第21話桜の木の下

「私は、ずっと貴方に、貴方に又会える事を信じて生きてきました」



朝霧が、真っ直ぐ優を見詰めてくる。



薄紅色の花びらが舞う中のその言葉は、一瞬まるで愛の告白の様に聞こえて、優は慌ててそう思ってしまった事を否定した。



でも、こんなイケメンが、こんなシチュエーションでこんな事を言ったら、女子は当然、男だって誤解しても仕方ないと思う。



と、正当化する。



ただの幼馴染で、幕府からの命令で付いてくれているんだから。



だが、それ以前に、自分が春光だと言う実感も確信も無い。



「俺は、春光さんじゃ無いかもしれない」



つい、伏目になり、弱々しく本音が出てしまった。



もっと気を遣えば、取り繕う事も出来たのに…



「あなたは、間違い無く、観月春光です…」



柔らかい陽に照らされた、そう明言した朝霧の優しい笑顔が優の目に映った。



いつものクールさとのあまりのギャップに、優は一瞬ドキリとさせられた。



そして、思わず苦笑しながら、もし朝霧が現代に生を受けていたら、お上からの命だ一族の為だなどと四六時中優に縛られず、その恵まれた容姿で、もっともっと自由に合コンだデートだと恋愛も謳歌していただろうと思う。



不意に、玉の中で見た彼を思い出した。



もし、自分が春光で、あの血を飲ませたから、血の盟約までもが今も朝霧貴継の中に生きているなら、いつかそれだけでも解いてやれないだろうか?



今、こんな事を言っている場合じゃないかもしれないが、いつか束縛の鎖から、解き放ってやれないだろうか?



きっと、無理強いされたのだろう…あんな血を、自ら望んで誰も飲む訳がないのだから…









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