第54話青炎
朝霧は横から斬りつけ、男が上半身、スーツを裂かれ血が吹き倒れた。
一方春陽は、一度は刃を避けたが、続いた猛攻にキツイ一撃を喰らう事を予想した。
だが、何故か突然、藍が飛び上がった空を降りる途中攻撃を諦め後ろへ下がった。
くっぐっ…ぐぐっ…
藍の苦し気な呻きに何かと春陽が見ると、彼の左胸に矢が刺さって、突然そこから炎が激しく燃え盛っていた。
立ちのぼるその色は、限りなくどこまでも清冽で青い。
そして、矢羽の所には、矢先から通された札が見えた。
春陽が後ろを振り返ると、遠くから真矢が弦を引いていて、第一矢に続き次を放とうとしている。
くっぐっ、うっ…
酷く苦しみながら青炎の矢を抜こうとする藍を見て、春陽が一瞬攻撃を忘れ苦悶の表情を浮かべた。
「ハル!何してる!今だ!」
朝霧の叫ぶ声に春陽はやっと我に返り、藍に留めを刺そうと刀を振り降ろした。
だが、
ぐぉーっ!
藍の野獣の断末魔の如き大きく不気味な唸り声と共に激しい風が砂を巻き上げ吹いた。
そして、その衝撃で春陽は後ろへ飛ばされ尻もちをつき倒れた。
「ハル!」
朝霧が叫び駆け寄ろうとする。
真矢も前へ走り出そうとした。
「いってぇ…」
そう言い、打った所をさする優の身体には、すでに春陽は居なかった。
春陽はさっきの衝撃で飛ばされ、優が帰ってきたのだ。
しかも、さっきまで手にあった紅慶は消え、丸腰の上チートも何も持たない。
ふと、自分の置かれている不利な状況を察知し、優は嫌な予感と共にそっと視線を上に向けた。
「ハル…恨むなら、春陽の甘さを恨むんだな…」
目の前で余裕有り気に笑い藍はそう言うが、さっきは春陽だけが悪い訳ではない。
躊躇った自分の思考に引きずられ、身体を動かせなかったのも大きいと優は知っている。
真矢の矢を抜き二つに折り、心臓の傷が塞がっていくニヤっと笑う藍。
でも、は…春陽さん、せめて決着着くまで俺の中に居て欲しかった…
藍を見上げ、優は目を点にして悠長にそんな事を思った。
「ハル!!!」
朝霧が顔面蒼白で近づく。
するとさっと優は逃げようと立ち上がったが、藍に捕まり羽交い締めにされた。
「朝霧!それ以上近づくな!今はこんな役立たずなハルでも可愛いいか?可愛いい、可愛いいこいつの首が飛んでもいいのか?」
藍は朝霧を見据えて、優の首元に刀を近づけた。
後数センチの距離で、刃が霧の中でも仄かに光る外灯に照らされ光を放ち、リアルな恐怖を優に与える。
そこから目線を上げた優と、興奮で荒い息をしながらも激情を抑え、それでも今にも爆ぜさせそうな朝霧が目が合った。
そして、互いに引き合う様に視線が絡み合う。
それはまるで、互いの身体を交えた時の様に深く、深く…
朝霧さん!
優は、鼓動を速くしながら心で呼び、腕を伸ばしたい強い衝動に駆られる。
その二人を見て、藍が優の顎を掴んで視線を強引に外させ、更に優の身体を背後から強く抱き締めるかの様にした。
その上藍は、すっと優の髪に自分の顔を近づけ、唇を付けた。
「貴様…」
それを見て朝霧が柄を握り、怒りをあらわに沸々とさせ低く呟くと、藍が鼻でクスッと笑った。
「貴様の大切な主、貰って行く!」
「ハル!!!」
朝霧の叫びと共に又優の足元から風が吹いた。
それは藍が巻き起こしたもので、予告通り優と藍の足が地の中へ入り消えて行こうとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます