第84話煉獄の獣狼2
そこへ、薄ら笑いを浮かべ小角の淫魔が突然、定吉の前から高く高く飛び上がり
、今度は離れていた春陽の前に降り立ち春陽に斬りつけてきた。
定吉はらしくもなく焦ると、忍ばせていた小刀を三本、小角の淫魔めがけ疾風の如く投げた。
それらは、並み外れた技で完璧な軌道を描いた。
しかし、人間相手なら完全に全てが体に深く刺さっていたが、相手は魔物。
素早過ぎる動きでギリギリで避けられた
。
しかも、今度は、定吉も黒獣達に囲まれてしまう。
その時、春陽は咄嗟に刃をかわしながら
、聴力の変化で普通なら聞こえない、もう近くに沢山の援護の武者達が来ている音を聞いていた。
彼らは、春陽や雪菜の名を叫んで探している。
「雪菜を頼む!もうそこに、援護が来ている!」
春陽が、近くに来ていた真矢に雪菜を渡し抱きかかえさせ、次に自分で小角の淫魔の刃を受けた。
「行け!早く!」
春陽が叫ぶと真矢は、この状況下で微笑んで答えた。
「必ず!お任せを!」
その声を、何処かで聞いた気がした春陽だったが、気に出来たのは一瞬だった。
それを見て朝霧は、春陽を護ろうと小角の淫魔に斬りつけようとしたが、今度は春頼の所から、長角の淫魔が飛び上がり朝霧の目の前に現れ斬り合いになる。
そして今度は、春頼も黒獣に囲まれ次々襲われ刃で応戦しなければいけなくなった。
(強い…)
今度は、小角の淫魔と斬り合う春陽は思った。
相手は余りに身軽で刃先すらかすらず、春陽の額から汗が止めどなく流れる。
しかし、小角の淫魔も思った以上に春陽が応戦してきて、一進一退で焦り始めた
。
朝霧もなんとか春陽を助けに行こうとするが、長角の淫魔に執拗に邪魔され対峙せざるを得ず、足止めを余儀なくされる
。
そして、春頼も定吉も、無限の如く湧いて出てくる黒獣に囲まれ襲われ、それらを払いながらなんとか春陽の元へ行ことした。
小寿郎も優と春陽を案じながら、煉獄の獣狼と激しく衝突する。
その内春陽は、小角の淫魔を斜面のギリギリまで追い込むが、突然小角の淫魔が口から大量の紅い霧を出し浴びせられ、キツイ臭いで立ちくらみを起こして、ふらふらとして反対に落ちる。
それを見て、春頼、小寿郎、定吉が声を失い絶句した。
「ハル!!!」
朝霧は大絶叫し、斬りつけた大角の淫魔に刃をかわされると、その隙をつき大角の淫魔を横から思いっきり蹴った。
そして、春陽を助けに猛走する。
鈍い音を立て、大角の淫魔が大木の幹に体を飛ばされぶつけぐったりした。
朝霧は急いだか、ズシャと地面の音がして、朝霧より先に定吉が地に腹を着けて春陽の腕を掴んで寸前で落下を免れた。
春陽は斜面を登ろうと足を踏ん張るが、土壌が脆くすぐ崩れ足を取られ滑る上、紅い霧の所為だろう、体の力自体が上手く出せない。
朝霧は、今度は定吉の背中に刀を突き刺そうしている、春陽に霧を撒いた小角の魔物に一太刀食らわした。
鋭い刃は、魔物の左腕に深く、深く入ったはずだった。
「な?!」
しかし、刀は魔物の皮膚で止まり、肉になかなか通らない。
いや、むしろこの状況で、皮膚が刃を押し返してさえきて、明らかに人間のものとは違っている。
驚く朝霧の前で、春陽が定吉に向かい精一杯叫んだ。
まさか覆面で顔の殆どが分からないこの男が、あの橋で会った男だと思わないまま…
「はな…せ!お前も、落ちる!」
そして、優も…
「ダメだ!離してくれ!」
ただ、決してその優の声は全く誰にも届かないが…
「くっ…ぐっ…ぐぐっ!」
呻きながら、どう言う訳か定吉は必死で春陽を引き上げようとするが、更に土砂が崩れ、徐々に定吉自身も深淵に引きずられて行く。
「ハルぅ……」
朝霧も、尚魔物を引き止め痛手を加えようとしながら呻く。
「離してくれ!!!」
尚そう叫んだ優は、春陽の双眼を通して覆面から唯一出ていた定吉の瞳を深く見た。
そして、今やっと分かる…
今、自分の前世、春陽の腕を…
そして、春陽の中の自分の命を懸命に握っているのが誰なのかを…
「定吉さん!!!」
優が叫んだ次の瞬間、春陽と定吉は、共に暗い崖底めがけ滑り落ちて行った。
「ハル!ハル!!!」
朝霧は、絶望に狂ったような声を上げ、力の限り刀を小角の淫魔の腕に押し込んだ。
「ぐぁー!!!」
小角の淫魔が絶叫し、その腕から血が撒き散らされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます