第29話 レイド前の打ち合わせ
人数はリュートを含めて十四名。
リュートと同じ銅等級のパーティは《ジャパニーズ》という聞き慣れない単語の四人パーティと、《鮮血の牙》という五人パーティ。
そして指揮役を務める銀等級パーティは四人構成の《
各々が自己紹介をする。
先に自己紹介をしたのが、《
「俺は《
顔中傷だらけの大男という印象のハリー。
背中には両刃の大剣を背負っており、太い木すら両断出来そうな膂力がありそうだという印象だ。
「《
金髪の縦ロールヘアーで、見るからに雰囲気が貴族というのがわかるニーナ。
彼女は神聖魔法の使い手で、それを駆使して補助をしてくれるのだという。
「アタシは《
茶髪のセミロングに細い体躯は身軽そうだという印象を与える。
きっとエリーは《
「僕は《
一撃必殺、広範囲攻撃を得意とするヨシュアは、沢山の装飾品を身に付けている。
リュートが気になって尋ねてみると、全て魔法の効果を高める魔道具と呼ばれるものらしい。
正直、ジャラジャラと余計な音を立てそうだから、生粋の狩人であるリュートからしたら外してほしいという感想以外浮かばなかった。
《
「今回の
ハリーがそのように宣言すると、リュートを含めた他パーティの面々は頷いた。
銀等級と銅等級では実力や経験の差は非常に大きい。
異論が出る訳がなかった。
「では次に、ソロ活動している君、自己紹介をしてくれ。まぁ、君は有名人だから自己紹介は必要ないだろうが」
「んだ。オラはリュートっちゅうもんだ。ろ~るっちゅうやつは特に気にした事ねぇ。獲物も仕留めるし食料も調達出来るだよ、よろすく」
綺麗な顔立ちからの非常に強い訛りが発せられるリュートに、全員がずっこけそうになる。
未だにリュートの田舎訛りに全く慣れない。
リュートはそういう意味でも有名人だし、ソロでたった一ヶ月で銅等級まで上がった、超有望の新人だ。
しかし、一緒に仕事をしたパーティの評判が「あいつは凄い。とにかく凄い」と語彙力が皆無な感想しか来ない為、正確な実力は未知数だった。
どのように凄いのか知りたいハリーは、リュートに尋ねる。
「君の実力を知りたいんだが、どうやって証明できる?」
「……ん~。なら、この矢を適当に振り回してくんろ。オラ、その矢だけ射貫く」
「……そんな事出来るのか?」
「出来なきゃこんな提案してねぇだよ」
「わかった。マスター、ちょっと壁際借りるぞ」
酒場のマスターから了承を貰い、ハリーは矢を持って壁際に背を預け、矢を適当に振り回し始める。
対してリュートは先端を丸くしたお手製の木の矢を弦に当て、特に狙いを定める様子はなくただハリーを見据えていた。
酒場に集まっていた客達は、飲食を一旦止めて二人の動向に注目する。
直後、リュートは素早い動作で矢を放つ。
一切狙いを定めない速射だ。
放たれた矢は、ハリーがちょうど自身の肩辺りまで振り上げた矢に当たり、バキリと乾いた音を立ててハリーが持っていた矢をへし折った。
あまりの早業にざわつく酒場。
そして、持っていた矢を射貫かれた事に驚愕するハリー。
「……凄いな。こんな細い矢に正確に、しかも速射で当てるとは」
「これ位なら朝飯前だよ。オラの実力、わかってもらえただか?」
「朝飯前……。十分にわかったよ、ありがとう」
リュートが弓を収めると、酒場の客からは拍手が起きた。
リュートは拍手に応える事無く、何事もなかったかのように自分の席に戻った。
イケメンで弓を放つ姿は凛々しい、そんな彼に酒場にいた女性客達は早くも首ったけだったりする。
「では次に《鮮血の牙》の面々、自己紹介をしてもらおう」
「待ってました! 俺はいずれ勇者になる男、そして《鮮血の牙》の隊長である《ウォーバキン》様だ。
勇者になると大きく出た男、ウォーバキン。
主に戦闘補助や生活面で大活躍する精霊魔法に剣を組み合わせて戦う、魔法剣士という立ち位置らしい。
金髪で細身、性格も軽そうな印象であり、自己紹介から見ても承認欲求の塊かもしれないというイメージしかなかった。
「……ウォーのあほんだら。えっと、この馬鹿を補佐する《カルラ》です。うちの隊長は見ての通り馬鹿なので、私は後方で指示をします。敢えて
「馬鹿馬鹿言うんじゃねぇ!」
ウォーバキンを馬鹿にしつつ自己紹介をするカルラ。
眼鏡をかけて赤髪を三つ編にしている所から、とても理知的な印象を与えてくる。
戦闘能力はそこまで期待しないでほしいとの事で、その代わりアイテムや魔物の知識は相当なものだと言う。
「俺は
白銀の鎧と盾を装備している、ハリー以上の大きな体躯をしているガイは見た目通りの
そして寡黙な所があり、非常に手短な自己紹介であった。
「俺っちは
男だが随分と小柄なリゥムは回復役。
しかも回復に超特化しているらしく、戦闘力を犠牲にした代わりに欠損した身体も再生させる程だという。
「最後に。私は《レイリ》と申す。私は刀を使った抜刀術を用いて戦う
長い金髪を後頭部で纏め、ひらひらとした見慣れない色鮮やかな服を着ているレイリは抜刀術をメインにした一撃必殺を得意とした女性だ。
この服装は和服というらしく、師事した男性から贈られた服なのだという。
どうやらレイリは師匠に恋慕を抱いているようで、師匠の事を話すと凛々しい表情が崩れ、愛おしそうな表情をする。
「頼もしいな。《鮮血の牙》の面々にも期待する。さて、最後に――」
ハリーが《鮮血の牙》の自己紹介を締めると、《ジャパニーズ》の面々に視線を向ける。
だが、その視線は期待ではなく、何となく面倒そうな感情が宿っていた。
リュートと《ジャパニーズ》のメンバー以外も、ハリーと同様だ。
リュートはその視線の理由が全く分からず首を傾げるが、《ジャパニーズ》の面々は鬱陶しそうな表情を隠さなかった。
「はいはい。どうも、流れ者集団の《ジャパニーズ》代表、《
黒髪短髪で若い印象のショウマは面倒臭そうに自己紹介をする。
得物はどうやら片手剣を使うようだ。
レベルやらスキルと聞き慣れない単語が出てきて首を傾げるリュートだが、質問をしようとした矢先に次のメンバーが自己紹介に入る。
「私は副代表の《
これまた珍しい黒髪のロングヘア―のリョウコ。
念動力とは聞き慣れないもので、どうやら獲物を持っていない様子。
どうやって戦うのか気になるリュートが質問しようとしたが、これまた遮るように次のメンバーが自己紹介をする。
「《
手短に自己紹介を終わらせるチエも黒髪のセミロング。
最初から最後まで気怠そうにしていて、リュートの印象は「大丈夫かこいつ」であった。
まぁ魔法が得意なんだろうと、ざっくばらんに把握した。
「僕は《
黒髪で高貴なオーラを出しているタツオミ。
常に微笑みを絶やさないが、どうも胡散臭い笑顔だ。
腹に何か大きな一物を抱えているような、そんな不安がリュートによぎった。
「ちっ、流れ者様はいいですよねぇ、そんなにホイホイスキルを貰えてさ!」
そんな事を突如言い出したのはウォーバキン。
明らかに喧嘩腰だ。
「俺達は《ステータス》を得る事自体大変なのに、流れ者様は気軽にポンポン貰えていらっしゃる。しかもユニークスキルだぁ? やってらんねぇよ!」
「なら、さっさと金を貯めて《ステータス》を受けるといい。俺達だって、さっさとこんな糞みたいな世界から自分達の世界に戻りたいんだよ」
ウォーバキンに対抗したのはショウマだ。
ショウマの目には殺気が宿っており、証拠として彼の右手は鞘に収まった片手剣の柄に添えられている。
いつでも抜いて斬るつもりだ。
「はっ、てめぇ。俺様とやろうってのか?」
「ああ、俺は生憎売られた喧嘩は買う主義でね。お前が涙と鼻水にまみれた顔面を地面に擦り付けて謝罪するまで痛めつけてやるよ」
「言うじゃねぇか、餓鬼が!」
「その餓鬼にこてんぱんにされるお前は、ただの雑魚だな。夢想勇者様」
「……殺す!」
一触即発。
正直、《ステータス》無しが《ステータス》有りに勝つのは非常に難しい。
だが、ウォーバキンとしては自身のプライドがその事実を許さなかった。
お互いが剣を抜こうとした瞬間、ハリーが間に入る。
「止めろ! 俺も流れ者には正直良い印象を抱いていない。だが、まずは
ハリーも流れ者に対して相当な嫉妬心を抱いている様子。
だが、流石は銀等級、依頼を成功させる事を優先したのだった。
そんなハリーの様子を見て、ウォーバキンは大きな舌打ちをした後に荒々しく腰掛けた。
ショウマも渋々といった様子で席に着く。
「……とりあえず、全員自己紹介は終わったな。色々思う事はあると思うが、
ハリーが何とか場を収め、最後に面々に質問があるかと尋ねる。
すると、リュートが挙手する。
「リュートか。何だ?」
「ありがと。すんげぇ気になった事が一つあるだよ」
「なんだね?」
「流れ者ってなんだ? すてーたす? すきる? れべる? そんなの冒険者の講習で詳しく教わってないだ」
『そこからかよ!?』
全員が声を揃えてリュートに突っ込んだ。
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〇スキルについて
スキルは《ステータス》を得てから、その行動によって得られる。
どのタイミングで得られるかはわからず、感覚的に新たなスキルを得たのがわかる。
「ステータスオープン」と叫べば、自身のレベルや筋力などの身体能力が数字化されて表示され、同時に自身が所持しているスキルを確認できる。
この世界の人間はスキルを三つ得るのも一苦労なのだが、流れ者は最初から《ステータス》と共にスキルも三つ与えられている。
しかも三つ目のスキルは大抵ユニークスキルで、この世界の人間がどう頑張っても得る事が出来ない効果ばかり。
そういった点が、流れ者が嫌われている理由の一つとして挙げられている。
〇流れ者について
どういう訳か、日本という異世界からやってくる流れ者だけである。
流れ者自体そこまでの数はいないのだが、共通して言えるのがやけにはっちゃける事。
当然偉大なる流れ者もいるのだが、そのはっちゃけ具合は酷い時は町を様々な理由で滅ぼしてしまう程。
これはラーガスタ王国だけでなく、全世界が抱えている問題で、とある国では流れ者は全て国で管理している所もある。
流れ者が嫌われている大きな理由は、まさにこれである。
※はっちゃけ具合の一例
日本という異世界の記憶を持った赤ん坊が生まれた。
彼はそこでの知識を使い、村を大きく発展させた。
だが、とある貴族が目を付けて軍事力で脅しをかけてきたのだが、頭に来た彼は見た事もない兵器を開発し、貴族が管理していた町を村人全員で攻撃。
結局無関係の町の住人も蹂躙し、町を滅ぼした結果、その流れ者と村人は全員国王命令で処刑される。
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