第27話 田舎者弓使い、有望新人として注目される


 実技の確認については、文句なしであった。

 リュートはあえて百メートルミューラ離れた場所から、的の中心を十回連続で射貫いた。

 それだけではない。

 構えて射るまでの時間が、一射につき一秒も掛かっていない程の速射で、命中精度も恐ろしく良い。

 更にリュートはパフォーマンスとして、的の足――太さは約二センチラミューラ程の太さが四本――を、三百メートルミューラ離れた距離でこれまた速射で的中させる。

 ギルド職員も、見学に来ていた冒険者達も、異常とも言える弓の腕前に驚愕し、開いた口が塞がらない状態となっていた。

 そして弓で射るリュートの姿はあまりにも凛々しく、矢を放つ度にまるでシルクの糸なのではないかと思わせる柔らかい髪が靡き、太陽が栗色の髪を輝かせる。


 絵に描いたような理想的過ぎる美少年が、目の前にいた。


 筋肉質なムサい男冒険者しか目にしない女冒険者達にとって、リュートの整った容姿に釘付けになってしまっていた。女冒険者達だけではない、ギルドの受付嬢達もうっとりとしており、完全に魅了されていた。

 そして男冒険者達からは非常に評価が高かった。

 容姿はぶっちゃけ気に食わない、だがそれに目を瞑れば弓の精度が恐ろしい程に良い。

 冒険者パーティとしては空を飛ぶ魔物や遠くにいる魔物を正確に仕留められるし、パーティの生存率もぐんと上がる。

 これはスカウトしなければと、思ったのだ。

 

 そして――


「これでよかっただか?」


 リュートから発せられる、美しすぎる容姿に合わない田舎者丸出しの訛り言葉に、全員がずっこけかける。


「は、はい! 申し分ない腕前ですね!」


「ありがとお。これでオラ、冒険者になれるけ?」


「勿論です! 優秀な新人さんが入ってきてくれて、私達冒険者ギルドもとても嬉しく思います!」


 ミリアリアは自分が精一杯作れる、男受け良さそうな笑顔をリュートに向けた。当然、リュートには全く意味がない。

 逆に、


「そうか、それならよかっただよ!」


 リュートの嬉しそうな笑顔で反撃され、ミリアリアはノックアウトされて気絶しそうになる。

 だがミリアリアも流石はプロの受付嬢、何とか持ち直してリュートを受付まで案内する。

 そこでリュートに、石で出来たネックレスのような物と、不思議な板に文字が刻まれた物が渡される。


「こちらのネックレスが冒険者の証である《タグ》です。刻まれている文字はリュートさんの名前ですね。そしてこの薄い板が冒険者の免許証となっています。これら二つを常備する事で、初めて冒険者と名乗れます。無くした場合は再発行に金貨五十枚を頂きますので、ご注意くださいね?」


 つまり、五万ペイ掛かるとの事。

 五万ペイは新人冒険者で稼ぐには、相当頑張らないといけない金額だ。

 リュートは大事に免許証を懐にしまい、石で出来たタグを首に付けた。


 今この時点で、リュートは冒険者となった。


 王国兵士になるまでの間、外の世界の事をしっかりと学び、学も同時に身に付けて、そして王国兵士の試験に挑む。

 冒険者は通過点に過ぎない。

 が、手を抜くつもりはない。

 冒険者になったからには《ステイタス》なしでの最上位である金等級を目指すつもりでいる。

 お金もがっつり貯めて生活の基盤も整えよう。

 最初は宿頼りになるが、いつかは自分の家を持とう。

 リュートはざっくばらんではあるが、直近の予定を組み立てていた。

 すると、リュートを取り囲むように、沢山の冒険者がやってきた。


「やぁ、パーティを探しているなら俺達の所に来ないか?」


「いやいや、こんな奴の所より俺達の方が待遇良いぜ! まるで実家のような安心感がするパーティだって評判なんだ!」


「嘘つけ! 俺達の所は歩合制だが、あんたの腕ならめっちゃくちゃ稼げるだろう! どうだ、思う存分俺の所で腕を振るってくれないか!?」


「歩合制とか阿呆か!? こちらはちゃんと均等に報酬を約束する! 教育制度もばっちりだぜ!?」


「ぉ、ぉぅふ」


 あまりにも凄い勢いに、リュートの口から変な言葉が漏れてしまった。

 どうやら自分をパーティに誘いたいらしい。


「み、ミリアリア。オラ、最初は一人でやりてぇんだが、それってええんか?」


「……正直最初から単独はいけません! しっかりパーティを組んで活動してください!」


「……わかっただよ」


 リュートは皆と話してどのパーティに入るかを決める事にした。

 大勢の冒険者を引き連れて、ギルド内部にある椅子に座って話を聞く事にしたのだった。


「……ねぇ、ミリアリア。何でパーティ結成を無理矢理勧めたのよ」


 リュートが去った後、同僚の受付嬢が耳打ちでミリアリアに訪ねてきた。


「……だって、単独だと死亡率上がっちゃうじゃない。私、リュートさんには死んでほしくないもの」


「あんた、めっちゃ私情挟みまくってんじゃん……。ギルド長にばれたらやばいわよ?」


「わかってる……。でも、死んでほしくないんだもん」


「……だめだこりゃ、私以上に彼にお熱だわ」


 絶対後で痛い目を見るだろうなと、同僚の受付嬢は確信をする。

 しかしミリアリアの気持ちはわからんでもない。

 何故なら、ギルドの仕事は好待遇だが非常に忙しく、出会いなんていかつい容姿ばかりの冒険者のみ。

 良い年頃である自分達にとって、リュートは天から舞い降りてきた天使にも等しい存在なのだ。

 それなりに恋愛経験豊富な同僚の受付嬢でも、容姿だけで心を鷲掴みされてしまったのだ、ミリアリアがぞっこんになってしまっても仕方ない。


(……まっ、しーらないっと)


 ミリアリアの行動に呆れつつ、自分の仕事をしながらたまにリュートの姿を見て、ほぅと思わずため息を漏らしたのだった。


「オラ、そんなにいっぺんに話し掛けられてもわからねぇだよ!! 順番、順番に話してけろ!!」


 一方リュートは、あまりの大人気さに非常に戸惑っていたのだった。


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