第41話 銀等級昇格試験 其の四
一方、リュートとハリーの試合を観戦していた冒険者達は、ただ茫然と二人の戦いを観ていた。
有り得ない、心の底から有り得ないと感じているのだ。
《ステイタス》持ちと持っていない者の戦いは、大体が瞬殺で終わる。
普通の人間が人間の形を模した人外と戦うなら、一対多数に持ち込むのがセオリーだし安全策。それでもある程度の犠牲や大怪我を覚悟しないといけない程だ。
それ程までに《ステイタス》有無の差は大きすぎるのだ。
だが、目の前で戦っている普通の人間であるリュートは、ハリーと互角に戦っている。
いや、互角どころの話ではない。
ハリーの思い通りにさせないよう、リュートが優位に思えてしまう。
勿論、遠距離攻撃対近接攻撃という部分で元々ハリーが相性的に不利なのだが、それでもここまでハリーが押されている光景に納得出来ていなかった。
そして、観客の誰かがぽつりと漏らす。
「……《銀閃》、本当に《ステイタス》持ってないのか?」
この言葉を聞いた冒険者は「実は本当は《ステイタス》持ちか流れ者の可能性が高いんじゃないか」と思い始めた。
だが、次の誰かの言葉で否定される。
「いや、持っていないのは確かだ。《ステイタス》持ちは感覚で相手が《ステイタス》を持っているかわかるらしいが、《銀閃》は持っていないという事が確認されてるらしいぜ」
《ステイタス》持ち同士、直感的に持っているか持っていないかが確実にわかるようなのだ。
何度か《ステイタス》持ちがリュートを視たのだが、彼は《ステイタス》を所持していなかった事が判明した。
「……するってぇと、あいつは、自分の技術だけでハリーとやりあってるって事か?」
「技術だけじゃねぇよ、鍛え上げた身体能力、戦闘時の勘や頭の速さ、全てがハリーに迫っているって事だぜ?」
「普通の人間が、あんな風に動けるのか?」
「……事実、動けてるじゃねぇか」
ハリーは殺気をまき散らし、まるで獣のように突進してくる。
そしてリュートは、観客から見ても存在が異様に希薄な状態で、自然と風景と同化しているような錯覚に陥る。
まさに動と静。
正反対の二人が今、激突している。
この戦いを観ている観客達は、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
「なぁ、リュートがもしこのままハリーに勝ったら、セオリーが覆らねぇか?」
「覆るどころじゃねぇよ、普通の人間のまま《ステイタス》を倒せるって証明になるぜ」
「……俺達も、死ぬ気で腕を磨けば、《銀閃》と同じ強さを得られるって訳か?」
「……文字通り、死ぬ気でやらねぇといけねぇかもな」
「私も、私も、《銀閃》様のようになりたい」
「お、俺だってなりてぇよ」
「クソ、こんなの見せられちゃ、身体が疼いて仕方ねぇぜ」
「なぁお前、観戦が終わったらちょっと手合わせ付き合えよ」
「いいぜ、前からお前とは一戦交えたかったんだ」
観客達も、リュートとハリーの試合に感化され、情熱の炎が勢いを増していた。
皆、思った以上に稼げる冒険者という仕事に、いつの間にか夢を忘れて安定を優先するようになっていた。
だが、こんな試合を見せられては黙ってもいられなかった。
普通の人間が《ステイタス》持ちを倒せる可能性。
目の前で戦っている《銀閃》が、その可能性を具現化している。
もっと。
もっと。
もっともっともっともっともっともっともっと!!
普通の人間が起こせる
きっとそれを目の当たりにした時、冒険者達の意識はガラリと変わるだろう。
そして冒険者達のレベルは底上げされ、より上質な存在へと変わるだろう。
観客全員が、前のめりになって観戦に釘付けになった。
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