのだ。
斥候として優秀な《
それは《探知 Lv.3》である。
このスキルは最大レベルが3まであり、エリーは最大レベルでスキルを得ていた。
その名の通り、集中するとあらゆる生物の位置が特定できるという優れものなのだが、何故かリュートの場合は探知に引っ掛からない。
理由は単純だがリュート以外に出来そうにない技法で、彼の奥義である自然と同化する事で、スキルにすら引っ掛からない事に成功したのだった。
しかもかなり巧妙で、真っ先に斥候役のエリーを潰しにかかり、殺気等の攻撃の起こりを感じさせることなくエリーを仕留める。
その後間隔を置いて、徐々にメンバーが減らされていき、サバイバル訓練三日目の午前中に全滅したのだった。
ちなみにこの時使用された矢は先端が丸まっている為、当たったらその場で「ヒット」と叫んで帰宅してもらうというルールで行っていた。
「ってかお前、どうやってあそこまで気配消してんだ? 流石に《ステイタス》持ってるんじゃねぇかって疑っちまうぞ」
「同感だな。本気で疑いたくなる」
「オラ、本当に持ってねぇだよ。ってか、今後も《ステイタス》を持とうなんて思っちゃいねぇ」
冒険者なら皆喉から手が出る程欲しがる《ステイタス》を欲しない冒険者は、非常に珍しい。
そんな姿勢のリュートに、ウォーバキンもハリーも嬉しくなってしまう。
何故なら――
「へっ、流石俺様のライバルだぜ!」
「流石、俺の目標だな」
二人はリュートを超えるべき存在だと認知していたからだ。
友人でありながら、同時にライバルでもある。
そんな関係を上手く築いていたのだった。
ウォーバキンとハリーから肩組みされ、満更でもないリュート。
三人でいちゃついていた時、三人の元へ一人の男が近づいていた。
「……や、やぁ、三人共」
声を掛けられ視線を向けてみると、そこには顔色が良くない《ジャパニーズ》のリーダーであるショウマが立っていた。
「ショウマじゃないか! もう、大丈夫なのか?」
ハリーは立ち上がり、ショウマの肩に手を置いて尋ねる。
「……正直、ここに来るのも身体が拒否してる」
「……無理はしなくていいんだぞ?」
「でもさ、俺、《ジャパニーズ》のリーダーだし、皆の為にも行動で示さないと」
顔色は悪い。
だが、ショウマの眼には、決意が宿っていた。
三人共、「もう少ししたら、ショウマは立ち直れる」と感じていた。
「ならショウマ、俺様達と模擬戦やらねぇか?」
「……いいのか?」
「勿論だぜ。リハビリに丁度いいだろうが。それに対流れ者戦の経験を積める、絶好の機会だろうが!」
「……じゃあ、その申し出、有難く受けさせてもらうよ」
「へへ、そうこねぇと。ハリーの旦那とリュートも、構わねぇよな」
「全く構わないさ」
「オラもだべ」
「……ありがとう、皆」
そして、四人で訓練場へと向かっていった。
地獄と思えた
そして近い未来、そんなショウマの姿を見て、他の《ジャパニーズ》のメンバーも立ち直り、全員で冒険者として活動を再開するのだった。
「所でショウマ、お前、どうせ部屋にこもってずっとマスかいてたんだろ?」
「そ、そんな事してねぇよ!!」
「何動揺してんだよ。俺様はわかってるんだぜ、男はつらい事があったら気持ちいいのに逃げちまうからな」
「っ!!!!!!」
「ほら、図星だぜ」
「なぁハリー、マスかいてるってどういう意味だぁ?」
「リュート、世の中には知らなくていいくだらない言葉が、沢山あるんだ」
「??????」
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