第102話閃光
空の大異変に…
一つ目は、優の首を泥の中で押さえたまま空を見上げ、
定吉も、目を眇め天を仰ぎ見た。
優のすぐ近くまで来ていた朝霧も春頼も
、前方の空の異様な光景を発見しそれに目を瞠る。
そして、朝霧も春頼も共に己の身の安全より、春陽に何かあったのではないかと戦慄する。
優が春陽の体を乗っ取っているなど、夢にも思わないまま…
又すぐ、赤い空の部分が黒くなり、そこに白光が瞬き、何かを壊したかのような激しい爆発音がした。
それは、何かが、この世界をこの世界たらしめている、決して破られる事など無いはずの結界の壁をぶち壊した音だった
。
破壊され空いた大きな穴は、やがてすぐさまこの世界の摂理で修復されたが…
途端に、嵐のような風が辺り一面に吹き荒れ出す。
それは、草や葉どころか木の幹まで揺らし、大量の砂まで巻き上げる。
「春陽!!!」
定吉が、前にいる優に向かい絶叫した。
しかし、その声は、激しい風音に掻き消されてしまい、
更に、優を助けに行こうとする定吉の体は、強く吹きつけてくる風に前を遮られる。
風は、一瞬も勢いを止める事無く、春陽の元に一刻も早く行きたいと、今にも発狂してしまいそうな朝霧、春頼達にも容赦なく吹きつけ動きを封じていた。
すると…
又、突然、空に大きな白い閃光が見えた
。
さっきの稲光よりも、更に更に激しく燃えるように輝くそれは、
やがて火花のような尾を引き、轟音を轟かせながら、凄まじいスピードで優めがけ落ちてくる。
まだ首を圧迫され、遠退きそうな意識の中藻掻きながら、それが紅慶だと優は確信した。
しかし…
紅慶を呼んでこんな大事になるなんて、夢にも想像していなかった。
その余りの凄さに、召喚した本人の泥塗れの優が慌てふためく。
一つ目も、優の首を押さえたまま空を見上げ続けていた。
定吉も、動けないまま又目を眇め、再度空を仰ぎ見た。
朝霧達も、前方近くの空の異様さに更に瞠目した。
命の危険を察した一つ目は、優の首から手を離し、さっと逃げの体制に入った。
そして、定吉は…
ほんの一瞬で脳裏に、走馬灯のように出会ってからの春陽を思い浮かべていた。
橋の欄干の上で、春風に髪を靡かせ、人ならぬ美しさと妖しさで定吉を見詰めていた春陽…
荒清村で、家族、村の住人に分け隔てなく優しく微笑み話しかける春陽…
口元に牙、頭に双角を生やしながら、あどけない顔で定吉の腕の中で眠る春陽…
ムッとした顔で、定吉に竹筒を押し返す春陽…
そして、今にも泣いてしまいそうな顔で…
大人しく定吉に顔を拭かれていた春陽…
無論、定吉も、春陽が途中で優にすり替わっているのを、なんとなくおかしいと思っていても、今も真実はわからず仕舞いだ。
「はっ!春陽!!!」
定吉は叫び、渾身の力を振り絞り、優の元に行こうと風に立ち向って行った。
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