第3話 いざ、王都へ!
村一番の狩人を決める大会は、結果としてリュートの圧勝であった。
他の参加者はダッシュボアやワイルドグリズリー等の普段狩っている魔物を、普段より倍の数を狩ってリュートに挑んだが、リュートは遥か上をいっていた。
何とリュートは、村の男衆全員で掛かっても狩れるかどうかわからない《ランドリザード》という大型陸竜種を単独で二体も狩って来たのだ。
しかも二体共眉間を鉄製の矢で貫かれて絶命していた。たった一射で二体共仕留められていたのだ。
ぐうの音も出ない程、リュートの圧勝だった。
こうして四連覇を成し遂げたリュートは、さっさと旅支度を整えて村の皆には内緒で旅立ったのだった。
(内緒で出ていかねぇと、引き留められるのが目に見えてるかんな……)
村の食料の大半を自分が確保しているのを自覚しているからこそ、強く引き留められたら旅立ちの決心が揺らいでしまうかもしれない。そう思ったのだ。
それでもやはり黙って出ていくのには少なからず抵抗はある。
だが、それ以上に聖弓を手にするという野望の方が気持ちは上だった。
(わりぃ、村の皆。申し訳ねぇけんど、オラは自分の為に動くだ)
愛用している弓と鉄の矢三十本が入った矢筒、そして狩り用の秘密道具を入れたリュックという、旅にしては比較的軽装で村を後にする。
(地図は、前商人さんからワイルドグリズリーの毛皮と交換して手に入れたから、地図通りに行けばいいだな)
徒歩で行くと王都までは約一カ月の旅となる。
それまでいくつかの村と町を経由して王都に辿り着くという計画だ。
別に特段急いでいる旅ではないので、初めての外界を堪能しながら王都を目指そうとリュートは心に決めていた。
このまま王都に行っても、外の知識を全く知らない田舎者だと笑われてしまうだろう。
なら、見聞を広めながらの旅でもいいではないか。
だから王都へ向かう旅は、リュートにとっては全く未知の旅。
不安もあるが楽しみで仕方ないのだった。
「だけんども、鉄の矢はあんまり使わねぇ方がいいな……」
矢筒に入っている三十本の鉄製の矢は、村にいた時は村長が支給してくれたものだ。
村を出てしまった今、鉄製の矢を補充する術はない。いや、知らない。
なら節約するしかないのだった。
しかし、リュートは弓の腕が生命線だ。
矢がないと攻撃手段が完全に失われてしまうのだ。
「ふむ、だったら自作するしかねぇべ。節約、大事だがや!」
そう、弓に関しては異常な腕を持つリュートは、弓に関する事で様々な工夫を生み出していた。
その一つとして、枝を少し加工して木の矢を作る事だ。
彼は決断すると即行動を移すタイプの人間で、道中歩きながら人間の指程度の太さで極力まっすぐな枝を拾っていく。五十本程拾い、リュックに枝を詰めていく。
一度適当な場所で休憩を取り、その間に五本の木の矢を作成した。
矢と言っても至って単純、枝の切り端をナイフで削って尖らせて矢じり代わりにし、もう片方の端を平らにナイフで切断し、縦に浅い切り込みを入れる事で弓の弦にあてがう部位の
贅沢を言えば矢羽を付けて少しでも真っすぐ飛ぶようにしたかったが、そこは長年の勘で補えばいいだけの話。
旅の食料を確保する程度だったら、粗末な木の矢で十分であった。
「よし、さくっと食料確保するか!」
リュートは一旦地図をリュックに押し込み、弓を手に取る。
そして先程作ったばかりの木の矢を持ってそのまま歩き始める。
ちなみに、まだこの時点では弓を射る体勢は取っていない。
周囲に常に視線をやって獲物を探しながら歩くリュート。
「おっ、ブルーバード発見」
ふと、上空を飛ぶ鳥の気配を察知したリュートは、一瞬で弓を射る体勢になっていて、特に狙う動作もせずに弦を引いてさっと矢を放った。
優雅に飛ぶ青色一色の中型の鳥の頭部に矢が突き刺さり、胴体と頭は切り離されてしまったのだ。
リュートは、飛んでいる鳥を特に狙う事無く、早業で頭をピンポイントに弓で吹き飛ばしたのだ。
血をまき散らしながら地面へ落下していく鳥。
リュートは「朝食、朝食♪」と上機嫌に地面で血の海を作っている鳥を回収しに行く。
回収した後は足を持って逆さの状態にし、切断部分を地面に向けて血を地面に垂らしながら歩を進める。
こうする事で、血抜きをしながら旅を続ける事が出来るのだ。
獲物を確保してから三十分歩いた所で、ようやく流れ出る血が止まった。
リュートはその場で腰を下ろし、リュックから先程回収した枝と火起こしセットを取り出し、手際よく火を起こす。
そしてこれまた手際よく獲物の毛を毟りナイフで腹を掻っ捌き、内臓を取り出す。
適当に穴を掘って内臓は埋め、枝を串替わりにして焚火の近くで鶏肉を焼く。
リュックから、焼くと魔物が嫌う匂いを出す草を焚火の中に放り込み、魔物除け対策をする。
内臓は食料となり得るが、寄生虫がいる事もあり旅で口にするのはかなりのリスクがある。リュートは今までの狩猟生活で内臓関係で痛い目に合った事がある為、道中で内臓を食す事にしないと決めていたのだ。
焼くのを待っている間、余った枝で矢の作成をしていく。時たま持参した水筒で喉を潤し、さくさくと矢を作成していく。
削った木くずはそのまま焚火に放り込み、火力維持に使う。
狩りで培われたサバイバル術は、この旅でもいかんなく発揮するであろう。
近くにあった口に出来る草を野菜代わりにし、焼きあがった鶏肉を堪能する。
腹も膨れて満足したリュートは、火を消して早々に立ち去る。
「んっ、これなら旅は問題なか」
確かな手応えを感じたリュートは、旅は問題なく進めると確信した。
しかし、外界を全く知らない彼の旅はそう簡単なものではない。
これから外で生活する上で、絶対に覚えないといけない事を、リュートは全く知らないのだ。
リュートは、お金の存在を全く知らないのだ。
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