第103話夢幻
しかし、遅かった。
目を開けていられない光は、優に当たる少し手前の頭上で、再度空中で爆発して爆音が鳴り響いた。
定吉と一つ目は、その余りの爆風と衝撃波で、かなりの距離吹き飛ばされる。
そして、そこから少しの距離の離れた森の中。
「うぅっ…」
まだ春陽の体を乗っ取っている優の姿を見付けられない朝霧だったが、何かを感じとり、胸を押さえると膝から崩れ落ちそうになった。
しかし、ついさっきも、今と全く同じように、胸に痛みがきて体勢を崩しかけた事があった。
今と全く同じように…春陽に呼ばれているような、そんな瞬間がさっきあった
だがそれは、泥に沈んでいた優が朝霧を呼んでいた声だった。
一瞬遅れて、その爆風が朝霧と春頼を襲う。
朝霧達ですら立っていられず、地面に体を伏せなければならなかった。
この時朝霧と春頼は、直感的に春陽の身の危険を察知した。
「ハル!!!」
朝霧が叫び、歯を食いしばり猛烈な風に逆らい体を起こす。
「兄上!!!」
春頼も心の底から声を上げ、朝霧と同じ行動を取った。
そして…
二人は、力の限りで前に向かった。
春陽がいると確信できる方へ…
その耀が爆ぜたのは、余りに一瞬の事だった。
「くぅ…」
吹き飛んだ後、仰向けで倒れていた定吉が、すぐさま頭を振り上半身を起こし、恐る恐る優の方を見た。
定吉程の屈強な男が春陽の身体を考えて、呟いた言葉と全身が震えて立てない。
「はっ…はる…ひ…」
あの強風はすでに止み、辺りは嘘のように静まり返っている。
しかし、周囲は爆風で木々が折れ、草木がなぎ倒されている。
そんな中、優のいるであろう場所一帯は真っ白いモヤがかかっていた。
「はっ…春陽!!!」
定吉が叫んだ。
魂の奥底から…
ゆっくりと…そのモヤが薄くなっていく…
するとその中に、人の形が薄っすらと見え始める。
定吉は、それを固唾を飲み見詰めた。
やがて、その輪郭だけだったものがハッキリ分かってきた。
そこには、春陽の体を借りている優が、抜き身の紅慶を手に立っていた。
そして…
あれだけ汚れていたはずのその全身は、いつしか全ての泥が払われ、さっき痛めた右足の痛みも無くなっていた。
魔刀は、遙か遙か時空をいとも簡単に超え、異世界の決して破られるはずの無い結界すら破り、主である優の召喚に応じたのだ。
すでに天候の戻った青空からの一筋の光が優を照らし、
さっきとは打って変わった優しい風が、優の長い黒髪をサラサラサラと靡かせている。
それはまるで…
夢幻のような美しい光景だった。
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