烏団と神馬町長対面する 1

 ──コンコン…

「はい」

 神馬権三町長はノックの音に反応した。

「失礼します」

 受付嬢がドアを開けて町長室にはいる。

「14:00にアポイントを取られているお客様をお連れしました」

「お入り頂いて下さい」

 ごんちゃんはそういうとデスクの椅子から立ち上がりドアのそばに行く。

 受付嬢が振り返り、ドアの向こうに声をかける。

「お入りください」

「ありがとうございます。失礼致します」

 外にいた二人の男たちが丁寧な口調で言ってドアをくぐる。


 ──そして、


ぬお!


ちまちま…


「(うっ)」


 ごんちゃんはその風体に圧倒された。

 二メートルはある身長、長髪、丸眼鏡、黒いスーツ。手に持っているシルクハットにマント。

 ごんちゃんは大男の胸くらいの身長しかない。それに隣に立つもう一人の男──ごんちゃんより身長が低く、ずんぐりむっくりでボテ腹だ。


「(な、なんと! )」


 少々圧倒されつつも、失礼のないように丁寧に言った。

「お待ちしておりました」

「貴重な時間を割いて頂き誠に感謝致します。私こういうものです」

 烏親方は名刺を差し出した。

 ごんちゃんは名刺を受け取ると、その長い肩書きを読み始めた。

 かまえる酒田。

「気象庁異常気象研究班…」

「とは無関係の」こそっと言った。

「…外郭団体特殊調査班電子工学研究部天文現象及び人間工学及び特殊機材研究所所長烏 破李阿・からす はりあ様ですな」

「ばりあです」

 烏親方が丁寧に修正した。

「失礼、からすばりあ様」

「ありがとうございます」

 烏親方が笑顔で言った。


 ごんちゃんは名刺を裏返して裏も見た。

 そこには、

『弁護士』と大きく印刷されていた。


「おや、弁護士さんでもあるんですか! 」

「はい、某最高学府の法律学科を卒業後一発で弁護士の国家試験に受かり、弁護士業務にも携わっております」

 実は烏親方は弁護士でもあり、科学者でもある。その前には『天才的な』がつく。

 頭脳超明晰、つまり頭がキレキレなのだ。

「こちらは副所長で助手のさかぐらです」

「酒田です」酒田が言った──頭脳超明晰なのになぜか名前を間違える。


「七月の異常気象についてお調べになっていると秘書からお聞きしてますが、それでよろしいかな」

「はい、その通りでございます」

「うむ、どれだけご協力出来るか分かりませんが、こちらへおかけください」

 ごんちゃんは町長室の中に置かれた応接セットに案内した。

「失礼致します」

 深々と頭を下げる烏親方と酒田。


 三人は応接ソファにテーブルを挟んで対面する形で座った。そしてごんちゃんは、いつもするようにテーブルの端に貰った名刺を置いた。そこに職員の女性がグラスに入れた麦茶と、この町の名産品である鬼もちを持ってきた。

「恐れいります」

 鬼もちが二つのった小皿を二つ、グラス二つ、並んで座っている客人の前におくと下がった。

「この町の名産品、鬼王神社参道で売っている鬼もちです、よろしければおめし上がり下さい」

「これはこれは御構いなく」


「で、どのような事を話せばいいのでしょう」

 ごんちゃんが話しを切り出した。

「はい、実はですな」

 烏親方が続ける。

「この間の7月の豪雨の時に、一瞬で厚い雨雲が消え去ったのはご存知ですな」


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