第6話四人の男3

又、剣が五口、地面に刺さっている。


その一口は、さっき見た観月の氷野江だと確信できる。


そして真ん中の、一段と美しくしい刀光。


あれは、あれは、自分を呼んでる。


優は手を伸ばしたが、それは突然、幻のように消えた。


ハっとして、優は布団の上で目が覚めた。


屋内は行灯の光で明るかったが、もうかなり遅い時間なのが分かる。


「御気分はどうですか?」


上から西宮が心配そうに、横たわっている優を見下ろしていた。


「俺、どうしたんだろう?頭を打ったりした訳じゃないのに」


「お疲れになっているのです…」


そう言って西宮は、苦笑して僅かに目尻を下げた。


彼の補助を受けながら、優は身体をゆっくりと起こした。


すると目の前に、朝霧と観月も座ってこちらを不安気に見ていた。


二人は何か同時に喋ろうとして唇を動かしかけたが、その時、定吉の明るい大きな声がした。


「お目覚めですか?どうです、お腹は減っておられませんか?」


生ける金剛力士の像の様な男は、何処から持って来たのか白の割烹着を着けて、菜箸を持っていた。


ギュルギュルー…


絶妙な間合いで優の腹が鳴った。


「あっ、えっ!」


なんでこのタイミング?


優は恥ずかしくて、真っ赤になって思わず下を向き、朝霧達も目を丸くした。


「さあ、飯にしましょう。何も恥ずかしくありませんぞ。もう長い間何も食べておられなかったんですから」


嬉しそうに、定吉が片目を閉じて見せた。


朝霧達も手伝い、布団の中で食事する優を囲み、五人分の配膳は手際良くすんだ。


「まさか、これ、全部定吉さんが?」


優は思わず驚くと、定吉が破顔した。


膳には、艷やかな米の炊き込みご飯や具沢山の煮物、かきたま汁や肉まであった。


翁夫婦の所の普段の食事も、白米や野菜や肉が沢山出たので、山奥の村にしては恵まれていると思ったがまた格別だった。


優が特に肉に目を奪われていると、膳前に座る定吉がおもむろに強い口調と共に彼を見た。


「どうか、勝吾とお呼び捨てください」


「それは、そんな事…」


優が戸惑うと、定吉は苦笑しながら小さい溜息をついた。


「これよりは、そうお呼び下さい。それより、冷めてしまいますよ。どうかお召し上がりください」


「あの、お爺さん達の食事は…」


自分だけが、こんな待遇を受けられない。


そう思い優が問いかけると、定吉が微笑んだ。


「大丈夫です。沢山作りましたから、夫婦にも、預かってもらっている家の家族にも、こちらと同じ食事を届けております。たいそう喜んでおりました。まだ沢山ありますから、主もお代わりなさってください。主は、食が細そうですから、沢山食べなくてわ」


主とは、自分の事なのだろうが…


どうも…


未だ納得できていないながらも、優は一応頷いた。


まず、素朴に焼いてタレをかけた肉から食べた。


この世界の江戸時代は、牛肉は解禁されていた。


「お口に合いますか?」


まるで犬が褒めてもらうのを待っているかのような目をしている定吉がなんだか可愛くて、優は呟いた。


「美味しい…」


いや、実際、本当に美味しかったのだ。


良かったと言い喜ぶ定吉を見て、西宮もくすりとして言った。


「勝吾はこんな見た目ですが、本当に料理が上手いですから」


「へぇ…」


納得しながら優が前を見ると、にこやかな三人と違い、ただ黙々と食事する朝霧と観月が居た。


さっきのいざこざを優が思いだすと、定吉はそれを察したようだった。


「ご心配なさらないでください、主。あんな風に掴み合うのは初めて見ましたが、お二人は幼馴染で仲がよろしいですから、何かあってもいつも知らぬ間に元に戻りますから」


「定吉…」


観月が低い声で、要らぬ事を言うなというように釘を刺した。


「幼馴染…」


優は、くすっと自然に笑みを零してしまった。


犬猿のなんちゃらみたいなのに以外で可愛いなと思いつつ、定吉が余りに気軽に言うから、安心していい気になったから。


「へ?」


優は間抜けな声を出した。


いつの間にか、彼の回りは箸を止め、何故か彼の顔を見詰めていたから。



「あっ、ごめんなさい。なんだか、安心して」


優は皆を見渡し、最後に朝霧と目が合うと、照れを誤魔化しながら急いで肉を口に入れた。


なんだか変な空気になったが、久々に意識せず笑ったかもしれない。


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